第00話 クライマックスにしてプロローグ
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複数のエンディングがあります。
それは、悠久の歴史を持つ王国での一幕。
異世界勇者の召喚により巻き起こされた、王国と貴族の争い、現商務大臣の腐敗と不正の暴露、
大臣と結託していた木綿商店の没落という一連の事件は、そのクライマックスを迎えようとしていた・・・。
王都の貴族街近くに構えられた商店には、勇者と店主が対峙し、
大勢の市民が固唾を飲んで、正義が執行される瞬間を芝居でも見るかのように
十重二十重に取り囲んでいた。
異世界からの勇者は光の剣を突き付け、声も高らかに糾弾する。
「木綿商商店の悪徳商人エチゴーヤ!!お前の腐敗と悪事は、すでに明白!!
即刻、この王都から退去するがいい!」
エチゴーヤとて、一代で商店を立ち上げた立志伝中の人である。
ポッとでの若造にしてやられてばかりではない。
エチゴーヤは問いかける。
「わかりました。それでは退去いたします。
ところで、いかほど補償をいただけるので?」
勇者は蔑んだ目で吐き捨てる。
「補償とはなんだ?金が欲しいのか?いくらだ?」
エチゴーヤは心中でほくそ笑む。
異世界勇者は「金勘定のわからぬアホである」と。
宮中の政治では敗れた。
しかしギャラリーの市民の多くは有産階級であり、殆どは自身も
商売をしているのである。
この場で切り捨てられることはあるまい。
エチゴーヤは朗々と市民たちに聞こえるよう問いかける。
「そうです。私共はこの通り、王都の一等地に店舗を構えております。
店舗は昨年建て替えたばかりで建材は他国から輸入し、
細工には一流の職人を雇いました。
また商店を利用して下さるお客様を多く抱えております。
倉庫には多くの在庫がございます。
従業員にも暇を出さねばなりません。彼らに罪はなく
身一つで放り出せというのでしょうか?」
周囲の市民たちは、かすかにざわめく。確かにエチゴーヤに道理がある。
そもそも商務大臣への賄賂は多かれ少なかれ、大手の商店であれば
支払っているものである。
王都で商売の許可を得るための必要経費であり、必要悪とも言える。
それを放置してきた王が有産階級たる市民を切り捨てるのか。
にわかに風向きの変わった市民たちの声に勇者は困惑する。
「では、いくら欲しいのだ?」
エチゴーヤの心中の笑みは、ますます深くなる。
「こいつは勇者ではない。カモ勇者だ」と。
「そうですな。土地代金で王都金貨300万枚。店舗の上物が100万枚。
取引先の情報が800万枚。在庫が400万枚。
従業員への一時金が50万枚。
それに王都での商業許可で1000万枚。
合わせて2650万枚、といったところですな。」
それは日本円にして2650億円にものぼる大金。
(作者注:以降、億円と表示します。)
異世界勇者が王宮から受け取る年金の、実に3000倍である。
勇者は叫ぶ。
「バカな!そんな大金があるわけないだろう!」
エチゴーヤは、ギャラリーに見えるよう大きく肩をすくめ、
身振りも大きく問いかける。
「大金ではありません。私の商店は王都を始めとして王国全体に木綿を
流通させる大店。
昨年の売り上げは王都金貨で600億円。
それだけの大店を資産を含めて買い取ろうというのです。
それぐらいは相場ではありませんか?
まさか、勇者様ともあろう方が剣で強盗をなさろうというのですか?」
勇者は追い詰められる。正直なところ、剣で追い払って終わりだと思っていた。
エチゴーヤは悪であり、自分は正義である。
であれば、自分が一声かければ周囲は味方につき、相手は恐れ入る。
そうなるはずではなかったか。
だが、今の状況はどうだ。周囲は悪徳商人の言い分に頷くばかり。
何よりエチゴーヤの言には道理がある。
勇者は剣を握る手の平がじっとりと汗ばむのを感じる。
自分はどうすべきだろうか?
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ルート2.「なるほど、言い値を払おう」と答える ⇒ 2話へ
ルート3.「金銭のことは自分にはわからない」と答える ⇒ 3話へ
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