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第12話 ルート1.「入札で決めることにする」と言うなら

この小説には、選択肢はありません。

悪徳商人の言うことも、最もな部分がある。


戦士の心が戦士にしかわからないように、

商人には商人の心がわかるだろう。


入札で決める、となれば勇者の出番は特にない。

入札に関わる役所の人間を衛兵に呼びにいかせ、その場で待つのみである。

ドサクサに紛れて財産の持ち出しを許さないためだ。


十重二十重に囲んでいた市民達は、一斉に己の主人に知らせるか、自分の財産を確認するために急ぎ足で去っていく。


これだけの大店だ。

土地、建物、在庫に限らず、調度品や家具なども、相当な点数にのぼるに

違いない。王都は、しばらくは好景気に沸くことになるだろう。


「では、私はこれで・・・」と去ろうとするエチゴーヤの行く手は

光の剣に遮られる。


「ダメだ。とりあえず役人が来るまで、お前は動くな。

 妙な指示をされては面倒だ。」


悪徳商人は、観念したように両手をあげて座り込む。


実際、できるだけ財産と情報を隠すよう従業員に指示をするところだった

のだから、勇者の指示には妥当性があった。


「ねえ、勇者様。」とエチゴーヤが声をかける。

勇者は黙っていたが、悪徳商人は独白のように続ける。


「私は、30年かけて、この商売を大きくしてきました。

その間、人を騙したり悪いことをしていないとはいいません。

でも、それは戦士の方たちも同じではないですか?


戦士は人を殺しますが、

その時に騙し技や味方を囮に使ったりはしないのですか?

戦争で功を競う味方を陥れたりはしないのですか?


一流と言われる指揮官は、私ども商人から見ても、

相当に人の悪いお人がいるのではないですか。

そうでなければ、戦争では勝てないのではないのですか。


商人と戦士で、騙すことの重さは違うというのですか。」


勇者は商人の泣き言に取り合わなかった。


それでも勇者は、商人を悪である、との見方は変えていた。

つまり、商人は「悪」なのではなく「敗者」である、ということだった。


悪いから裁かれるのではない、負けたから裁かれるのだ。


「王宮の政治などに、手を出すべきではなかったな。」


勇者にとって、政治とは退屈と同じ意味だった。

正義が通るとは限らない、面倒臭い小物達の会議。

魔族の侵攻の際、成す術もなかった連中の、慰め合い。


商人は、俯いたまま言葉がなかった。



結局、エチゴーヤの財産は細切れに売却されたが、

その総額は1000億円に届かなかった。


長年の濫費らんぴで、多くの金貸しから借り入れた金が大きかったのと、

在庫の木綿が、想定以上に少なかったためだ。


調度品や家具も、金がかかってはいたが趣味が悪く

高値のつかないものが多かったのも大きい。


成り上がりの商店として、いろいろと無理があったようだ。

今回の失脚劇も、そのあたりに遠因があったのだろう。



後に勇者は、エチゴーヤが隣国に去って商売を始めたと風の噂に聞いた。


今日こんにちでは「勇者の糾弾」とは「温情ある判決」を意味する慣用句として伝わっている。


・・・Good End?

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