ラグナ・イスティア
他愛もない雑談を挟みながら、俺と少女は、洞窟の中を更に進み続けていた。出口が見える気配は今のところない。もしこのまま出口が見つからなかったら……そんなことは考えたくもない。
俺は邪魔な思考を打ち払うように、強く頭を振った。
すると発見した。
それは綺麗な鉱物だった。
壁際に、水晶のように生えている。その数はかなり多い。簡単には、数え切れないほどだった。
種類は2種類。
中に、燃え上がる炎を閉じこめたような鉱物と、中に、吹き荒れる吹雪を閉じ込めたような鉱物だ。どちらも猛々しくて、不思議なオーラを放っている。珍しいものなのだろうか?
少なくとも、俺はこんな鉱物を見たことがない。ここに来て、初めて目に留めた。
気になったので、少女に聞いてみることにした。
「なあ」
「……なに?」
「ここに今生えている鉱物って、どんな鉱物なんだ?」
「これ……?」
少女はその鉱物を示してみせる。
それだ、と俺は頷いた。「珍しいものだったりするのか?」
少女はかぶりを振った。
「……ちがう、ここに生えている鉱物は、珍しいものでも、希少価値のある物でもない。割とどこにでもある鉱物。探そうと思えば、すぐに見つかる」
「なるほど……」
希少価値のあるものだったりしたら、記念に持ち帰えろうと思ったのだが。無価値の鉱物ならば、やめておこう。ただ無闇に荷物が増えるだけだ。道具などを持っていたりして、俺の荷はただでさえ重いのである。リュティノスFEは、一丁だけで200グラムほどの重量。レッドファイに限っては、なんと600グラムの重量がある。ハンドガンの中では、ぶっちぎりの一番だ。
最初の頃は持つのさえままならなかったのに、今では発砲できるようまでになった。自分でも、かなり努力したと思う。
などとしんみり回顧しながら、俺は平常な声で尋ねた。
「ちなみにこの鉱物、中で渦巻いている炎とか吹雪とかは、一体なんなんだ?」
持ち帰るのはやめにしておいたが、今俺が言ったようなことは、ちょっとだけ知りたかった。
少女は一瞬、思い出すような表情をして、
「……中で渦巻いているのは確か、魔力の残滓とかだったと思う」
「魔力の残滓?」
「……そう、ちなみにこの鉱物は、〈ラグナ・イスティア〉というのだけれど、〈ラグナ・イスティア〉は、魔力の残滓を取り込んだ石だと言われている。だから〈ラグナ・イスティア〉は、こういう風にできる。――まず、1つの石がありました」
「うん」
俺は相槌を打っておく。なんとなく、そうしないといけないような気がしたからだ。
少女は俺に向かって、ありがとうとでも言う風に微笑んだあと言葉を続けた。
「……で、その罪も無いただの石が、なんの因果か、ある魔法の巻き沿いをくらいました。だけど幸運なことに、魔法は石を直撃せず、掠っただけに留まりました。それでなんとか石は、生き残ることができました。そうすると、〈ラグナ・イスティ〉ができるのです」
「つまり、〈ラグナ・イスティア〉は、魔法が当たったけど、それでも破壊されなかった石の成れ果てということか?」
「……そういうこと。理解が早くて助かる」
「それは褒めてるのか?」
「……もちろん」
「そうか、ならありがとう」
俺はお礼を言った。
洞窟の道はまだまだ続いている。
コウモリなどはもういないが時折、上の天井からは、水滴が落ちてくる。顔に当たれば当然冷たい。
あれからも道を歩き続けた。まさしく、永遠にも思えるような道のりだった。なんせ、道がアスレッチクのようになっていたのである。ただアスレチックと言っても、それは安全なアスレチックではない。
人の手が一切施されていない、危険なアスレッチクである。
正真正銘の天然ものだ。