不死身の群
洞窟内は静謐に包まれていた。物音は1つもしない。ただ俺たちの歩く音だけが、静かに響き渡っていくのみ。
心なしか寒い気もした。ただその寒さというのは、間違っても不気味な寒さではない。熱い身体を癒してくれるような、涼しげな寒さである。心地の良い気温。ずっとここにいたいぐらい。ペットボトルを持ってきて、ここの空気を集めるのも良いかもしれない。それで外に持ち帰る!
全部が全部、今の俺の本心ではないが。身体が濡れた状態でなければ、本心になりえたかもしれない。が、身体が濡れた状態では、涼しさなど鬱陶しいだけだ。なにを使ってでももいいから、洞窟内の温度を上げてほしい。本当になんでも良いんだ。巨大なストーブでも、巨大な暖房でも。なんなら電気カーペットでも構わない。
このままだと、少女と一緒に風邪を引いてしまいそうなのだ。
俺は思わず身震いをしてから、少女にあることを聞いてみた。
「そういえば、結局ゾンビっていうのはなんなんだ? ほら、さっき、聞きそびれちゃったからさ……地面が、いきなり崩れて」
「……どうしても教えて欲しい?」
「ああ、教えて欲しい」
洞窟の中を進みながら、俺は隣で歩く少女に向かって言った。
「……でも、教えてあげない」
意地悪く、俺の瞳を見つめて笑う少女。その少女の反応に対して、俺は
「なんでやねん!」とノリツッコミを返していた。
「……まあ、ウソだから安心して」
「なんだよ……」
「……貴殿は一瞬でもだまされた?」
「ん、まあ、騙されたと言えば騙されたな。まさかおまえが、頼みを断ってくるとは思わなかったからさ」
「……ふっ、作戦成功」
隣で、少女は『してっやたり』というような顔をした。普通ならイラッとくるような表情。だがなぜか、少女がやるとそんなことは無かった。むしろ可愛いぐらいだ。もう1回、いや、何回もお目にしたいぐらいである。
ということで、と少女は前置きをして、
「今から、ゾンビについての説明をしてあげる」
「頼んだ」
と俺が言って、少女は訥々と説明を開始した。
俺はその説明を、ときには驚いたり、ときには相槌を打ったりしながら聞いていた。
説明は20分ほどで終わった。
その説明の内容を、俺がまとめるとこうなる。
まずゾンビというのは、突然現れた生物である。根源はどう調査しようとも不明。そのゾンビの特徴は、不死身に近い身体を持っているということだ。心臓を貫かれても死なない。たとえ、どんな痛みを与えられよともビクともしない。もし身体が破損したりすれば、2分以内には完治してしまうという。さらに、どんな病気にだって掛からないそうだ。症状だってでないらしい。
だがそんなゾンビにも、1つだけ欠点があるという。それは、身体をほぼ完全に消滅させることだ。ただし、肉が一片、血が一滴、この程度が残っただけではそのまま消滅するそうだが、大きな肉塊が1つでも残っていれば、再生は開始されるという。ということはつまり俺がナイフで首を落としたゾンビは、倒していたと思ったのに、そうではなかったということだ。
もはや驚嘆に値するほどの生命力である。ゴキブリなんて、比にならない。アリとゾウで大きさで比べるようなものだ。
と……話がそれてしまったな、話を戻そう。
少女の話によれば、さきほど挙げた以外に、ゾンビは恐ろしい能力をもう1つ秘めているそうだ。それは、噛んだ相手を自分と同じゾンビにするという、とてもドキツイ能力だった。噛まれた場合は、およそ2時間~6時間の間に、ゾンビになってしまいそう。助かる確率は……ほぼ、0だという。