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失われた、唄  作者: 美桜
8/9

血塗られたフィナーレ



最終話です。







明らかに動揺するのかと思いきや、小西は冷静に言い放った。


「……どこから、気付いた?」


最後の望みをかけていた小西の言葉に、桜木の頭の中の何かが崩れた。


「……どうして。どうして先輩が」


「――“どうして”……だと……?」


明らかに怒った表情で小西は吐き捨てるように言った。

その表情に何か違和感を覚え、どういうことかと小西に詰め寄ろうとした桜木の上着の内ポケットの中の携帯が震える。

ディスプレイの表示名を見れば東からの着信の様で、少し迷ったが出ることにした。


――無論、視線は小西に向けたまま、だが。



『何か分かったのか?』


『……あぁ、それもとんでもねー事だ』


『11年前の、か?』


『……11年前の事件あれは――ブツッ! ツーツー』


(……どうやら俺は天にも見放されたらしい)



――あれは……

電源が切れる前に東が呟いたあの言葉。

その告げられた真実に目を見張る。



「……お前、思いだしたんじゃ、無かったのか……」



東の声と被るようにして聞こえた。

泣いているのかと思うほど、小西の声は震えていて、細い声だった。

ただ桜木は驚きで実際に“それ”が、とてつもない怒りだということすら、感じ取ることが出来なかった。



  *  *  *



「お前が、11年前の事件について言ったことがあったよな?

 それで、気付いたのかと思った。

 やっとアイツが報われるかと。

 そう、思ってた……」


「ええ……先輩があの、11年前の事件のあったあの場所に住んでいたんですよね?

 あの場所で……あの村で、11年前に何かが起こったんですよね?」


「……よく分かったな、流石は俺と行動を共にしていただけあるな」


「ふざけてんじゃねぇよ!!

 口頭だけの褒め言葉なんてやめろよ!

 あんたもそんな奴じゃなかっただろ!」


驚いた様な表情を作り、パチパチとやる気のない拍手を送った小西に桜木が吠える。

敬語も『先輩』という呼び名も付けずに吠える桜木の顔は、犯人と対峙する刑事の顔であった。


「……」


何も答えない小西に向かって焦れたように桜木は質問を繰り返す。


「でも、動機は?

 何故、あんたが人殺しを?

 怨念でもあったのかよ!?」


確かめるように桜木が言うと、小西は少しの間黙っていたが、その重々しい口を開いた。


「――『怨念』か。

 確かに、そうかもな。

 ……でも、これは『復讐』だけじゃない」


「……?

 それは、どういう――」


訳が分からないといった表情で桜木が言葉を口にした途端、小西の様子が変わった。


「……ックク…はは! 

 これは、傑作だな!!」


「!!!

 ……何がおかしい!?」


いきなり笑いだした小西に不快感を覚えありのままの感情をぶつけた桜木に向かって吐き捨てるように、憎悪の眼差しで小西は言った。


「まさか、お前が覚えていなかったとは」


「……だから、何を――」



「――事件の当事者だったお前が」



「……え」


思わず間抜けな声を発した桜木の頭に小西の嘲笑が響く。


「……覚えていないか。

 いや、覚えてる訳ないよなぁ?

 こんなに近くにいて気付かないんだから」


乾いた笑みを浮かべ、桜木を見ているはずの小西の目には桜木の姿は映っておらず、ただそこには果てしなく深い闇だけがあった。

そして彼は、一文字一句を相手に、桜木に言い聞かせるように言った。



「俺は」



――嫌ダ、聞キタクナイ。


頭の中で誰かの“声”がした。



「11年前」



――ヤメロ、聞クナ。



「あの場所で」



――耳ヲ塞ゲ!


“声”はどんどん大きくなっていく。



「お前に殺された――」



――モドレナクナル!!


半ば泣きそうな、悲痛な“声”が響く。



「――女の婚約者だ」



――ヤメロォォォォォォ!!!!!!!


“声”の叫びと同時に、全てのことが甦り自分が何をしてしまったのか……思い出した。



「お前のせいでアイツは死に……でも、それでもお前は生きている!!

 何故だとおもう?

 まだ幼かったお前に罪を着せられないと、そう村の連中は言ったんだ。

 そして本当に事件は犯人が死亡したとして処理された。

 村は小さかったからな、そんなことがまかり通ってしまったんだ。

 そんな娘の死を、何も出来ない自分に耐え切れずに彼女の両親も自殺した。

 ……嘘だと思うか?

 こんな理不尽なことがあっていいと思うか!?

 ――例え世界が認めたって、俺は、そんなの絶対に認めない。

 だから分からせてやったんだよ!

 彼女が好きだったあの唄を用いて!!」


涙を流し話し続ける小西の告白を、どこか遠くで感じながら桜木は己の両手を見つめた。




――嗚呼、俺は何ということをしちまったんだろう?



――最早、俺の両手は。



――いや、俺自身が。



――血に染まり、



――酷く、



――醜く、



――汚れている。



「……それも、お前で終わりだ。

 全てがお前を殺して終わるんだ」


虚ろな目で桜木を見つめ手を伸ばす小西の声を聞いているのかいないのか、彼は反応を返さない。



――血で、汚れてしまった手は。


   

――血デ、洗イ流スベキ、ダ。



  *  *  *



どこかで、不快な金属音がした。



  *  *  *



頭の中の記憶の鍵をそっとしめた桜木の心は、何故だかとてもすっきりしていた。




 ―― Fin... ――






この後、おまけがあります。




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