未定
幼子は、今を生きながら現実を見ず、未来に生きずして理想を夢見る。
『大きくなったら何になりたい?』大人はしばしば幼子に、こんな質問を投げかける。殆どの幼子は、嬉々として未来の自分の理想の姿を語るだろう。
己の才能の有る無しに関わらず、能力を見限ることをしないから、どんな職業にだって就ける。それどころか現実の秩序と物理法則を超越し、己を人間以外のモノへと変身させる。それは、純真無垢な幼子にだけ許された特権。親に連れられて行ったスタジアムの熱気に当てられて、スポーツ選手を志す。または、甘いお菓子や綺麗なお花、年下の子どもとの触れ合い……それらは美的感覚と母性をくすぐり、パティシエやお花屋さん、幼稚園の先生という夢を実らせる。果てはTVのヒーローに憧れたり、メロンになりたいなどという非常識な夢を持ったりもする。
しかし悲しいかな、成長の過程で気づいてしまう。『無理』だということに。スポーツ選手のように身体が動くわけがない。どれだけ時間を掛けても綺麗な作品は作れない。ヒーロー? メロン? どうしてそんなものになろうと思ったのだろう。顔から火が出る苦い思い出は、胸の奥深くにしまって鍵を掛けておくに限る。
あの頃の未来の想像の中では、何にでもなれた。何にでもなれるわけじゃないと知った今は、将来の予測をしても何にもなれない。
幼子には、未来がある。
未来は『未だ来ていない』からこそ全てが自由なのだ。未来とは責任の入り込む余地のない、完全に真っ白な世界。与えられた無数の絵の具は虹よりも鮮やかな色を創り出し、そのキャンパスはどこまでも広がっている。
幼子とは呼べないほどに成長した今、目の前に映るのは将来への道だ。
将来は『将に来ようとする』からこそ自由を束縛する。将来とは否応なしに迫りくる壁と言い表せるだろう。壁の越え方は自由。しかし越えた先の光景はどう壁を越えたかによって変わる。壁にどう立ち向かうかは自由。しかし迫る壁を止めることも逃げ切ることも不可能なのだ。
社会を知り、常識を身につけ、現実を受け入れるまで成長したときにはもう、幼い頃に与えられた絵の具はいくつか使い切ってしまうのだ。そうなるともう、昔のようにどんな絵をも容易に描くことは出来なくなる。使いたい色を別の色を混ぜ合わせて創るように、才能と努力によって夢を追い続けられる者もいるが、大多数はそうではない。夢を諦
「――ねえ、そろそろ起きたら?」
耳がぼくを呼ぶ声を捉えて、肩がゆすられる。重い頭を持ち上げれば、目の前に人の顔があった。
「あさ、み?」
寝ぼけ眼を擦り、ぼくを起こしたのが同級生の南原麻美であることを視認する。こんな起き抜けの呆けた顔を覗き込んでも、面白いと感じるようなことは何一つないだろうに。
辺りを見回せばそこは見慣れた、高校の二年四組の教室だった。この前の席替えで窓際にあてがわれた自分の席に、ぼくは長い間突っ伏して眠っていたらしい。いつから記憶が無いのか、直ぐには思い出せない。ただ、白いワイシャツの背中が斜陽にずっと照らされて熱を帯びていることからすると、数十分程度ではなさそうだ。
軽くうっ血した腕の下には、しわしわになった二枚の紙が敷かれていた。一枚は書きかけの作文用紙――タイトルは『未来と将来』。もう一枚は、
「進路、希望届……」
ぼくがでかでかと印刷された文字列を読み上げると、麻美は思い出したようにこのプリントの説明をした。
「あ、それ。高校を卒業した後に行きたい大学の学部とか、将来就きたい職業とかを書いて提出するんだって。期限は冬休み明けの一月八日」
「随分長いんだな」
今はまだ十一月の下旬。これだけ期間が長いと、ともすれば紛失してしまう人もいるだろうに。
「それだけじっくり考えろ、ってことじゃないの? ここに書いた進路に必ず行くんだっていう強い気持ちで決めるように。って、有浜先生も言ってたし」
でも一月のそれはまだ希望調査で、本当の第一志望届はもう少し後なんだって。と麻美は付け加える。
少しずつ思い出してきた。そういえば五、六時限のホームルームで進路についての作文を書き、その後大事な話をする、という流れだった気がする。嫌々ペンを走らせている間に眠気が襲ってきて、抗えずに睡魔に従った……。それからどれだけ経ったのだろうかと黒板上の時計を見ると、短針は四を過ぎたところを指していた。二時間以上眠っていた計算になる。
己の行動に少々の反省をしつつ、ぼくは浮かんだ一つの疑問を帰宅の準備をしている麻美にぶつけた。
「変な意味でじゃあないけど。麻美、何でここにいるんだ?」
「端的に言えば……敬祐を待ってた」
「ぼくを?」
麻美は手提げ鞄を持ち、空いた手でキーホルダーの付いた鍵を弄びながら首肯する。
「今日の日直は私。日直の最後の仕事は、教室の戸締りをすること」
「……すまん」
ぼくは小さな罪悪感に苛まれて、そそくさと帰り支度をする。その間麻美は時間を持て余したかのように窓の施錠を何度も確認し、黒板を真緑になるまで掃除する。同時に、ぼくの支度が整うのを横目でちらちらと伺っていた。
急いで必要最小限の教科書とノートを、決して大きくはないリュックサックに仕舞う。例のプリントを手に取ったとき途端に不快感が襲ってきて、作文用紙諸共折れることを厭わず突っ込んだ。
口から幸せを吐き出して憂鬱を二宮金次郎よろしく背負い、教室を足早に退出する。ぼくが後ろ手に扉を閉めれば、麻美が鍵を差し込み締める。
麻美が職員室へ鍵を返却しに行くのに付いていった流れで、ぼくは麻美と家路を共にすることとなった。まあ、慣れたものだ。彼女との最初の記憶は中学一年生のときのはずだ。六クラスある学年にも関わらず毎年のクラス換えの抽選を潜り抜け、三年間同じ教室で過ごした仲だった。さらに地元とはいえ進学先も同じであり、高校二年生の今も連続同級生記録を更新中である。互いの家は近所のため、こうして二人で帰ることもしばしばだ。
正面から吹き付ける風がやけに冷たい。太陽も建物の間を低く縫うように輝くばかりで、秋の釣瓶落としを身をもって実感する。至って平凡な夕方の道を、ぼく達は並んで歩く。漂う空気が冷たく重いのは、季節のせいだろうか。
「……寒く、ない?」
話題に困ったときには天候の話をしろと、おばあちゃんは教えてくれた。麻美がそのスカートからすらりと伸ばした太ももを、時折擦っているのが見えたのだ。
「寒いよ。見れば分かるでしょ」
当たり前だと言外に感じ取れる口調であった。じゃあ何故そんな格好を? と重ねて問うと、これまた即答で、
「みんながそうしてるから、かな。本当はズボンの方が好きなんだけどね、制服だから」
周りが短くしているのに自分だけ丈を長くしていると浮いてしまうからだとか、今更長さを変えることは出来ないだとか、麻美は少し語ってくれたが、どうにしてもぼくには一生関わりの無い話である。布一枚とはいえ丈を長くすれば多少なりとも寒さが和らぎそうだと男の目には思えるのだが、真実は知る由も無い。
さて、会話が止まった。元来口下手なぼくはこういう寂しく気まずい雰囲気に弱い。話題が浮かばない訳ではないのだが、なかなかどうして口からは出ず、頭の中をただ堂々巡りするだけなのだ。
数十秒の沈黙を破ったのは麻美のほうだ。
「ねえ。どうするの?」
「何が?」
指差した先はぼくの鞄。……進路希望届のことか。
たった漢字五文字が、こんなにもぼくの心を鬱屈とさせたことは、十七年と数ヶ月の生涯の中では無いに等しい。強いて挙げるならば、中学時代にどうしても反りが合わなかった同級正の姓名が漢字五文字だったことぐらいだ。
「分からない。まだ、決まってない」ぼくは隠すことなく正直に答える。「麻美は?」
「私はもう決まってるよ」
その目は、どこか遠くを向いていた。彼女は昔から、どんなことにも綿密な計画を立てて実行することを良しとしていた。だからきっと、将来の人生設計などもしているのかもしれない。
続けて述べられたのは、まさにそのことについてだった。
「進学先は南大学薬学部。私、薬剤師になりたいんだ。私が作った薬で、多くの人を助けたい」
「そうなんだ」
「そのための勉強が大変なことも分かってる。南大合格のために、もう少しずつ勉強を始めてるんだ」
南大学と言えば、国立大学の中でも上位に属するところのはずだ。ぼくが知る限り、麻美はとても成績が良い。その彼女がこんな時期から入試を意識して勉強を始めている。そのことはぼくを驚かせた。
それでね、と麻美は続ける。
「将来は好きな人と結婚して、幸せな家庭を作るんだ。子どももいっぱい欲しいな。十人でも二十人でも。少子化解消に役立ちたい、ってのは冗談だけど。だって子どもって可愛いでしょ?」
ぼくは適当に相槌を打った。
「だけど、薬剤師を辞める気も無いよ。育児と仕事の両立は大変だろうけど、どっちも諦めたくないから」
予想以上に計画が緻密で、ぼくはいつの間にか呆然としていた。
しかし彼女の未来の旦那となる人物は大変だ。相当懐の大きい人間でないと、麻美とうまくやっていけないだろう。
そうやって夢を語る麻美の顔は、これ以上無いというほどに生き生きとしていた。輝いていた、とも言えるくらいに。声は弾み、表情は明るく、そして何より、楽しそうで。
どうして先の見えない未来に、こんなにも希望を持てるのだろう。
そうこうするうちに、交差点に差し掛かった。ぼくは東に、麻美は西に、それぞれ足を向けた、直後。
「敬祐」
背後から不意に名前を呼ばれて、肩が跳ねる。「な、何?」
「敬祐はどうなの? 将来したい仕事とか、行きたい大学とか、無いの?」
こちらの顔色を伺うように、低い姿勢で覗き込んでくる。麻美の視線から目を背けてしまったのは、なにも夕日の逆光のためだけではない。
麻美が「そっか」と一人納得する頃には、辺りに夜の帳が少しずつかかり始めていた。
「ごめん」
「そんな、謝らないでよ」今度は逆に、麻美が視線を漂わせた。短い自分の髪を右手でクシャクシャと掻くと、髪質のせいか軽く癖が付いてしまう。慌てて手櫛で梳いて整える。「敬祐の人生は敬祐自身が決めるんだから。好きなときに、決めればいいよ」
その言葉に、何故かぼくは素直に首を縦に振れなかった。ん、と曖昧に返事をするばかりである。
「引き止めてごめんね。じゃあ、また明日ね」
手を振りあい、帰途につく麻美の背中を暫し見送ってから、ぼくも家へと続く道を歩いていった。沈み行く太陽を背負って。
御伽の国ではシンデレラが夜遊びから家に帰ろうとする頃、ぼくはようやく作文の残りを完成させることができた。作文用紙というものは、どうして向き合うだけで体力を削りとっていくのだろうか。力なくベッドに倒れこんで、枕に顔を埋める。やはり、緊張から開放されたこの瞬間こそ、至福の時だと思う。
仰向けに体勢を変えたとき、勉強机の端からはみ出した紙切れが視界に入った。何かと思い右腕を伸ばして取って見た瞬間、表情が強張る。それは例の届であった。
進路――将来、進む路。
未来のことなんて、考えたくもない。一年と数ヶ月後の自分がどんな環境に身を置こうとて、それは今の自分には関係がない。未来の自分が決めることであって、今の自分が決めることではないはずだ。
届には、第一から第三希望までの大学名と学部名を記す欄が用意されていた。その他には氏名欄と『就職』という枠があるだけの、とても簡素なものだ。だが、それらすべてが埋まっている姿は、想像すらできなかった。じっと目を凝らしても白紙であることに変わりはないし、どれだけこめかみに血管を浮かび上がらせても未来予知能力は発現しない。進路希望届は予言の書ではなく、あくまで予定の書だ。
結局、念を送りすぎたせいで目頭に疲労が溜まり、ぼくは本能に逆らうことなく、瞼を閉じた。予定の書はそこら辺に投げ捨てた。明日の朝に回収しよう。
*
この日、夢を見た。
『将来の理想』ではなく『睡眠時の幻』の方だ。普段はあまり夢を見ないので、こうしてその内容までをはっきり覚えていることは久しぶりだった。
夢は一日の記憶の整理だとか、深層心理を映す鏡だとか言うが、このときの夢は後者に分類される。
夢の中で、ぼくは四歳だった。両親とそれぞれ手を繋いでいたが、ぼくは唐突にそれを振りほどいてぎこちなく走り出す。そして……転落した。足場を失い宙に投げ出された感覚が全身を包む。
次の瞬間、場面は病院に移る。いつの間にか左腕は生傷が無数に走る醜い様相となっていた。現れた手術服の医者が手際よく注射を打つと、目の前が真っ黒になる。
再び目を開けたときには左腕の傷はすっかり塞がっていて代わりに縫合痕の筋が形成されていた。先程の医者が今度は白衣を纏い心配そうな顔をして何かを呟くが、声は届かない。ぼくの顔をまじまじと見つめる両親に握られた無事な右手から、温もりと安心を感じる。
ここで一旦、夢は途切れる。
ぼくが四歳のとき、こうして転落事故を起こしたことは紛れもない事実である。家族三人で標高の低い山へハイキングに行ったのだが、登山中、道が細く片側が崖になっている危険地帯に差し掛かったとき、何を思ってかぼくは走り出した。転落防止用のロープは張られていたものの、四歳の身長では意味をなさず、足を滑られて転落した。崖の岩肌には所々鋭利に突き出た刃のような部分があり、それがぼくの左腕を縦に一文字に切り裂いた。腕の痛みと落下の恐怖を同時に味わう。他の何にも例えようのない恐怖の時間はしかし、永遠のようで一瞬だった。幸いにも現場の崖は二メートル程度の高さであり、全身を地面に叩きつけたとしても命に別状は無かった。このとき、追い討ちをかけるかのように左半身から落下したので、左腕の骨は折れてしまう。裂傷、打撲、骨折という三重苦に、ぼくは泣き叫ぶ。
そんなぼくを崖上から見下ろして、生きていることに安堵している母と、どこかへ走っていく父――公衆電話で救急車を呼びに行ったのだろう――、二人の様子も意識を保ったまま涙の向こうに滲んで見えた。
何せぼくは今でも、転落からここまでの一部始終を全て記憶している。意識が飛んでしまっていれば、どれだけ幸せだっただろうと思う。
数分の後に救急隊員がやってきて、担架に乗せられて運ばれていくところからは、もう記憶に無い。救急車の中で両親は医師から骨折の処置及び傷の縫合の緊急手術をしなければならないと言われて、二つ返事で承諾したという。手術の寸前にぼくは一度瞼を開くも――後に話を聞いただけで、本人に覚醒の記憶は無い――、全身麻酔を打たれて昏睡し、外科医によって手術を受けた。
手術は数時間かかって無事終わり、医師の迅速な処置により怪我は快方に向かっていった。しかし、ようやくギプスを外された左腕が、思い通りに動いてくれなかった。縫合痕の走るその腕は動作も緩慢で、指先には力が入らない。それが四歳児にとってどれだけの出来事か……笑顔で入院生活を過ごすことは、できなかった。
生来の利き手が左だったので、右利きに矯正することもリハビリテーションの一環として取り組んだのだが、これもまたストレスの要因となった。左手が使えなくなったのは手術をした人のせいだ、とある時爆発したぼくを、両親はこう諭した。「もしお医者さんがいなかったら、敬祐は腕がちょっとの間使えなくなるだけじゃなくて、命を失くしていたかもしれないんだぞ。お医者さんには感謝しなきゃいけないけど、責めるのはしちゃいけない」と。これをきっかけに、当時のぼくは将来に『医師』になることを志した。どんな傷をも完璧に治す医者に。
本当のことを言えば、高校生になった今でもその気持ちは揺らいでいない。揺るがすような候補が他に現れないだけであるが。だが今は当時と違い、医師になることの難しさを知っている。中学校の授業でやらされた『職業調べ学習』で医師について調べたぼくは、その壁の厚さに呆然とした。大学の医学という狭い門を潜り、国家試験に合格し、研修を経てようやく辿りつける職業。人の命というこの世で最も尊いものの責任を負う、しかし現代社会には欠かせない仕事。非凡な努力と天賦の才と強靭な心とを持たねば、就くことさえままならない。……成績は並程度、冷めていて打たれ弱い性格のぼくは、だんだん諦めの気持ちを持つようになっていった。ぼくには無理だ、と。
だから、渡された進路希望届に、『進学・医学部』の文字を書くことが出来なかった。それが頭をよぎったとしても、右手に握ったシャーペンがその字を紡ぐことはないのだ。夢を掴むことなど出来ない。それは現実味の無い、幼かった頃の夢だから。
朝日の染みが浮かんだ天井を仰ぎながら、いやに鮮明な昨夜の夢のことを考えた。
*
希望届が白紙のまま、二週間が過ぎた。街路樹が坊主になったせいで、寒風の訪れを葉擦れの音を合図に身構えることも出来なくなった。
本当ならこの時期は、一年後に受験する大学とその学部の目星を付けるため、必死になって調べ物をしなければならないのかもしれない。それなのにぼくは、頑なにアクションを起こそうとしなかった。焦りはある。けれどもぼくには現実に『将来の希望』が無いのだ。目印さえないのに、どうして暗い闇の中の道を進むことができようか。
予鈴の鳴る寸前の教室に足を踏み入れた瞬間、殺気の籠もった八十の瞳が一斉にぼくを射抜いた。瞳たちは入ってきたのが教師ではなくただの男子高校生だと理解すると、直ぐに視線を自分たちの手元に落とした。心拍数が急上昇した胸を押さえつけながら、ぼくは張り詰めた空気を掻き分けて指定の席へと向かう。
今日は二学期末定期考査、その最終日である。「このテストの点数が進路決めに大きく影響するから、死ぬ気で勉強すること。いいね?」数日前に担任の有浜先生から伝えられたこの台詞に、クラスのほぼ全員が一念発起。残された時間の全てをテスト勉強に賭して挑む一大勝負。これまでの定期考査とは身の入れ方が違う。今だって皆、日本史年表の暗記に躍起になっているのだ。テスト開始時刻が刻一刻と迫るのを、ぼくは何もせずただじっとしていた。
一分後に入室してきた監督役の先生は数多の視線の矢に貫かれてたじろぎ、テスト用紙を落としそうになってしまった。
それから三時間後。学校内に鳴り響くチャイムは、牢獄からの解放を、自由を祝う鐘である。悲喜こもごもの嘆息が部屋中を満たす。ぼくもペンを置き、腕を伸ばして凝りをほぐした。
「――ねねね、白岩。どうだった?」
長く真っ直ぐな黒髪を翻して振り向いた、前の席の女子――佐久間明が興味津々といった体で問うてくる。
「どうと言われても……普通、かな」
全ての教科が平均程度、やや理系寄りとはいえ苦手教科が無ければ得意教科も無いぼくは、微妙な返事をせざるを得ない。おそらくぼくの顔も、なんとも言えない微妙な表情をしているのだろう。
「そっか。あたしは全体的には上出来だったと思うなー。先生がああいうことを言ってくれたおかげで、初めて本気で勉強できたもん。……あ、でも数学はダメだった」
いつもは本気で勉強していなかったと、暗に言い切った瞬間であった。
「佐久間って、成績はいい方だったと思ったけど」
特にこの前の古典の授業での、先生から突然出題された長文を、つかえずすらすらと訳してみせた姿が印象に残っていた。誰もがお手上げ状態だったので、彼女の回答の後にはどこからか拍手が湧いたものだ。
「あたし、根っからの文系人間だから。マジで今のはヤバいよ」
言うと、頬杖をついて物憂げな表情をみせる。
確かに先ほど終了した最後の教科である数学Ⅱは、異様に難しかったような印象を受けた。全教科の中でも好きな部類に入る数Ⅱ、ボロボロだったら少し凹みそうだ。
「……ここの問題、解けた?」
と佐久間はぼくの机に広げてあった問題用紙の冒頭、基礎的な公式を使う問いを指差す。ぼくでも自信を持って答えられたくらいのものだった。なるほど「ヤバい」は虚言ではないようだ。公式を提示して解き方を教えると、彼女は直ぐに得心がいったようで「あーっ!」と大声を出した。
「ありがと、それすらど忘れしてた……。ま、もう諦めたけど。今更後悔しても遅いもんね」
数秒前とは打って変わって笑顔を作る。まったく、表情の変化が忙しい人である。
「そうだ!」ダンと両手で机を叩いて、佐久間は勢い良く立ち上がる。ぼくの心臓も、つられて大きく跳ね上がった。「ねえ白岩。合計点で勝負しない?」
勝負、か。本来は既に天命を待つしかない今ではなく、人事を尽くす余地のあった時期に宣戦布告をするべきなのだろうが。
「分かった、受けて立つ」
ぼくが了解したのは勝算がゼロではないと踏んだからだ。文系特化人間と中流平均人間。過去の成績を無視すれば、予想のつかない好カードと言える。そして負けたほうにデメリットがあるわけでもない。ならば受けない手はない。
「あははっ、断然返却が楽しみになってきた!」
「精々、そうやって笑っていられる残りの時間を楽しんでな」
ぼくは薄ら笑いで佐久間を挑発する。
「あたしだって負けないから! ――んじゃ、お先にっ」
手提げ鞄をランドセルよろしく背負って、左手を振ってさっと教室を去る佐久間。会話が一段落し、ぼくは息をつく。
彼女とは、話していて飽きることがない。今年知り合ったばかりだが、結構な頻度でこうして口を交わしあっている。他愛の無い話題を延々と言い合うことが、何故か楽しく感じるのだ。表情が多彩で、喜怒哀楽の感情を体現したような存在、それが佐久間明という人間。……ぼくに足りないものをたくさん持っている彼女は、ぼくの目にはとても眩しく映る。
「おい白岩。口が半開きだぞ気持ち悪い」
「く、黒沢!? いきなり何だよ!」
無意識の内に口角が上がっていたことを指摘され、ぼくは慌てて声の主に視線を合わせた。坊主頭の黒沢龍彦は目の前にいたというのに、全く気が付かなかった。ついでにその隣には麻美もいた。
野球部に籍を置く黒沢は百八十センチを超える恵まれた体格を生かし、チームの主砲を務めているらしい。ぼくと正方向に十センチ以上差がある体躯の黒沢と、ぼくと負方向に二十センチ近くの差がある麻美が並ぶと凸凹コンビの結成だ、と心の内で思ってしまう。
「ちょっと前から居たが。気付かなかったとは言わせねぇぞ?」
「随分と楽しそうなお喋りだったようで。一体何を話していたことやら」
凸から凹から次々に詰め寄られて、ぼくはたじろぎ両手を挙げた。
「た、ただテストについて言い合っていただけだった。大した話じゃあない」
ここで嘘をつく意味が無いと分かったか、それとも嘘でないと伝わったのか、麻美は適正距離まで身を引いた。しかし黒沢はそうしなかった。
「テストぉ? あの頭の良い佐久間と、万年平均男のお前が? 釣り合わないな」
呆れたように一笑する黒沢に、まったく腹が立たないということはない。黒沢の成績は雀の涙ほどぼくを上回っているものの、それでいて数学などを苦手とするので、自分自身は理系教科の平均点の引き下げに一役買っているというわけだ。
麻美も同じように呆れた表情をしているが、視線は三十センチ上を向いていた。
お前も五十歩百歩だろう、と言ってやりたいが、わざわざ事を荒立てる必要も無い。鼻先をぐいと近づけてきた黒沢に、ぼくは毅然とした態度で言い返す。
「そう言われても、本当のことなんだが」
「――ま、終わったことだからどうでもいいんだけどな」
体勢を元に戻し、一人頷く黒沢。
「よっし、帰ろうぜ」
そう言ってぺしゃんこのリュックを背負って、これまた素早く教室を出て行く。その背中を、ぼくと麻美はただ見ていることしか出来なかった。
普段はこんなにつっかかってくることはない奴なのに。……虫の居所が悪かったのだろうか。
*
夢を見た。
テスト期間中はプレッシャーと疲労のせいで熟睡だったが、それらから解放されたこの晩、二週間ぶりに見た夢だった。
これは回想なのか、妄想なのか、はたまた予知夢か――。
その空間にはぼくともう一人、女の子が居た。全体がぼんやりと靄がかかっていて鮮明でない。自分の意識もあやふやで、視点は幽霊、もしくはドラマのカメラのような半三人称だった。
女の子とぼくは何やら楽しげに話をしている。しかしその子が誰かは分からない。知り合いであるはずだが、顔も体形も髪型もどれも判然としない。それなのに、ぼくは彼女に対して不思議な感情を抱いていた。
そんなお喋りが終わり、互いに家に帰らねばならない時間になる。ぼくが踵を返すと、不意に彼女が呼び止めてきた。振り返ってみると、彼女は俯いている。そして、その口からか細い声が、漏れた。
「……すき」
突然の告白だった。ぼくに心構えが出来ているはずもなく、しどろもどろになって慌てる。女の子はそれを、声が届いていなかったと判断したのか、今度は目を見据えて大声を出す。
「あなたのことが、好き!」
赤面させたその顔には言い切ってやったという達成感と、不安と恥じらいと恐れと……様々な感情が渦巻いているように見えた。
彼女の瞳は、返事をしない限り決してぼくから離れはしない。数秒の後、ぼくは嘘偽りの無い本心を、告げた――。
短いものだが、これで夢は途切れた。
これに近いエピソードならば、子ども時代に経験している。小学一年生だから六歳のときだったはずだ。ぼくは当時近所の公園に毎日入り浸っていた。幼稚園も小学校も違う、公園内だけの友達関係が、そこにあったからだ。男女各三人ずつのグループで飽きもせず、放課後から夕暮れチャイムが鳴るまで遊んでいた。先に言ってしまえば、グループは二年生に進級した春から、ぷつりと関係が途絶えてしまった。ぼくは同じ小学校の友人と遊ぶことが多くなり、毎日公園に顔を出すことをしなくなっていった。おそらく、他の皆もそうだったのだろう。
時期は残暑の秋。その日は集まりが悪く、ぼくともう一人の女の子しか顔を見せなかった。仕方が無いので、二人きりで遊ぶことに。夕方になって、突然彼女が言い出すのだ。「好き」と。返事は「ぼくも好き」だった。……それが、その当時のぼくの本心だったのだ。
だが、それは今考えるとどうなのだろうか。十年以上前と今とでは、知識も考え方も全く違う。『親友』の関係は単なる『好意』であって『恋』ではない。『好意』を『恋』と勘違いした告白――幼子の戯言――に、『恋人』の関係は生まれはしない。もしも子ども時代に付き合いだした男女が成長して結婚することになったとしても、二人の間に確固たる信頼関係が築かれたのは思春期を迎えた後のはずである。そして一時の『親友』の関係も、進級進学など環境の変化によっていとも容易く途切れてしまうものだ。はたまた、些細な価値観の相違による仲違いというケースもあり得る。
人と人との繋がりは、深く強いようでその実浅く脆い。情緒形成の途上にある子どもの頃なら尚更だ。
ところで、記憶とは呪縛だ。一般の人間は経験した出来事全てを記憶し続けることは不可能で、不要な記憶を逐一脳内から消去――忘却していくのだという。
だが誰しも、印象深い出来事の幾つかはその快不快を問わず記憶していることだろう。そしてそれは、脳裏に焼きついている限りにおいて、しばしば悩みの種になる。そして現在行おうとしている動きを抑制する。トラウマ、というやつだ。
先ほどの六歳の頃の話がまさにそれである。ぼくはこの出来事を記憶しているけれど、失礼なことに相手がどんな人だったかは忘れてしまっている。紛れもなく『好き』だったはずなのに、だ。所詮子どもにとっては、長時間会わなければ思い出に埋もれてしまう程度の繋がりだったのだろう。例え今その相手に再会したとしても、昔と同じように『好意』を持ち『恋』をする保障は無い。しかし、ぼくと彼女は疎遠になったとはいえ『両思い』だった。
ぼくは『好きだった』ことを覚えている。ぼくは『好き』という気持ちを忘れてしまっている。では、彼女の方はどうだろうか。……確認する術は無い。
別の人を『好き』になってもいいのだろうか。それは、彼女を裏切ることにならないだろうか。
ぼくは恋も将来も、なにもかもがあやふやだ。
*
「――なあ!」
どうしてぼくの周りの人間は、一様に突然大声で人を呼びつけるのだろう。驚くのは仕方の無いことだ。声の主の予測をつけながら、背後を振り仰ぐ。果してそこには長身の男がいた。
「やっぱり黒沢か。……ん?」
黒沢は少々我の強い性格だが、能天気でノリが良く、口はいつでも緩んでいる。はずなのだが、目の前の彼は彼らしくなかった。唇は真一文字に結ばれ頬は引きつり、眼差しは痛みを感じそうなほど突き刺さる。凛々しいと表現するには少し力みすぎていた。
体調が悪いのか? そう疑いを持ったが、違った。
「あ、あ、あのさ、白岩。……あー、その」
何かを言わんとしていることは分かるが、どうにも話が進まない。なぜこんなにも顔を赤くしているのかさえも伝わって来ず、聞き手としてはもどかしい。もっともそれは、黒沢自身も同じだろうが。
ちょっと待ってくれというように手のひらをかざし、深呼吸。落ち着くのをしばらく待ち、頃合を見計らって訊ねてみた。
「で、一体何の用?」
「あ、ああ。ちょっと相談があるんだが、聞いてくれねぇか?」
並々ならないあの様子を見ておいて、断ることなどできない。首肯の後一拍置いて、黒沢は口を開いた。
「俺、好きな人がいるんだ。どう告白したらいいと、思う?」
そう、一息で吐き出す。あまりに想定外な内容だったためぼくは数秒固まってしまったが、一つ重要な情報を聞き出した。
「えっと……相手は誰?」
「――佐久間。佐久間明」
顔が赤くなった。黒沢の顔、そして――ぼくの顔までもが。
佐久間の名前を聞いた途端、身体中が不思議な感覚に包まれた。肉体はそのままに精神だけがふらふらと空へ抜け出したような。または、のたうち回りたい衝動を無理矢理何者かに押さえつけられているような。どこか欲求不満で、何かを失った、中途半端な気分だった。
何で。何でこんな気持ちになるんだろう。
「おい、なあ、聞いてるか?」
ぼくは肩を揺さぶられるまで、自分が全くの上の空だったことにすら気付かなかった。「ごめん」
すると黒沢はどこかを向いたまま、恥ずかしそうに色々なことを語った。佐久間を好きになった時期と経緯、そして最近仲良くしていること、その過程でどんどん気持ちが膨らんできたこと、趣味やタイプや彼氏がいないことを聞き出した話。率直に言えば気味が悪いほど、良く言えば熱心に盲目に。
その内容はよく頭に入ってこなかったが、黒沢の佐久間に対する想いがとても強いことだけは伝わった。
「それで白岩……俺の告白、見ていてくれねぇか? 例え結果がどうであっても」
曰く、友人が近くにいればどんな返事をもらったとしても取り乱すことはないはずだから、とのことだ。初めに「どう告白したら」などと言っていたが、実はもう十二分に脳内シミュレーションをしているらしい。
計画はこうだ。五時に佐久間が軽音楽部の練習を終わらせて、最寄駅への道を通って帰る。よってその道沿いの公園で待ち構えて、そこで告白する。現在は金曜日の放課後、午後四時過ぎ――因みに黒沢に呼び止められたのは、校門を出て少しの所でだった――。その時刻になるまでに公園でスタンバイしておく必要がある。
「っつーことで、早めに行くぞ」
彼の中では既にぼくは協力者である。半ば強引に、その公園へついていくことになった。黒沢のぎこちない早足に先導されて、十分程度で到着した。
そこは高校か駅へ向かう者しか通らないような道に面していた。そして、予想以上に広い。遊具も一通り揃っているし、緑の手入れもよくされている。とはいえ大樹は大方葉を落としているが。ぼくは入り口とは逆の位置にあるベンチに腰掛け、見慣れない光景に好奇心をくすぐられながら周囲を見回した。自宅とは大分離れた場所のため、ほとんどこの近辺には来たことがないのだ。
今は一年でも最も日が短い時期。早くも沈み始めた太陽が、町を赤く燃やす。子どもたちは名残惜しそうに手を振り家路に着き、公園には夕日に照らされた男子高校生が二人残るのみとなる。黒沢は太陽の方を――高校の方角を凝視したまま、棒立ちしている。
「そう言えば黒沢、野球部の練習はどうした?」
「……サボってきた。今日しか、チャンスがねぇから」
その言葉に、彼の本気の決意を感じざるを得ない。それからは二人の間に会話が交わされることはなく、ただ時間だけが過ぎていった。びゅうと吹く風は数週間前より更に冷たく、じっとして動かないぼくたちの身体を震わせる。黒沢が作る影がだんだん長く伸び、その影と日向との境界線が少しずつ曖昧になっていく。
五時を過ぎた。ちらほらと部活動を終えて駅へ向かう生徒の姿が目に付くようになってきた。来るべき時を待ち構えて、徐々に心臓が高鳴り始める。
そして、遂にターゲットが姿を現した。黒沢は歩道の方へ歩き出す。南蛮歩きになってしまっていることには目を瞑る。こちらまでは声は届かないが、どうやら佐久間を呼び止めることには成功したようだ。ぼくの役目は一連の告白を見守ること。声が聞こえなくても問題は無いし、声が聞こえてほしくはない気持ちもまた、心のどこかにある。飲み込む唾が出てこないほどに、ぼくの喉が渇いてきた。
思い切り挙動不審な態度の黒沢と、楽しげに話す佐久間。その姿は夕日が落ちるのに従って暗くなり、ここからはよく見えなくなっていった。
「――あの!」
流石は野球部、そう褒めたくなるような威勢の良い切り出しだ。ただ、これ以降の言葉は聞き取ることが出来なかった。それでも、どんな内容を伝えているのかは、容易に想像が付く。
黒沢の坊主頭が下がった。それに佐久間は数秒戸惑い、胸に手を当て空を見上げて深呼吸をする――つられてぼくも少し見上げてみると、深い紺色と輝く朱色とが天の支配権を巡って争いをしていた――。次の瞬間、佐久間は手を差し伸べ、笑顔を見せた。黒沢は肩を震わせて、少ししてその手を取った。佐久間が何かを言うと、黒沢の目が見開かれる。そしてその頬を、光を反射する粒が二つ、流れた。
「ああ……」
無意識の内に声が漏れ出た。だらしなく背もたれに体重を掛ける。ぼくはこれ以上太陽を直視できなくてまた空を仰いだ。いつの間にか夜が勢力圏を広げ、夕方は殆ど端に追いやられていた。例え視界が歪んでいても、紺一色であれば気にもならない。
ぼくはようやく自覚した。気付いたときには遅かった。
佐久間のことが、好きだったということに。
*
それから数日、何をするにも力が入らなかった。心ここに在らずといったふうに宙をぼんやり眺めているぼくに、麻美は毎日のように様子を尋ねてくる。しかし「大丈夫」「気にしないで」などという逆に心配を掛けそうな生返事しか出来なかった。
ところでテストの結果はと言えば、自分なりには良い点ではあったものの、勝負相手の佐久間には数歩及ばなかった。得意げに見せ付けられたピースサインは、ぼくの心をより滅入らせる。
そんな彼女と黒沢はあの日からめでたく付き合うことに。次の日の朝には何故かそのことがクラスで話題となっており、情報はどこから漏れるのかと不思議に思った。ぼくは後で黒沢から感謝の言葉をもらったが、素直にどういたしまして、とは言えなかった。有体に言えばこいつは一方的な恋敵だったのだ。もっとも、対決は不戦敗に終わったが。
話は変わり、今週は担任との二者面談である。テストの結果と進路希望を照らし合わせて、将来について話し合うのだ。ある程度でも希望が固まっていれば、有意義な面談となるだろう。だが、ぼくはそうではない。
「白岩くん、入って」
放課後の教室から先生の声が聞こえた。「失礼します」と言い、扉を開ける。中心の席は先生と対面できるように、普段と少し配置が変わっていた。たったそれだけなのに、ここがいつもの教室と同じ部屋だと感じられなかった。
緊張が無いといえば嘘になるが、気負いはそれほどない。先生は資料に目を落としていて気付いていないだろうが、ぼくは軽く会釈をして先生の正面に座った。
「じゃ、始めよっか」
有浜智子先生は後頭部で一つに括った髪を揺らした。人を見る目に自信は無いけれど、おそらく歳は三十代。担当教科は数学科だ。年度始めの自己紹介で「わたしには敬語を使わなくていいから」と言ったことから、八割方の生徒はその言葉通りにしている。このような数々のエピソードから生徒に人気があり、信頼も寄せられている。
ぼくは二割の方だが、それでも有浜先生には良い印象を持っている。
「よろしくお願いします」
初めは定期考査の結果の総評からだ。おおよそ平均通りなのは良いこと。これは裏を返せば弱点が無いと言えるのだから自信を持つように。ただ、本来の力をまだ満足に発揮できていない節がありそうだ。やる気次第でまだまだ成績が伸ばせる余地があるので、より上位を目指してみてはどうか。――約五分に及ぶ話をまとめるとこうである。
先生と話すと、どこからか自信が湧いてくる。それは褒めることや貶すことに一辺倒になっているのではなく、一度ダメだと言った後直ぐここが良いなどとフォローする話術によるものだと感じる。飴と鞭のテンポが心地よく、素直にアドバイスを聞き入れることができるのだ。
そんな固い話題が終わると今度は、ぼくの日常についての話に移った。家では何をしているのか、学校での友人関係はどうか、など。その内に少しずつ、緊張もほぐれてきた。
「それにしてもあの二人、驚いたねぇ」
「……ですね。まさか佐久間と、あの黒沢が付き合うことになるなんて、考えたこともありませんでした」
「ね」
有浜先生は答えを聞いて、にやりと笑う。そしてその顔のままぼくに問う。
「白岩くんさ、最近どう?」
こんなにもアバウトな質問を突然振られても困る。ぼくは言葉に詰まってしまった。
「何か悩みとかない? 勉強とか、将来とか」先生の瞳が、不意に鋭くなった。「友人関係で、とか」
その眼光は一直線に網膜を超え水晶体を通り抜ける。ぼくの脳の奥深くまで全てを一挙に覗かれたような、そんな錯覚に陥った。――見透かされた。耐え切れず、ぼくは窓の外に視線をずらす。
「特に、無いです」
「嘘」
即答。人間の反射速度の限界を超えた反応速度でもって否定される。まるで答えが事前に知られていたかのようだ。
「この頃の白岩くんの様子、ちょっと気になってたから、どうしたのかなって」
「先生には関係ないです」
「あるよ」またしても瞬時の返答だ。が、その目から先ほどのような険しさは消え失せていて、代わりにそこには穏やかな光が宿っていた。「生徒がより楽しく学校生活を過ごせるようにするのも先生の役目。少しでも辛いことを抱えているなら、遠慮なく吐き出してくれないかな? きっと楽になるよ」
全てお見通しというわけか。何となく悔しくて、僅かに笑ってしまう。
先生の魔力か、言うことを強いられていはしないのに、ふとすると口から滑り出てしまいそうになる。だが心に溜まっているこの気持ちは、どうしても自分だけで決着を付けなければいけないものだ。決して他人に話す内容ではない。
だから、
「……人間には、どうして『悩み』があるんですか?」
心を締め付ける感情の、正体を問うた。先生は一頻り唸り、机に両肘をつきぼくの目をしっかりと見つめた。
「人間だから、かな」今度は、視線から逃げるような真似はしない。「『悩み』は、その人の理想と現実にズレがあるから生まれるんだよ。例えば、肥満をコンプレックスに思う人は、痩せた理想の自分になりたくて悩む。昔友達と喧嘩したきり絶交状態にある人は、友人と復縁したいという理想のために悩む。要するに『悩み』ってのは、『あの時ああしていれば今はこうだっただろうに』『今こうしたら未来はああなるのかな』……そういう『もし』の過去や未来を想像できる、人間にだからこそ存在するんだと、先生は思うよ」
思わず聞き入っていたことに、話が終わってから気付いた。
なるほど確かに、有浜先生の言うことは正しいと感じられた。ということは逆に考えると、『悩み』があるということは自分なりの『理想』があるということで、この場合の『理想』とはつまり……。
自分の心すら理解できないのに、他人の心なんて分かるはずもないな。そう感じた。
最後に、と先生は言う。
「白岩くんは将来の夢とか進学を希望する大学とか、あるの?」
「いえ……まだ悩んでいます」
「そっか。でもそれでいいんだよ。悩みがあるのなら、それは白岩くん自身が何かしらの希望を持っているということ。大いに悩んで大いに迷って、そして決めなさい」
頭の中に、白紙の進路希望届が蘇る。
「たった一つの自分の将来を選ぶためだもの、候補はいくつあっても困らないよ。……遅くなったって構わない。でも最後には必ず決断するのよ」
先生の言葉は、一字一句漏らさず肝に銘じた。どのアドバイスもぼくにとっては的確すぎて容赦なく胸に突き刺さってくる。しかし、その痛みが何故か心地良いのだ。
「分かりました」
「いい返事ね。ではこれで、面談を終わります」
「ありがとうございました」
席を立ち、頭を下げる表面上は浅い会釈だっただろうが、そこにぼくは大きな感謝を込めた。立ち上がったとき、肩の荷が下りたように身体が軽かった。
教室のドアに手を掛けたそのとき、背後から声がかかる。
「――自分に正直になって。『正解』は、自分の心の中に必ずあるから」
はい、と返事をしたぼくは、有浜先生に自然と笑顔を向けていた。
扉を閉め、深呼吸して一気に脱力する。終わってみると、まるで一瞬の出来事だったかのようだった。……とりあえず帰ろう。落ち着くのはそれからだ。
左右を見れば、そこには当然廊下が続いている。隣の教室などはまだ面談中のようである。誰もいない廊下はやけに静かで、もし誰かが通ろうものならその靴音が校舎中に響くことになるのだろう。何となくそれは憚られて、ぼくは息を止めてしとしとと玄関口へと歩いていった。
ガチャン。金属製の下駄箱が閉まる音がした。位置は隠れて直接見えないがぼくのクラスの辺りだ。一体誰かと覗いてみれば、
「……佐久間」
「あ、白岩。面談終わったの?」
佐久間の面談順は元々ぼくの前のはずだったが、ぼくの一つ後の人と相談して入れ替えたのだった。
彼女はロッカーに左手を付いてバランスを取り、右手で左右順番に上履きの踵部分を調整していた。その顔は上履きを向いていて、ぼくと目を合わせることはない。
「今さっきな」
「ナイスタイミング、あたし」
へへ、と笑い面談会場へ向かおうとした佐久間は、しかしぼくの隣で足を止めた。
「そうだ、ありがとね」
「何が?」
「この前のこと。龍彦から聞いたよ、あの時公園に居たんだって?」
黙って肯く。
「白岩がいなかったら、多分龍彦は言って来なかったと思う。だから白岩には感謝しているよ」
黒沢の奴、わざわざそんな話をしたのか。
「あ、ヤバ。早く行かないと。んじゃねっ」
予定時間が迫っていたのか、佐久間は風のように教室へ走り去っていった。まだ聞きたいことがあるというのに。
……「龍彦は言ってこなかった」。ぼくがあいつの告白の手伝いをしたことについてありがとうと、そういう意味だろうか。端的に言い換えれば、佐久間は黒沢の方から告白してほしかった。つまり、以前から佐久間は黒沢に想いを募らせていた。そのくせ自分から気持ちを告げる勇気は無かった、と。
僕の手は靴を掴んだまま固まっていた。どうしてか「虚しいなぁ」というフレーズが、頭の中をぐるぐると駆け巡る。放心状態とはこのことを言うのだろう。身体のどこにも力が入らない棒立ちの姿を、知り合いではない生徒何人かに見られたが、別に恥ずかしさなどは感じない。その感情すらも、今は麻痺していた。
しかしずっとそのままでいるわけにはいかない。三分程かかって、ぼくはようやく我を取り戻した。靴を履き替え、自宅への道を一人歩いていく。
空気はこの頃ますます冷え込み、厚手の制服すらも通り抜けて地肌に突き刺さる。この馬鹿な頭を冷やすには丁度いい。道程を半分ほど進んだ頃には、考えはすっかり面談の振り返りへと切り替わっていた。
有浜先生はすごい、改めてそう感じた。過去に別の先生と二者面談をした経験から言えば、それが終わった後には決まって自分を卑下し、不安に襲われるものだった。なのに今日は違う。心が冬晴れの空のようで爽快感さえある。
自分の将来も、こんなふうに透き通っていればいいのに、と空に嫉妬した。
今は、もう少し悩んでみようかな。家に帰ればあの紙が待っているけれど、そこにただ一つの答えを書き込むのは、もう少し先でもいいはずだ。先生の言葉で、そう思うようになっていた。
ここまで考えて、ふと気付いたことがある。さっきから『先生』という単語が頭を離れないのだ。気の置けない先生。時に厳しい先生。時に頼りになる先生。
「先生、か……」
ぼくもあんな『先生』になれるだろうか。ちらりと脳裏を掠めた言葉は、初めは冗談のつもりだった。だが僅か数秒経つと、その考えはビッグバンを起こして膨張する。
人に勉強を教えることは、どちらかと言えば好きだ。説明が上手いという自負も、ちょっとばかしある。教えるという作業をすることで同時に自分がより深く理解することもできる。なにより教えた相手が一人で問題を解けるようになったときそこに――同級生に対して失礼極まりないことだが――母性のような嬉しさと寂しさ、それと密かな優越感を得ることができる。
教師という仕事には『教える力』が必要不可欠だろうが、きっと大丈夫だ。もちろん学力がなければ話にならないが、これから伸ばす時間はいくらでもある。少なくとも、医師を目指すよりは何段も楽だ。
有浜先生のように、生徒から慕われる『先生』になりたい。
こうして思わぬところでもう一つの夢が出現してしまった。が、先生も言っていた通り、候補が多いのは悪いことではないのだ。
家に着いたときにはとても上機嫌で、出迎えられた母親に訝しまれたのは言うまでもない。
*
世間はホワイトクリスマスだなんだと騒いでいるが、ぼくには全く無縁の話。雪遊びはとうの昔に卒業して、今や積もった雪は足をもたつかせる憎き障害物としか思えない。ただ、儚げに舞い落ち薄っすらと木の枝に積もっていく光景が嫌いというわけではない。
天気予報ではピークは深夜からと言っていたはずなのに、下校時間には既に靴が沈むほどの豪雪。中庭でわぁわぁ騒ぐ生徒たちを尻目に、ぼくは昇降口の庇の下で白い息を吐く。
「どうしたの敬祐?」
振り返ると、そこにマフラーにコートの上半身完全装備を纏った麻美がいた。真冬の今も、やはり肌色の露出面積はほとんど変わっていない。
「帰りたくないと思ってさ」
念の為に鞄に折り畳み傘を忍ばせては来たものの、この銀世界に足を踏み入れねばならないということ自体が辟易の原因だ。
隣に並んで、何かの期待を込めた視線を送ってくる麻美。……どうやら傘を持っていないようだ。
「そうだなぁ、主事室なら泊めてくれるかも。ねぇ、二人で一緒に――」
「分かった、一緒に帰ろう」
麻美の顔にしてやったりという文字が浮かび上がる。早く了承してあげないと、こいつは本当に主事さんに直談判しにいってしまいかねない。
とは言ったものの、この小さな傘をどうしようか。ぼく一人だけが使うことは論外だが、かといって二人分のスペースも無い。
「……使うか?」
仕方なく柄を差し出すと、麻美は嬉々として受け取った。そうして傘を開いている間に、ぼくは数歩先行する。
踏み潰され圧縮された白い重りが、一歩ごとに靴底にまとわり付く。同時に雪は髪や肩や鞄にも降りかかってくる。殊に睫毛に付いた雪粒などは、本当に邪魔くさい。
校門を出た頃、背後から小走りの足音が徐々に近づいてきた。と思うと、不意に雪が止んだ。――違う。傘が頭上を覆っている。
「やっと追いついた……」
麻美が息を切らしているせいで、傘が揺れて雪が落ちて肩にかかる。
「何も走らなくてもいいのに」
「そうでもしないと、どんどん先に行っちゃうでしょ」
否定はしない。のんびり歩いていてはびしょ濡れになってしまうから、多分今日はいつも以上に早足だったと思う。どうせ二人とも帰り道は同じなのだから、はぐれる心配もない。
ふと、ぼくは違和感に気付いて上を、横を見回した。地味な色の傘から半分覗く、鼠色の空。右肩に積もった雪と左側で腕を伸ばす麻美。今の状況を客観視してみると、これはつまり、相合傘というものではないか……?
そんな考えに至った瞬間、不自然な勢いで麻美を凝視してしまい、怪訝そうな表情にさせてしまう。しかしそのしかめ面が上気しているように見えるのは、霜焼けか、それとも気のせいだろうか。
「……なに?」
「い、いや、何でもない」
まさか「これって相合傘?」なんて尋ねることもできず、そっぽを向いた。
一旦意識してしまうと、もう止まらない。まず、近い。二人とも無意識の内に少しでも傘の恩恵に与ろうとして真ん中に――つまりは互いに身を寄せ合っている構図だ。歩くたびに肩や腕が触れ合う。気温が低いせいで、彼女の温もりがよく伝わってくる。
そしてこの光景を見た一般人はどう思うか。ぼくらは紛うことなきアベックに見られるに違いない。知り合いに見られたなら余計に性質が悪い。高校生にとって誰と誰が付き合っているという情報は極上のスクープだ。噂は枝葉を付けて瞬く間に伝播していく。黒沢と佐久間の二人などは、翌日登校時に早くも冷やかされていたのを見て驚いたことは記憶に新しい。
そうなったら面倒だと思う反面、特に麻美とということで嫌悪感を感じそうにはない、と心のどこかで考えていた。
彼女は至っていつも通りで、ぼくのように馬鹿なことを考えていそうにはなかった。口元が緩いことも平常運転だ。こんな状況なら少しは意識してもいいものだろうに。
……やめよう、こんなの。煩悩を振り払うように、ぼくは別の話題を振った。
「明日から、冬休みだな」
「そうだねぇ。たった二週間だけどね」
「確かに。もっと伸ばしてくれてもいいのにな」
「ね」
言って、二人で笑った。
そう、明日からは冬休み。部活がある人もいるが、授業がないというのはそれだけで気持ちが軽くなる。それは学校に通う者のほぼ全員が感じていることだろう。
が、冬休みが明けると、ぼくを辟易とさせる日付が待っている。ただの授業の再開日というだけではない。その日は、進路希望届の提出締切期限日。
「はぁ……」
暗い未来に思いを巡らせてしまい、ため息が出てしまう。
麻美はその様子を見て、少し考え込んだようだった。やがて、口を開く。
「敬祐は、行きたい大学決まった?」
「……いいや、まだ」
実際問題、志望大学を決めるのはその先を見据えてからでなければいけないのだが、まずもって、夢があやふやなぼくはこちらを先に定めねばならない。しかしどれだけ悩んでも、答えは出てきはしなかった。
「決まらないんだよ。大学も夢も、何にも」
ぼくはぶっきらぼうに打ち明けた。麻美になら話してもいいと思えたから。
すると彼女は、だからどうしたのと言わんばかりの表情をした。
「――別にいいんじゃない?」
「もう希望届の締切が迫ってるのに、いい訳がないだろ」
こちらは真剣に悩んでいるのに、こんなに適当に返されたら腹が立つ。その苛立ちが態度に表れてしまった。
しかし麻美は怖気づくことは一切せず、言い放つ。
「でも、まだ二週間あるよ」
「……まだ?」
「だってこれから冬休みだよ? まだまだ悩む時間はあるじゃん」
目から鱗が落ちた気分だった。
進路希望届を貰った十一月時点では『まだ一ヶ月以上ある』だったものが日を経るごとに焦りが生じ、いつしか『もう二週間しかない』に変わっていた。期限を『もう』としか考えずに日々絞まっていく首を苦しく感じていた。
だが言葉を、見方を変えたことで『まだ冬休みがある』――猶予の存在に気付くことができた。
「それに、敬祐さ」
歩道の真ん中で、傘が足を止める。つられてぼくも立ち止まり、麻美の方に向き直った。
「ちゃんと考えてる? 何て書こうかって」
「言われなくても考えてる。もう、候補も決まってる」
「でも」既視感を覚える、鋭い瞳がぼくを射抜く。「その状態のまま、止まっちゃってるんでしょ」
図星だった。候補ならずっと昔から頭の中にあった。ただ、書く踏ん切りが付かなかっただけで。そのまま先日候補が増えてしまったせいで、思考回路はまさに泥沼だった。
『医師』も『教師』もどちらも同じぼくの夢。『医師』は昔から植えられている大樹のようなもの。新参者である『教師』がその座を取って代わるにはあまりに長く深く心に根付いてしまっている。しかし、その樹を育てることが何よりも難しいのは周知の事実。実を言えば、もう幹の中は腐ってきてしまっている。ならば前者に比べれば育ちやすい『教師』の若木を新しく植えて育てる方を選ぶべきという気もする。それでも大樹に情が湧いてしまい、切り倒すことが出来ないでいた。
結局そこまで行き着いてしまって、それ以上考えることを放棄していたのである。
完全に思考を読まれてしまい二の句が継げないぼくに、麻美は笑って言う。その思いがけない言葉が、ぼくを再び仰天させたのだった。
「じゃあ――決めなくてもいいんじゃない?」
夜になっても、雪は止まなかった。家の窓の外に見える閑静な住宅街とぼた雪の嵐の競演に情緒もへったくれもないのだが、その光景はぼくを落ち着いた気分にさせてくれた。……例え、その手に白紙の進路希望届が握られていたとしても。
締切には『まだ』時間がある。だから焦る必要は無い。必ず何かを決めなくてはいけないとしても、それは今直ぐにではない。与えられた猶予の間に、決断を下せばいい。
そう教えてくれた麻美には、感謝の気持ちしか出てこない。あの言葉がなければ、ぼくは貴重な冬休みの間ずっと焦燥感に駆られて神経を無駄に磨り減らしたに違いない。
この長期休暇の間に『医師』か『教師』か、どちらかを将来の夢として決めなければならない。幸いにも、悩む時間はたっぷりある。その職業についての良い点悪い点、自分に合った点を調べて、選ぶことが出来る。そしてそれを目指せる大学と学部を探す。――どれも容易いことのような気さえしてきた。
それに、第三の選択肢も、麻美が教えてくれたのだ。
*
翌年一月七日。
明日の登校の準備はほぼ全て仕上がった。またあの教室で、授業を繰り返す日々が始まる。とは言え、将来の目標を見据えたぼくにとっては、勉強は目標点へと到達するための手段であり、己をステップアップさせるために上る階段である。授業を
厭い憂う気持ちは、もう存在しない。
ぼくは例の紙を机の上に広げ、そうしてペンを執った。
将来はすぐそこまでやってきている。逃げることは許されず、諦めることは出来ない。――だから、ぼくは将来に『約束』する。
ぼくはきっと、大学に進学するだろう。けど、何処にかは分からない。
きっと、仕事に就くだろう。けど、何にかは分からない。
きっと、好きな人と結ばれるだろう。けど、誰とかは分からない。
でも、必ず決める。いつか、直ぐに、絶対に、道を一つに定めるから。
ぼくは大人じゃない。まだ、幼子なんだ。
だから今は未来に少しでも多くの希望を持たせてほしい。
我が将来、未だ定まらず。
読んでくださってありがとうございました
感想、批評等ございましたらどんなものでも構いませんのでいただけると嬉しいです
また、下記のブログでネタバレを含むこの作品の解説を行っています
http://awasone.blog.fc2.com/blog-entry-7.html
作品投稿、ブログ更新などをお知らせしたりするツイッターはこちら
@awasone_zyun