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拳銃使いのデッドナイト  作者: 夜風リク
14/15

不思議

 外は町だった。俺が、最初飛ばされてきた村なんかよりもは、遥かに規模が大きい。

 ただこの町も、廃墟のように古びている。

 伸びる道には亀裂が走り、何かの拍子で割れてしまいそうなほど。そんな道の上には、幾多の車が乗っていた。どれも風化して錆びている。フロントガラスは朽ちて割れ、色はひどく褪せていた。


 扉が無くなっているのもある。中のイスだけ抜き取られているのもあったりして、とにかく悲惨な有様だった。

 その車を挟むようしてあるのは、数多のビル。コンクリートがむき出しの壁に、剥げ落ちた塗装。

 そのビル全てに共通することは、斜めに傾いでいるということだ。


「こりゃ、ひどいな……」

 あまりの惨さを見て、俺の口からはそんな言葉が零れ出る。


「これも、ゾンビとやらのせいだったりするのか?」


「……うん、まあ、ゾンビのせいでもあるけど、人間のせいでもある」


「どういうことだ?」


 人間が自ら、自分の壊したとでも言うのか? んなバカな。そこまで人間は愚かでないと願いたい。


 少女は言った。

「……ゾンビが発生したときは、全ての町が混乱して、警察や軍も混乱した。だからこの世界からは、規律が無くなってしまった。こうなると、どうなるかわかる? 人が、法に縛られなくなると……?」


「自由になる?」


「……それで、悪いことをしても罰を受けないとすれば?」


「ああ……」


 少女の言わんとしていることがわかった。

 世界は混乱して、無秩序な世界となった。悪いことをしても、誰にも咎めらない。とすれば、悪いことをしたかったけれど、罰を受けるのはイヤだ、という理由で今までは普通にしていた奴らが、頭角を現してくる。軍も警察もいないのだから、もはややりたい放題だ。


 やんちゃな奴らが店の物を奪ったり、人の車の中身を奪ったり、ビルを荒らしたりしたのだろう。

 まさに荒廃した世界だな。

 ゲームではありがちな設定だが、まさか現実で起こるとは思わなかった。世の中、何が起こるかわからないものだな。


 適当に思っていると、

「……どう、わかった?」


「ああ。けど単純に、ビルが朽ちていたりするのは、年月の影響もあったりするんだろ? ほら、人の手が加わらない人工物は、すぐに朽ちるとかよくいうしさ」


「まあ、それもあると思う……」と少女。


 それから歩き出す。

 ずっと立ち止まっているのも時間の無駄だと思ったのだろう、「ついてきて」と言って少女は俺の前を行く。

 俺も歩いて少女の横につく。にしても、歩くのは疲れた。何かあればいいのに。馬とか、そこらへんに落ちているやつではない最新の車とか。


「けどおまえ、よくこんな荒廃した世界で生きてこれたな」


 俺は周囲を眺めながら、感慨を込めてそう言った。

 少女はまだ年端も行かない女の子だ。

 いくら魔法が使えると言っても、こんな混沌した世界で行きぬくには、かなりの苦労を要しただろう。ゾンビなんて神出鬼没、たがが外れたヤバそうな奴だっているようだしさ。文明も俺がいた時代に比べて、衰退してようだし。俺でも、こんな世界を生き抜くには困難を要するだろう。

 一日一日が命がけである。


 少女は遠い眼をして、

「色々な人に助けてもらったから……」


「色々な人?」


「……うん。0~11歳までは、生みの親である家族に助けてもらってた。お父さんとお母さん。ゾンビが現れてからは、朝から夜まで食料を探してくれて、わたしに食べさせてくれていた。でもある日を境に、帰ってこなくなった……。それで11歳~14歳までの間は、途方に暮れていたわたしを引き取ってくれた、よくわからない組織に入ってた。その組織は世界の復興を目標として掲げていたけど、本当がどうかはわからない。でも、わたしがその人達に助けられたのは確か。ある日突然、全員いなくなっちゃったけど……。1人、わたしだけを残して」


「いなくなった?」


 それは妙な話だ。

 ただ、家族云々の話については、絶対に触れないようにしようと思った。少女が、安い同情を求めているような気がしなかったからである。それになにより、俺は、家族を失った子に対して掛ける言葉がわからなかった。家族とはどういうものなのか、それが俺にはわからないからだ。――いや、知識としては知っている。でもそれだけ。

 それ以上の事は露ほどもわからない。


 少女は歩きながら言った。

「……うん、いなくなった。わたしにはなんにも知らされなくて、本当に唐突に、忽然と姿を消した」


「不思議な話だな……」


 怪奇現象でも起きたのだろうか?


「……たぶん、組織のみんなは、わたしに愛想を尽かしたんだと思う」


「――なんで?」

 俺は堪らず聞き返す。


「だってそのときのわたしは、魔法も使えなくて、ただの役立たずだった。ほかのみんなは魔法を使えるのに、わたしだけ使えなかった。わたしだけ1人、戦えなかった。筋力もまったくなかったから、剣を振るうこともできなかった」


「なるほど……」

 と俺は頷き、

「けどまあ多分、俺は勝手に消えたりしないから、それは安心してくれ。どうせ、目的もないもなしな。元の世界にだって戻る気は当然ない。それにほら、おまえ可愛いからさ、俺的には手放したくないわけよ。はっきり言って、ずっと一緒にいたいぐらいだな、うん」


 これは俺の本心だ。

 虚飾はなに1つしていない。

 少女が拒まないのならずっと、俺は、少女と一緒にいて良いと思う。1人になる理由だって、今のところ何もないしさ。

 それでもさっき「多分」と言ってしまったのは、世の中なにが起こるかわからないからだ。と言っても、そんなことが起こる確率は、ほぼ0に等しいとは思うけどな。


「……今のは告白?」


「――ば、ちげぇよ!」


 少女の予想外の一言に、俺は慌てながらも否定する。俺に、告白なんてできるわけがないのだ。彼女を作る気だって、露ほどもないしさ。どれほど少女が可愛くて性格が良かったとしても、その信念が変わることはありえない。彼女を持ったら負け、そんな定理が俺の中に住み着いているからである。なぜか? 俺が、恋愛映画に出てくるような主人公を、疎ましく思っているからだ。

 恋愛ごとに悔やんでいる姿を見ると、吐き気が込み上げてくる。

 彼女ができてハッピーになっている姿を見ても、吐き気が込み上げてくる。

 絶対に俺は、こんな奴のようにはならないと心を決めているのだ。


 一瞬、少女は憂い顔をして、

「……そう。でも、ありがとう」


「ん、ああ、どういたしまして」


 俺はちょこっとだけ頭を下げた。

 ややあってから前方に大量の車。

 横一列に配置されていてどれも、ボロボロに輪を掛けたようなボロボロさだった。

 俺たちの道を、まるで通せん坊するように点在している。

一応、一番端まで行けば迂回も可能そうだったが、あまりに距離がありすぎる。俺たちの場所から一番端までは、ゆうに200メートルはありそうなのだ。


(それならば……)


 少女と一言交わしたあと、俺は車の窓枠に足を引っ掛け、腕の力も使って車の上に登った。

 見晴らしは別によくない。

 まあ車に登ったと言っても、1メートルぐらいしか高さは変わらないからな。

 一歩少女は、躍起になって頑張って車に登ろうとしているようだが――苦戦していた。面白いのでちょっとだけ眺めることにする。

 少女は身体が硬いのかわからないが、どう工夫しようとも、窓枠に足が掛からないようだった。だからと言って筋力のない少女では、膂力で車に登ることもできないだろう。さて、どうする!?


10分後……。


「…………」

 窓枠に足を掛けられない少女は、未だに車に登れていなかった。登れる気配すらない。このままだと、なんか日が暮れてしまいそうだ。

 それはまずい。

 危機感をありありと感じ取った俺は、助け舟を出すことにした。

 なんと優しいことに、少女に手を差し伸べてあげたのだ。

 イケメンプレー!!

 

 少女はなぜか俺を恨めがましい目で睨んだあと、小さな手で、俺の手を握った。まるで赤ちゃんのように、柔らかくて弱々しい手だった。

 ヨイショ、と掛け声を上げて、俺は力一杯少女を持ち上げた。少女はあまり重くなかった。

 見た目と体重は反しないようである。

 俺に持ち上げられた少女は、無事車の上に着地した。




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