第10話 ルート1.「バカな!陰謀だ!」と叫ぶなら
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「バカな!陰謀だ!!」勇者は反射的に叫びつつ、その無意味さも感じていた。
「陰謀かどうかは、どうでもよろしい。
大人しく縛につかれるがよろしかろう。」
新しい商務大臣は、そう告げた。
王が濁った眼で黙ったまま勇者を見据える間に、
王宮の衛兵達がバラバラと槍を構えて駆けてきた。
政治的なことから距離を置いてきた勇者も、流石に事態を悟った。
つまりは、政治的な生け贄なのだ。
魔族の侵攻に際して、王族が無力であったこと、戦争で財政が悪化したこと、
有産市民の財産を没収し、同時に政治的発言力を削ぐこと、
そして何よりも、大戦で活躍しすぎた勇者という名を汚し、排除すること。
自らの失態を糊塗し、王権を強化すること、
それしか、この豚共の頭にはないのだ。
勇者は、彼らを「悪」であると断じた。
「正義の敵」である。
その瞬間、勇者の光の剣が輝きを強めはじめた。
数秒後には見つめることさえもできない、強大な輝きを放ち続ける。
その物理的な圧力さえ感じさせる凶暴な光流の中で、
勇者は厳かな声で王と大臣に告げる。
「お前達は、悪である。この世から消えるべきである。」
王と大臣は魔族との戦争で前線に出たこともなかったし、
勇者が魔族と戦うところを直接見たこともなかった。
だから、勇者が数十メートルもある龍を光の剣で、頭から尾の先まで、
縦に真っ二つにしたところも見なかったし、
地平線まで続く魔族の軍団を勇者が一人で、光の剣で薙ぎ払ったところも
見たことがなかった。
もし、それらの光景を見たことがあったら、このような無謀な賭けに
出なかったであろう。
王と大臣は、まさしく光龍の逆鱗に触れたのだ。
その日、王国から王城と王の一族が、この世から消え去った。
王城の跡地には、底の深さも見えない大きな穴が残り、周囲は300年の後でも
立入禁止となっている。
この国では「勇者の糾弾」という言葉は「小利のために龍の逆鱗に触れる」という慣用句となって残っている。
Good End?




