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after story~名前を捨てた勇者伝  作者: むらまき雀
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2.ラクサとやさしい朝

 次に日の朝、ラクサが目覚めると昨夜の位置に師匠の姿はなかった。

 ラクサは飛び起きた。もしや師匠の身になにかあったのだろうか、と慌ててぐるりを見回す。すると、少し離れた場所の切り株の上に、胡坐をかいて瞑想する師匠の姿があった。

  

 いつからそうしていたのだろうか。師匠は完全に森と空気に溶け込んでいて、まるで時が止まったような錯覚に陥った。

 小鳥が肩に乗っても師匠はピクリとも動かず静止したまま瞑想を続ける。

 師匠の長い黒髪が朝日によってキラキラと輝く。それはまるで一枚の絵画のようでとても美しい光景だった。 

 

 その後ラクサは近づくことができず、瞑想が終わるまでその光景をずっと眺めていた。


 



「うい~っと」

 どのくらいの時間だったのだろう。バサバサと小鳥が飛び立つと共に師匠が大きく伸びをした。間延びした声で一度深呼吸。


 そしてくるっとこちらを振り向くとにこりと笑って言った。


「おはようラクサ。気持ちのいい朝だね」


 ラクサは驚きに目を見張った。

いつ振りだろう、「おはよう」で朝を迎えるのは。すっかり忘れていた感覚に、ラクサは感動で胸を詰まらせると、どうかこの幸せが少しでも続くようにと願いながら言った。どうかこの喜びが師匠に伝わりますようにようにと。


「おはようございます、お師匠様」


ラクサはにこりと笑った。そして心から思った。本当に素敵な朝だ、と。


 


 こうして穏やかに二日目の朝は始まった。








「今日は人里に下りようと思うんだ」

 朝食に、もいだ果実を食べながら師匠は今後の予定を話し出した。

 まず第一に冒険者となったラクサのギルド登録を行いたいらしい。必須ではないが、やっておいたほうが何かと便利に運ぶのだそうだ。

 そのためにギルドのある町に行きたいのだが、あいにくこの辺りは辺境でギルドのない村や集落ばかり。そこでここから一番近い港町ササラに行くことになったのだが…。


「まだまだ距離があるし、いくつか村も通らなきゃならない。街道をたどれば自ずと旅人にかち合う。

…それで、ラクサが平気だというのなら聞き流してくれて構わない。だけどもし、もしその角のことで人目を気にするというのならこれを使うといい」

 そう言って一枚のバンダナを差し出した。それは鮮やかな紅色に染められ、金の糸で細かい刺繍がなされたとてもきれいなものだった。


「ラクサの瞳と同じ色でしょ?君の髪色にとても映えると思うんだ」

 気に入るといいんだけど、とどこか自信なさ気に言う師匠。

一方でラクサは驚きに言葉を失っていた。

 そしてふと、昨日師匠に角のことを言った時の様子が頭をよぎる。

 何かを考えていた師匠。まさか、これについて考えていたのだろうか。

 人目の多い場所でもラクサが気負うことのないように。傷つくことのないように。こんな立派なバンダナを用意して。


「お師匠様……」



 実際ラクサは旅に少しばかりの不安を感じていた。これから出会う人々や同じ冒険者はきっと『角なしのユニコーン』を見たら、よく思わないに違いない。暴言や暴力を振るわれるかもしれない。

 それまだいい。もしもそれが師匠にまで及んだら…。『恥じ知らすのユニコーンの師匠』として馬鹿にされるようなことがあったら…、きっとすごく申し訳なく居た堪れない気持ちになるに違いない。そう思っていた。しかし…。




 ラクサは思った。確かに師匠は出会ったばかりで、さらに不明な点が多い不審人物のような人だ。だがしかし、かつてこれほどまでラクサのことを思い向き合おうとしてくれた人はいただろうか。否。

 


 ラクサは感動に震えそうになる手でバンダナを受け取った。

「お師匠様…、ありがとう…ございます。…とてもうれしいです」

感謝の声が震える。最後の言葉はかすれてしまった。恥ずかしい。

 ラクサの頬が真っ赤に染まった。

 

 そんな初々しいラクサの様子をうれしそうなやさしい目で見つめる師匠。さながら子を見守る母のように。



 春のやさしい風がラクサを包む。新緑の木々がサワサワと音をたてて揺れていた。

 

 ラクサはしっかりと大事そうに握りしめたバンダナを見つめて思った。



  きっとこれは僕の一生の宝物になるに違いない。



 このある種予感めいた思いは外れることはなく、生涯ラクサはこのバンダナを肌身離さなかったという。だがこれはもっとずっと後のこと。また別のお話である。

予定ではラクサの初めての戦闘を書くはずが…、思いのほか朝ごはんの時間が長引きましたね(笑)次こそ戦闘です。多分。上手く書けるかな??不安です~。


読んでくださった方に感謝!!!

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