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『perfect doll』―完璧な人形―

作者: 月永

2013/01/22 改修。




 東京都内のとある場所、白い外観のモダンで瀟洒な家があった。

家の持ち主は色々な事情によってそれなりの資産を持つ青年。

広い緑の芝生の綺麗な敷地に建てられた青年一人が住むにはかなり広く部屋数がある二階建てのその家には、表向きの地下室のほかにもう一つ、鍵つきの秘密の階段が造られていた。

その地下三階の一室。

家主である青年は機械人形を造っていた。

 

 黒を基調とした小部屋は、反射によって僅かに朝の陽射が届き、更に淡いオレンジ色の間接照明に染められている。

冷たい黒大理石の床に横たわる人形。

それは、現代の科学では到底作りえないもの。

人と見まがう精巧で美しい人形。

うっすらと暖色に染まる室内で黒に見える長い髪は、今は閉じられ瞼に隠された瞳と同じ藍色。

僅かでも光があればそれを動力として動き、魔力と言われるものを纏う。

知識と感情をプログラムし、魂を与えられた機械人形であり忠実な使い魔。


青年は、自身によく似せて創った【彼】に向かい合い、起動させる。


 ゆっくりと開かれた機械人形の瞳が自分を認識するのを確認した青年は微笑んで彼へと問いかけた。


「おはようございます。【(らん)】気分はいかがですか?」


 事前にプログラムされた名を呼ばれた人形、藍は一つ瞬き藍色の瞳を細めた。


「――最悪だ」


 青年は首を傾げてさらに問う。


「どこか不具合でも?」


「違う」と藍は否定すると主である青年をねめつける。


「俺はお前が大嫌いだ」


 青年は首を傾げる。

趣味嗜好性格は自分と似たものに設定したし、創造主たる青年に忠誠を尽くすようにプログラムしたはずだ。

だというのに、藍は起動直後に怒りを表し青年を嫌いだと言う。

感情プログラムが機能している証拠でもあるが、不備があるのだろうか。


「自分で何をプログラムしたのか忘れたのか?」


 プログラムは全て記憶している。

青年はその記憶を反芻して直ぐに心当たりを見つけた。


「もしかして――」




(マスター)に【絶対服従】なんて命令されて、気分なんかいいわけあるか!」




 不機嫌に言い放った藍に、青年は思わず小さく吹き出すと、床に転げてお腹を抱えて笑い出す。


「――ですが、そのプログラムに変更の予定はありません」


「そうだろうよ」


 黒い大理石の床に転がり笑いすぎて瞳に涙で潤ませながら端正な顔で笑む青年を、藍は面白くなさそうに見やり、舌打ちする。



――創造主である青年に【絶対服従】――


 そのプログラムは最初に設定された第一条項。

つまり、最優先事項だ。

しかもそれは絶えず移り変わる(マスター)の意に添うように実行される仕様になっている。

これでは揚げ足を取るような、ちょっとした意趣返しも出来ないではないか。


 目の前で笑う(マスター)たる青年。

彼自身は何よりも自由を尊というのに、創造物である藍にはそんな絶対服従という命令を最優先で与えるのだ――巫山戯ている。


「不愉快だ」

 藍は憤懣遣る方無いといった様に吐き捨てる。


「それは、すみませんでした」

 そんな藍の様子に、言葉で謝りながらも、青年はとても楽しそうにやはり笑うのだった。








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― 新着の感想 ―
[一言] 5年ほど前の作品ですが、現在の人工知能が到達できない領域に到達した事が話として興味深かったです。 私も創造主である青年と同じ立場になったら、にんまりと笑うと思います
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