戻れない?
ケン「本当に、いつか戻れる日が来るんだろうか…。毎日毎日、来る日も来る日もあの洞窟を走っては捕まり、走っては捕まりを繰り返している」
ヤマメ「諦めちゃえば?もう戻れないだろうし…」
ケン「でも外の光を浴びたいんだ。『もっと光を!』ってな」
ヤマメ「…今更で悪いんだけど、私が何もしなくても…外の世界に戻れないわよ?」
ケン「え?」
ヤマメ「アナタが洞窟に落ちた時、何かの衝撃で幻想入りしちゃってるの。だから、今更洞窟を通って地上に出ても、そこに広がってるのはケンの知ってる世界じゃないわ」
ケン「そんな…」
ヤマメ「だから、無理に逃げる必要なんてないのよ?」
ケン「…そうなのかぁ。なら、しょうがないのか…」
どこか物寂しげな表情をして落ち込んでいるケンを、後ろからそっと抱きしめる。
ヤマメ「諦めて?私と一緒に居て…でないと、私、気が気じゃなくなるわ」
ケン「そうか…もう。無理なのか」
本当に落ち込んでいる。今までこんなケンは見たこと無いほどに…。でも、これが現実なのだ。
ヤマメ「大丈夫よ。戻れなくても、手紙くらいなら送る方法があるわ」
ケン「ほ、本当か!?」
振り向いたケンの顔は涙で濡れていたが、それを聞いた途端に笑顔に変わる。
ヤマメ「この幻想郷に、八雲ゆかりって大妖怪が居るんだけど…その人が、引き受けてくれれば、ケンの書いた手紙をケンの家族まで届けてくれる筈よ」
ケン「そ、そうか!なら、早速書く!紙と鉛筆かして!」
意気揚々と有りっ丈の、思いつく限りの文章を書き続けること1時間。数枚の紙にはビッシリと家族に言いたいことが書かれている。
要約すると、「自分は巣立っただけです。探さないでください」「心配しすぎて禿に気を付けて」「死ぬような事にはならないから、心配しないで」
と言った文を、事細かに書いて、封筒に入れる。
ケン「早速行こう!案内してくれないか?」
ヤマメ「うーんと…じつは、私も知らないの。話しには聞いてたんだけど、どこに住んでるかまでは」
ケン「な、な…なんだよ!書いた意味ないじゃん!?チクショウ!こうしてやる!」
ヤマメの後ろに素早く回り込み、脇のしたをくすぐる。
ヤマメ「ひゃ!あはははははは!ちょ、理不尽だって!あはははははははは!」
ケン「持ち上げといて落とすなんて酷いぞ!」
ヤマメ「ご、ゴメンなさい!謝るからヤメ、あははははは!」
ケン「いーや許さない。あと1分はくすぐってやる」
ヤマメ「そんな!あはははははは!」
脇を閉めて指の動きを止めようとするが、そんなことで止まる筈もなく、逆に力を入れたことで余計にくすぐったく感じてしまうヤマメは。その後、1分以上にわたってくすぐられた…。
ヤマメ「はぁ…はぁ…んん…」
居間の床に仰向けに倒れ、両脇を押さえるヤマメは、艶めかしく体をくねらせる。まるで、オスの蜘蛛を誘うメス蜘蛛のようだが、それはくすぐられた感覚が未だに少し残っているためだった。
ケン「おぉう…。なんか色っぽいな。ヤマメ」
ヤマメ「そう?うふふ…アナタを誘ってるのよ?おいで…ケン」
ケン「お?第二ランドいっちゃう?今度は10分耐久でも」
ワキワキと両手を動かすケンに危険を感じて、バッとものすごい速度で起き上がり、距離をとる。
ケン「ち、ダメか…」
ヤマメ「これ以上は、私の肺が潰れちゃうわ」
ケン「まぁいいや。どうせ今夜もするし…」
ヤマメ「!?」
上げといて~落とす!
読者様につかの間の安らぎを
「kanisaku」