ぬるい夜
その夜は久しぶりに気温が下がらずに蒸して生温い夜だった。
寝付けないでいた高時は酒を用意させようとして、友三郎の不在に思い至った。
(朔夜と探しに行ったのは何年前のことか……)
一人座して庭を眺めながら思い返す。
友三郎が家恋しさに一人で寺を逃げ出した事を思い出して小さく笑う。
あの頃の朔夜はまだ粗野な子供で、髪はボサボサのまま赤茶け、栄養の足りない手足は棒のように細かった。今まで出会ったことのない人種であった。
だが命溢れる瞳は乱暴で美しく、そして誰にも屈せず媚びない姿に魅了された。
父時則が朔夜を手渡してくれた時は、美しい野獣を手に入れた喜びで胸はうち震えた。
どんな時も強い心で自分を援けてくれていた。怯えを感じる自分を、それが大事だと背中を押してくれ、敵を皆殺しにしてでも守ると言ってくれた。
「いつからだ、いつからこんなに遠くなってしまった……」
知らず、呟きがもれていた。
いつから自分を理解してくれなくなった。
いつまでも一領主の俺だけに固執してくれるな。もっと俺を知ろうとしてくれ。
その強い魂の力で、俺を信じてくれ。
「高時様」
気がつけば廊下の先に人が控えていた。
気配を今の今まで感じることは出来なかった高時が瞬時身構える。だが相手は近づきもせずに控えたままで告げた。
「姶良朔夜が戻って参りませぬ。探しに出ても宜しいでしょうか」
志岐だった。
忍びの頭領が息子として育てた優秀な忍びだと聞いている。今は朔夜の元につけている。
「朔夜ならば日置の家について行った。知らぬ者でもない、一晩泊ってくるのだろう」
「いえ、必ず戻ると言い置いて行きました」
「大方引きとめられたのだろう。あやつは強い。心配するな」
「しかし……」
いまだ何か言おうとする志岐に僅かに苛立ちを感じた。
「俺がいいと言っている! 下がれ!」
「はっ」
立ち上がる気配もなかったのに、志岐はもう闇の中に消えていた。
垂水の志岐。
朔夜と一緒にいた男だ。
一晩くらいで何を心配する。己のものでもあるまいし、朔夜は強いのだ。お前が心配することではない。
舌打ちをして、高時はやはり酒を飲む事に決めた。




