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拳銃使いのデッドナイト  作者: 夜風リク
1/15

そこは見知らぬ場所

目を覚ますと、そこは廃墟のような町だった。扉がぶっ壊れている家もあれば、窓ガラスが割れている家もある。屋根が壊れている家もある。

 どれもボロボロだった。

 とても侘しい風が吹いていた。

 空は曇天。

 厚く雨雲が垂れ込めていた。

 今にも雨が降り出しそうだった。

 でもなんで?


 なんで俺がここにいるのか、その理由がまったくわからなかった。いくら脳に検索をかけようとも、わかる気配すらない。

 数時間前俺は確かに、自分の部屋で布団を掛けて寝た。消灯することも忘れていなかった。おやすみの挨拶はしなかった。睡魔はすぐにやってきた。


(う~む……)

 

 どれほど記憶を辿ろうとも、やはり、俺がこんな場所にいる理由がわからない。

 周りにある古びた家。

 未だに理由はわからないままだったが、とりあえず、家の中を探索しようか。もしかしたら、家の中に何か手がかりがあるはずだ。

 俺は一縷の望みを抱いて、ある家の前まで歩を進めた。

 

 その家は2階立てだった。

 ドアの前まで行くと、錆びたドアノブに手を掛けた。そのまま引く。が、ここでアクシデントが発生。由々しきことに、扉が引いても引いても開かないのだ。本気の力を出してもダメだった。


(どうする俺!?)

 

 自分に問う俺。数秒のあいだ熟考して、結局アレを使うことにした。アレ――すなわち銃を使うことにしたのである。

 

 俺は銃を3つも持っていた。

 その中から1つ――片手で腰のホルスターに収まっているのを抜き出した。

 その名も――レッドファイア。

 レッドアームズ社製最高傑作のハンドガンである。素晴らしき持ち心地と、鋼鉄をもブチ抜く威力が特長だ。重さは300グラムほど。とても流麗なデザインをしている。色は光沢の掛かった黒だった。

 レッドファイアはホワイトバージョンもあるが、お金がなかったので、俺はブラックバージョンしか持っていない。

 

 悲しいかな、しみじみと呟きながら、俺はレッドファイアを構えた。

 目標ドア。

 準備はOK

 問題は0。

 発砲!!

 

 耳を聾するほどの銃声が響き渡った。

 錆び付いたドアは、弾かれたように後方へぶっ飛んだ。真ん中には巨大な風穴が空いている。恐ろしい威力だった。

 流石だった。威力が売りの、レッドファイアなことだけある。撃ったときの反動は、ひっくり返るぐらいすごかったけれど。

 俺は、腰のホルスターにレッドファイアを片手で戻した。

 そして、悠々と家の中に入っていった。



 家の中は凄まじかった。

 ひどい腐臭がする。

家具は見事にバラバラだった。木製のタンスは無様に倒れ、中身を派手にぶちまけていた。机だって倒れている。元は花瓶だったであろうものは、今やただの破片となっていた。近くに落ちている花は枯れていた。

 ホコリの積もった床には、色々な物が散乱していた。CDのような物、様々なサイズの本。


(おや……?)

 

 その中から俺は、一際目を引くものを発見してしまった。それはB6サイズの本だった。分厚いハードカバーだった。世にも豪華な装飾が施されていた。


(こういうのは、結構お高いんだよな……)


 俺は自分の腰を屈めて、両手でその本を取ってみた。ズシリと重い。ちょっとだけ、かび臭いような匂いもした。

 俺は本に付いたホコリを払ってから、おもむろにページをめくってみた。


「な、に……!?」

 

 ショックだった。期待しながら文字に目を走らせたものの、その文字が読めなかったからである。決して、俺の言語能力が低かったからではない。書いてある文字が、ルーン文字みたいな、古代文字みたいな、奇奇怪怪とした文字だったからである。解読不能だった。


(……なんだよ!!)

 

 内心で叫び声を上げながらも、俺は本をそっと元の場所に戻した。そっと、そっと、丁寧に……。幾ら字が読めなかったからと言って、ポイ捨ての如く物は投げていけない。

 物は、大事に扱わないと。

 

 などと真面目に考えながら、俺はその場から動き出した。

向かうは階段。1階は特になにもなさそうだったので、2階へ向かってみることにしたのだ。

 

 右足から階段に足を掛けてみると、ミシィ……という危ない音が鳴った。どうやら、とても朽ちているようだった。試しに強く蹴ってみると、案の定、階段の一部が壊れてしまった。蹴った自分の足はちょっと痛かった。

 やらなきゃ良かった……。

 俺は後悔を噛み締めつつ、ずしずしと階段を上っていった。その道中、小さなキノコを発見した。見たことが一度もないキノコだった。銀色で、随所に赤の斑点があるキノコだった。

 

 2階に着いた。

 階段は20段ぐらい上ったと思う。

 苦労せずに着いた2階には、幾つかの部屋が点在していた。ざっと見て、6つぐらいはあるだろうか?

 俺は考えもなしに、その中の1つに向かっていった。

 扉を開けて中に入る。

 その途端だった。

 

 思わず鼻を摘まみたくなるような腐臭が、俺に襲い掛かってきた。これは堪らない。あまりの臭いに耐えかねて、俺は部屋から飛び出そうとしたのだが――


「あ……」

 

 撤退しようとした足を、寸でのところで止めた。ある物が視界に飛び込んできて、それから、視線が外せなくなってしまったからだった。

 それは死体だった。

 すでに腐っていた。

 周りには蝿がうるさく飛び交っている。

 腕はもうほとんどが骨になっていた。肉は、数グラムも残っていなかった。ただその肉も、今は生気の宿った赤ではない。腐りきった証拠となる、黒の混ざった茶色だ。

 

 気持ち悪かった。

 自分でも、なぜこんなものに視線が釘付けになったのかわからない。こんな物、本当は見たくないのに……。


(よし、この家から出よう)

 

 もう気味が悪くてしょうがなかった。

 俺はくるりと踵を返す。

 ドアの前へ着くなりドアを開け放った。

 階段は全速力で駆け降りた。

 そして家を飛び出した。



 家の外に出てみると、辺りは夜の濃さを増していた。薄闇が、包囲するように俺の周りを囲んでいる。

 空も暗くなっていた。

 雲が掛かっていて星は見つけられないが、半月は発見することができた。黄色掛かっている。綺麗な淡い光を発していた。


(と、それよりも……)

 

 不幸なことに、俺は家の外に出てから、イヤな予感を感じ取っていた。脳が警鐘を発している。

 1秒でもはやく、この場から立ち退いた方がいいと……。

 なぜ、そんな予感はするかはわからなかったが。

 それでも、自分の本能には従順に従うべきだろう。幸い、この町に残ってわざわざやることだってない。

 

 俺は周囲に気を配りつつ、出口がありそうな方へ足を向けた。

 歩く。

 やっぱり走ることにした。

 

するとそのときだった。


(ん……?)

 

 どこからか、まるで悲痛を嘆くような、そんな耳障りな声が聞こえてきた。それも1つではない。四方八方からだった。

 空には真っ黒い鳥が飛んでいた。それはカラスようでありながら、絶対にカラスではなかった。カラスなら黒いはずの目が、そいつの場合、鮮血のように真っ赤だったのだ。

 

 悲痛な叫び声は、まだひっきりなしに続いている。

 心なしか、こちらに近づいてくるような気配もあった。

 なんだかやばそうだった。

 俺は危機感をありありと感じ取った。

 もしものために、ホルスターからハンドガンを抜いておく。さっきのレッドファイアとは違うハンドガンだった。


 その名も――FRドラグノス。

 アルゼグルムス社製の優秀なハンドガンだ。その特徴は、なんと言っても瞠目するほどのマガジン量。FRドラグノスはハンドガンという立場ながら、1マガジンに30発の弾が入っている。肝心の連射力だってそこそこある。ただ、威力が平均よりも低いのが欠点か。一発撃っただけでは、3mm級の装甲を貫通できないほどだ。と言っても威力を重視するときは、破壊力満天のレッドファイアを使えばいいだけの話。

 FRドラグノスの威力が低いからと言って、嘆くほどでもないだろう。


(やっぱり、武器はたくさん持っている方がいいな……)

 

 俺はそれを改めて実感しつつ、更に歩みを進めていった。

 そして、古びた郵便受けのような物を発見したときだった。


「え……」


 俺は、バカみたいな、アホみたいな、うつけ者みたいな、簡単に言うと呆けたような声を上げてしまった。

 なぜか?

 端的に言うと、俺の後ろで、死体であろう物が動いていたからだ。

そう――奴らは死体のはず。

 頭は斧で叩かれたように割れている。顔面は比喩なしに崩壊。腕の肉はボロボロだし、足の肉もボロボロだった。損傷し、機能していない贓物だって見えている。

 奴らは腐っていた。

 数十分前に見た、腐敗した死体のように……。

 数は、約20体と言ったところだろうか?

 全員が、俺に向かって全速力で走ってきている。陸上選手顔負けの素晴らしいフォームだった。

って――


(こんなところで、悠長にマジマジと観察している場合ではない!!)

 

 逃げるぞ!

 俺は音速のスピードで反転する。

 奴らに背を向ける格好になってから、全速力で走り出した。――逃げる!

 もう心臓はバクバクだった。

 冷や汗だって掻いている。

 だって死体が動き出すなんて考えられない。死体は本来、動かないはずのものなのだ。動くなんて世の中の摂理に大きく反している!

 なにより死体が動くのは怖い!

 

おそるおそる後方に目を向けてみると、そこはもう信じたくない光景だった。

 俺はかなりのスピードで走っているつもり。だというのに、奴らとの距離がまったく離れていないのだ。

 それどころか、目の錯覚を祈るばかりだが、奴らとの距離は縮まっている気がする。最初は80メートルばかりの距離が開いていた。それが今では、なんと20メートル。火を見るよりも明らかに縮まっている!

 もう目の錯覚だとか言っていられない!


(こうなったら……!!)


 FRドラグノスの出番だ。

 弾がもったいないので極力撃ちたくなかったが、こうなってしまっては仕方がない。弾は一発一発が高いのだが、追いつかれるよりもは幾分かマシだ。

 背に腹は変えられない。

 俺は銃口を奴らの方に向けた。

 走りながら。

 ――発砲。

 

 連続で、トリガーに掛けていた手を引いた。

 薬莢が何回も排出される。

 腕には反動が伝わってきた。

 俺が狙ったのは奴らの心臓。一撃で仕留めようと思ったのだ。

 狙いはうまくいった。

 真っ直ぐに飛んでいった弾丸は、寸分違わず奴らの心臓にヒットした。その証拠に、胸の辺りに小さな風穴が空いている。

 肉片も辺りに飛び散った。


 が――


(えぇぇぇええええ!?)


 信じたくないことに、奴らは息絶えていなかった。心臓を、貫通されたのにも関わらず。おかしい……。

 しかも奴らは、苦しむ素振りさえ見せていなかった。

 心臓に小さな風穴を開けたまま、尚の俺のことを追いかけている。空いた距離も段々と縮まってきている。


(どうする……!?)


 俺はこの状況の打開策を考えた。思考は約0・1秒の内に終わった。

 俺はマガジンの再装填をする。

 使い終わったマガジンは道端に捨てた。

 拾っている暇などはない。

 照準。

 俺は奴らに狙いを付けた。だが今回銃口の先にあるのは、奴らの心臓ではない。

足首だ。


(……人は普通、足首を損傷すれば立てなくなるからな)


 今回、俺は奴らを倒すことが目的ではない。奴らから、逃げることが目的なのだ。だから行動不能にしてしまえば、俺の目標は達成したも同義。

 ふふっ……。

 俺は不敵な笑いを零しながら、引き金を素早く引いた。

 発砲音が響き渡った。

 間髪入れずに奴らは、地面にバタバタと倒れていった。それも一匹も残らずに。嬉しいことに、俺の放った銃弾は全て当たったようだった。


 かなり爽快な気分だ。

 俺は勝利の余韻を味わいつつ、FRドラグノスをホルスターに収納した。シュッパっ、という感じに。


「ん……?」

 

 さっきまで俺を追いかけていた奴ら。こいつ等は銃弾を足首に喰らって、もはや立てないような有様になっている。現に今は、地面に這いつくばっているような状態だ。

これでは、流石に俺を追いかけることはできないだろう。心から、俺はそんな風に思っていた。


 けれど、奴らの執念深さは感嘆に値するほどのものだった。

 足が使えないのなら、腕を使って進めばいい、などと叫びそうな感じで、腕だけを使って、こちらに進んで来ていたのだ。俗にいう匍匐前進である。と言っても、そのスピードはかなり遅い。

 走っているときと比べたら、雲泥の差があるというものだ。

 とても俺には追いつけそうにない。

 安心だ。


 俺は余裕の体で「じゃあな」と手を振って、そのまま、悠々と歩き出した。――やっぱり走ることにした。

 油断して追いつかれたら、それこそ、冗談抜きにバカらしい。



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