6.ラクサと昔の思い出
村の復興作業もようやく終わりを見せ、師匠と二人今晩の宿をどうするか相談していると、リットの家が宿屋をやっているので是非泊っていってくれと言われた。
そのありがたいお誘いを断る理由もなく、二人は無事暖かい寝床を確保することが出来た。
それからかれこれ二時間、ラクサは師匠から説教を受けていた。しかもよくわからない「正座」というものをして。師匠曰く、これが正しい説教スタイルらしい。
「大体わたし無理するなって言ったじゃないか。師匠の言いつけを破るなんてどゆことさ」
というようなことを延々言われ続け、早速ラクサの足はしびれて感覚がない。
「逃げ足の早さには定評がありますってか?おばか。そんなこと聞いてないんです」
師匠のまだまだ続く説教に涙目になりながら、心の内ではどこかくすぐったい気持で聞いていた。
翌朝、こんもりと盛り上がった隣の布団を見て、なぜこの人は頭まですっぽりと布団を被らないと寝られないんだろう、と不思議に思いながら顔を洗うために井戸へ向かった。
朝の澄んだ空気が気持ちいい。ラクサはハンダナを外し水を汲む。
するとそこへ老婆が野菜を洗いにやってきた。
「あんたユニコーンだったのかい?」
驚きに目を見張る老婆。
しまった。
ラクサははっとして急いで額を隠すが時すでに遅く、老婆はラクサの額を見て顔を歪ませた。
ラクサは老婆からの罵倒を予想してギュッと目をつぶりうつむいた。
しかし続いた言葉はラクサの想像像とは全く別のものだった。
「そうかい、あんたもいろいろあったんだね。おいで。ここは冷える。暖かいお茶でも御馳走しよう」
老婆の家は随分と古いものだったが、使い込まれた家具が丸みを帯びどこか温かさを醸し出していた。
「そこへ座っておいで。今入れるから」
しばらくするとハーブだろうか。いい匂いがラクサのところまで広がった。
「すっかり体があったまるよ。さあお飲み」
一口すすると体の奥がポカポカしだした。
芯からの熱で頬を赤くしてラクサは言った。
「とてもおいしいです」
それを聞いて老婆は満足そうにうなずいた。そして自身も一口すするとおもむろに口を開いた。
「運命だったのかもしれないね」
何の話だろう。ラクサは疑問に思いながら耳を傾けた。
「昔、まだあたしが若かった頃、同じように村に魔物が襲いかかってきたことがあったのさ。その時村を救ってくれたのがあんたと同じユニコーン。それもあんたと同じ枯れ葉色の髪と澄んだ赤い目をしていたよ。その人はあたしたちがお礼をいう暇もなくそそくさと出て行ってしまったけどね」
老婆はカップを置きラクサの髪と目を懐かしそうに移しながら言った。
「その人は腰に下げていたそれはそれは高価そうな剣を村に残していった。村の修繕に使えと言ってね。後から村長に聞いて皆で腰を抜かしたよ。あの剣は王都の武道大会で優勝した証にもらうものだって言うんだからね。早速質に出すどころじゃなくなって今も大事に村の宝になっているよ」
ラクサは言葉もなく老婆の話に聞き入っていた。
「人は他人の空似だって言うかもしれないけど、ねぇ。あたしは思うんだよ。これも運命。あの人はあんたの父親でその息子であるあんたもまた村を救ってくれた。うれしいねぇ。やっぱり長生きはするものだよ」
そのあと、ラクサはどこかぼおっとしたまま村を歩きまわっていた。
父親。考えたこともなかった。物心ついたときからおらず、死んだと思っていた。
それが突然、昔村を危機から救ったのは父だと言われた。見たことも聞いたこともない透明な父親。
ラクサはきっと顔をあげた。
「お師匠様、僕、きっと王都の武道大会で優勝して見せます!」
駆け足で宿に戻ると、その勢いのまま朝食中の師匠に向かって大きな声で宣言するラクサ。
何が何だかわからない師匠は、びっくりして喉に詰まらせたのか「ごほごほっ」とむせた後やる気満々のラクサを見て言った。
「よくわからないけど、何かいいことでもあったみたいだね。イキイキしてる」
その時ラクサの旅の目標が決まった。
「王都の武道大会で優勝」
二人は朝食の後挨拶もそこそこに再び旅に出た。
「お師匠様!僕どうやったら優勝できますか?」
「そうだなあ、取り合えず剣の練習から始めようか」
「っはい!」
ながかった初戦闘編が終わりです。次から少し時間がたってササラの港編突入です。
読んでくださった方に感謝!!!