たんこぶができたのはお前のせいだ!
「……ね、これでわかってくれた? この新聞は発効日が2078年になってるけど……そこはまあ、ご愛嬌ということで……」
「あ、ああ、確かにこの新聞の発効日は2078年だが、これでもう、今が2030年じゃないのは確か……」
ということはつまり……
(俺がタイムスリップしてしまったとうわけか!?)
過去じゃなくて未来の方へ。
う~む……なんとも現実味に欠ける話だが、少女が持ち出してきた新聞は本物のようだし、認めざるを得ないだろう。あんな短時間で、少女が新聞を刷れるとも思えない。俺の監視もついていたことだし。
どうやら俺は本当に、タイムスリップをしてしまったようだ。
困ったな……。
最悪だ……。
家に帰りたいよう。
まだクリアしてないゲームだってあるし、来週は友達との約束もある。宿題だってまだ終わっていない。
見る予定だったテレビ番組もある。
親だってさぞかし心配するだろう。
なにより、未知の世界は途轍もなく怖い。なにが出てくるかわからないし、自分の帰る場所だってないのである。周りの人だって知らない人ばかりで、知人は1人もいない。自分は完全なる孤独。
だから元の世界に戻りたい。なんとしてでも戻りたい。なんでもやるから戻りたい。未来の世界になんて居たくない。
未来の世界なんてイヤだ!
イヤだ……イヤだ……イヤだ……。
神様仏様、これからは良い子にしますから! もし、いじめられている子がいたら助けますから! 嫌いな食べ物だって残しません!
だから、どうか、どうか、自分を元の世界に戻してください!
お願いします!
お願いします!
とまあ……こんな具合に、未来の世界に行ってしまったら、大多数の人々は思ってしまうことだろう。恥じることはない。いきなり自分だけ未来の世界に来てしまったのだから、取り乱してしまうのも、当然というものだ。
だけど……俺は違う。
元の世界に帰りたいとは思わない。むしろこの世界に留まっても良いとすら思う。
だって、この世界の方がよっぽど美しい。
あんな、醜かった世界よりもはよっぽど……。と言っても、まだこの世界のことはよくわからないのだけれど。ちょっと前に、飛ばされてきたばかりだし。
だけど、何度も言うが、元いた世界よりもはよっぽどいい。例え、この世界が地獄のような場所だったとしても……。
ということで、俺はこの世界に居住しようと思う。最初は旅みたいになってしまうかもしれないけれど、別に構わない。幸い、俺にはあるていどの武器があることだし、多少の困難、いや、絶望的な困難だって乗り越えてやるさ。
絶対に大丈夫。
「ねぇ、そんな顔してどうしたの……?」
と、現実へ引き戻してくれるような少女の声。その声には、気に掛けてくれているような雰囲気が含まれていた。
思考に没頭するあまり、深刻な顔、または奇怪な顔、俺はそのような顔をしていたようである。可能性としては、恐ろしい顔というのもありえる。
その中ではどれが1番マシな顔だろうか?
俺は無言で考えて、それから緩慢な動作で顔を上げた。
途端に飛び込んでくる少女の顔。
「――うおっ!!」
叩かれたように後ろへ仰け反った。少女の可愛い顔が、思ったよりも近くにあったからである。
おかげ俺は岩から落ちた。
重力に逆らうことは当然できない。そのまま後ろ向きで落下して、したたか地面に頭を打った。思っていたよりも痛い。
ゴツンという岩を殴ったような音だって鳴った。余裕で、頭にたんこぶが出来たことだろう。
「……バカなの?」
岩から落ちる原因を作った張本人は、音もなく歩いてきて、呆れたような声音ででそう言った。
それに対して俺が、「いや、おまえのせいだからな!」と抗議しかけようとしたときだった。
ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ――