俺は女の子が苦手
「だ、大丈夫か……?」
ぺたんと座り込んでいる少女に、俺はおずおずと声を掛けた。威勢よく助けだしたはいいものの、俺は女の子が苦手なのだ。――いや、それだとちょっと語弊があるか。訂正しよう。
俺はかなり、女の子と会話をするのが苦手だ。ときには声だって小さくなってしまう。心臓がバクバク、緊張をしてしまうことだって多々ある。
キョドリすぎて、噛んでしまうことだってよくあり過ぎる。
なんで俺がこんな体質になってしまうかというと……それはまあ、簡単には説明できない理由があるんだ。今説明しようとすれば、1時間以上掛かるのは必須だろう。だから、ここでは説明しない。
また今度。
「……大丈夫。ありがとう」
少女は立ちあがりながら、俺にお礼を述べていた。
嬉しい。
当たり前のことではあるのだが、俺も1人の人間、お礼を言われて嬉しくないわけがない。もっと、もっとお礼をくれ! そんなことを目の前の少女に言いたいぐらいだ。俺のコミュ力がもっと高かったらな……。
はあ……。
胸中で溜息をつきつつ、チラッと少女のことを盗み見た。あくまでもチラッとだ。ここ大事。
(なっ……)
お礼を述べた少女をチラッと盗み見た俺は、大仰すぎるほどに絶句した。自分で思う、無理もないと。網膜に飛び込んできた少女の容姿が、予想以上にズバ抜けていたからである。
可愛すぎるのだ。
俺は今までに何人の女の子を見てきたが、目の前に立つ少女は別格だった。もはや別次元。
幼い容姿に綺麗な髪。髪は、ちょうど腰の上辺りまで伸びている。
大きな瞳は、海のような青色だった。見惚れるほどに澄んでいて、淀んだ様子はまったくない。
肌は初雪のように真っ白だった。にも拘らず、病的な印象を与えてこない。むしろ、俺なんかよりも健康そうに見えるのはなぜだろうか。
肝心の身長は152センチぐらい。
俺が思えるにベストな身長だった。
「……ねぇ、なんでそんなにジロジロ見てるの?」
「え、あ、ああ、悪い……」
俺としたが、盗み見るつもりだったのに、少女を凝視してしまったようである。なにやってるだんか……。ついさっき、あくまでもチラッとだ、ここ大事とか自分で言っていたくせに。
(あれもこれも、少女が可愛いすぎるのがいけないんだな!)
うん、そうしよう。
俺はなにも悪くない。
自分で勝手に結論付けながら、名残を惜しむように、俺は少女から視線を剥がす。
「……ちょっとこっち来て」
「ん、ん、ん?」
俺の片腕は少女の片腕に掴まれた。ほんわかとした温かみが伝わってくる。腐った死体とは大違いだ。腐った死体の掌は、そりゃもう、絶対零度のように冷たかったからな。
俺の腕を掴む少女の腕は、俺とは比べもものにならいほど、握力という物がなかった。絶対、振りほどこうと思えば振りほどける。
けどそんなことは必ずしない。神に誓ってもいい。
少女はとても悪そうな人には見えなくて、俺を、危ない場所に連れ去ろうとしているとは思えないからだ。連れていかれた先は、やんちゃお兄さん達の巣窟! そんなことは、多分ないだろう。
なによな……?
俺がちょっとした疑惑に取り付かれていると、ふと、長髪の少女は足を止めた。
目的地に着いたらしい。
と言っても、その目的地とやらは、俺が腐った死体を倒した場所からはあまり離れていない。
せいぜい、30メートルとちょっと言ったところだろう。
目的地というのは洞窟だった。
トイレットペーパーの芯のような大穴が空いていて、暗くて中はよく見えない。不気味な感じを醸し出していた。
今にもモンスターとかが出てきそうだ。
特にコウモリ型の奴。
「今から中に入るけど……ついて来てくれる?」
その少女の質問に、あろうことか、俺は「へ、ヘイ!」と返答してしまった。明らかに声が上擦っていた。
頬が熱くなってくるのを感じる……。
「……へ、ヘイ、って、なに?」
案の定、少女はそんなことを聞いてきた。できれば、スルーして欲しかったのだが。というか、「へ、ヘイ!」が、肯定を示すことぐらい察してくれよ!
などと思いつつ、俺は、「『りょ、了解』ってことだよ」と少女に言った。
「……つまり、着いてきてくれるってこと?」
「まあ、そうだな」
「……よかった、じゃあ、わたしの後ろについてきて」
「了解」
俺の返事を受け取って、少女は悠々と洞窟の中に向かっていった。その後ろを、俺は一定の距離を保ってついていく。