橋の上で…
今回から、少しだけパルスィのお話になります。今まではヤマメオンリーでしたが、ちょくちょく登場しているパルスィにもお話を書いてみようと思います。「ふざけんな!ヤマメ出せこの野郎!」という方は、数日お待ちください。多分3日くらいで自分が根負けします。
私は橋姫…水橋パルスィ。姫なんて大それた別名だけど、そこまで偉いわけでもない。何百年も他人を妬み続ける陰湿な女、それが私…。
そんな私のストレスを最近一気に加速させているのは、友人であったヤマメが変わってしまったこと。数週間前までは、ニコニコしながら地霊殿の奴らと話してたのに…。今では彼女の笑顔はどす黒くなってしまい、一人の男にしか向けられなくなった。外の世界から男にヤマメは一目ぼれしてしまったのだ。
パルスィ「妬ましい…いつもいつも…!」
自分が住む家は3階建ての借家の一階。その真上にヤマメとその男が住んでいる。最初は何も気にはしていなかったが、ここ数日はヤマメの苦しむような笑い声が夜に聞こえてくる。この前なんか午前中なのにヤマメの喘ぎ声が聞こえ始めて、心底驚かされた。
あんな楽しそうなヤマメ…もう自分のところには遊びに来てくれない。ここ数年で幻想郷は大きく変わってしまった。博麗の巫女や白黒の魔法使い。さとりや勇儀だって、外から来た男にベタ惚れで。光を失った目は男という光を取り入れるだけのものになってしまっている。
パルスィ「なんで…皆変わっちゃうのよ…」
橋に恨み辛みを書き綴る。アイツらは自分を置いて行ったんだ。嫌われ者が集まる地霊殿で、誰もが愛せる男を手に入れた。なのに私だけ一人ぼっち…。本当の嫌われ者は私一人だけになってしまったようで。心に出来た穴は塞がるどころか日に日に大きくなっていく。
パルスィ「…!あーもう!なんなのよ…!」
本当に一人ぼっち、こんな日が来るなら、もっと素直にヤマメと仲良くしていれば良かった。もっとさとりの所に遊びに行けばよかった。勇儀と飲めば良かった…。
後悔してももう遅い。皆、皆愛におぼれてしまったのだ。どんな毒薬なんかよりも強力で依存性も一級品。一度熱くなった愛は冷めることはない。愛する対象が消えるまで、いや、消えても冷めはしない。
パルスィ(楽になりたい…)
悲壮感で埋め尽くされたパルスィの目は黒く濁っていた。自分の全てを奪われてしまった今、彼女を支えるものは、自分の思い出が詰まったこの橋だけである。
人間達を妬み続け、呪い殺していた日々。気が付けば、目の前に居たのは鬼だった。橋ごと幻想入りしてしまった自分は、メチャメチャに暴れていた。全部妬んで、全て嫉んで…。でも、自分が暴れようとするたびに私を懲らしめに来るのは、勇儀だった。鬼であり、地霊街の顔である勇儀は強く、私も本気で殺しにかかったけど、何十回、何百回と負け続けた。でも、あんなに強く、優しく、私を受け入れてくれた勇儀はもういない。鬼の住処に戻り、誰にも見られない所で、ひっそりと人間の男と親しくしている。
パルスィ「もう…ヤダ…」
気が付けば、ポロポロと大粒の涙が橋の手すりに丸い水玉を作り、ジワリと木製の橋に染み込んでいく。
青年「あ、あのー…」
突然後ろから話しかけられ、驚きながら振り返る。そこには若い青年が困った表情で立っていた。大きな荷物を抱え、半袖の服装と七分丈のサイズに余裕のあるズボン…、顔は中々の二枚目だ。
パルスィ「…何?」
青年「あ、あの…ちょっと洞窟探索してたら迷っちゃって…この橋について。よろしければ、外まで案内してくれませんか?ここに住んでる人っぽいし…」
ジッとその青年を見つめていると、不思議な気分になってきているのが分かった。彼の顔が、声が、姿が…全部自分の脳を支配していく感覚…。あぁ、そういうことか。
青年の胸倉をつかんで押し倒し、馬乗りになって両手を押さえつける。
青年「え…ちょっと、一体何を…」
パルスィ「やっと分かったわ…悲しいなら、私もそれに溺れればよかったの…、今更アナタと出会うなんて…タイミングが良すぎるアナタが妬ましいわ…」
青年の首を両手で掴み、折れない程度に力を入れて窒息させる。
青年「!?が、ああああ!」
掠れた声を出しながら苦しみ、もがきながら両手を外そうと抵抗する。しかし、妖怪であるパルスィに人間が敵う筈もなく、数秒で気絶してしまう。
パルスィ「うふふ…やっと、良い男を捕まえたわ…♪」
青年の頬を手で撫で、恍惚の笑みを浮かべるパルスィ。黒く濁った緑の両目には、青年という光だけが差し込んでいる。
パルスィは青年を抱え自分の家である借家に向かって歩き出す。これからの生活を想像してはニタニタと不気味な笑みを浮かべるパルスィの心は、もう壊れている。
一人ぼっちはさびしい。でも、やっと辛い現状を打破できた。自分も愛に沈めば良かったんだ、溺れてしまおう…どこまでも、深く、深く…。
ついに、ヤンデレ化してしまったパルスィ。唯一マトモだと思えた彼女までも…。嫉妬深いって、ヤンデレ素材には最高ですよね。何時でも自分のことだけを思ってくれている可愛い子…そんな子と巡り合えたらなぁ。
ちょっと洞窟行ってきます。
読者様につかの間の安らぎとジェラシーを
「kanisaku」