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after story~名前を捨てた勇者伝  作者: むらまき雀
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1.ラクサと師匠

 ユニコーンの森、暗くなって街道に出るのは危険だと二人は森の端で暖をとることになった。


 いろいろと支度をしてやっとお互いの自己紹介となった。

 そしてラクサは驚くことになる。

「私名前がないの。好きに呼んで」




 突然の「弟子になれ」宣言の後、慌ただしく故郷を後にしたラクサだったが、心を占めるのは旅立ちの感慨よりも師匠となった「人間の女」のことだった。

 何よりも謎すぎる。出会って半日、初対面の会話でさえ女が自身のことを語ることはなかった。

 そしてラクサも名前を告げていない。お互いがお互いを知らないまま歩いて半日、あたりは暗くなり今日はここで野宿だ、と告げられた。

 女は手近から枯れ枝を集めるとそれにフウと息を吹きかけた。するとたちまち火がつく。

 ラクサは驚いた。魔法というものを見たのが初めてだったのだ。

 そもそも魔力というものは誰もが大なり小なり持っているものらしいが、それを実際に扱えるのは王都の学院で学んだり魔術師に弟子入りした者たちだけだったからだ。

 

 おずおずと焚火に手をかざす。暖かい。本物の炎だ。本物の魔術師だ。

 ラクサは歓喜した。それと同時に目の前で鞄を探っている女に師事し、冒険者になったんだという実感がわいた。

 ラクサは勇気を出して女に話しかけた。

「あの、お名前は何と言うんですか?」

そして話は冒頭に戻る。




「名前がないって…もともとないんですか?」

「昔はあったんだけどね。捨てたの」

あんまりな答えにラクサは思わず問い返した。だが帰ってきた答えは内容の割にさらっとした口ぶりで何があったのか詳しく聞きたくなったが、さすがに今日出来たばかりの弟子に教えるほど軽い内容ではないだろう、と思い自重した。

「だから、好きに呼んで頂戴」

「好きにって…例えばどんな?」

「例えば、昔の子は『先生』とか『師匠』『スース』後は…ああ『マイディアー』なんてふざけたのもあったなあ。今思えばよく許可したもんだ」

いろいろと思いだしているのか女はクスクスと笑った。そして鞄から携帯食料を出して「旅初日が携帯食料なんて味気ないけどごめんね」と申し訳なさそうにラクサに渡した。

 確かに味気ないが渡されたそれは通常の粉を固めた、いかにもまずそうなものではなく、女が自分で作ったのか中に乾燥した果物が練りこまれていて通常のものより遥かにおいしそうなものだった。

一口かじる。驚いた。

「普通のものよりおいしいとは思うんだ」

女の言うとおりとてもおいしかった。



「あの!お・お師匠様…は以前にも弟子をとられてたんですか?」

女、否師匠は「お師匠様」と何度か繰り返しまんざらでもない顔でうなずき呟いた。


「悪くない」

 

 何が?


 後になって聞いた話だが、ラクサのような素直で絵に描いたような従順な弟子を持ったのは初めてで、この時ラクサの「お師匠様」という純粋な呼び方にいたく感動していたらしい。曰く過去の弟子たちは皆一癖も二癖もあるやつらだったと。のちにラクサは旅の途中、その弟子たちに会うことになるのだが確かに皆個性的な面々で、師匠の苦労がうかがえた。

 だが、それらはすべて後になって知ったことだ。


「そうだね、まあ何人か。いろいろと」

師匠の返事は実に曖昧なものだった。

「いろいろと?」

「エルフとか獣人とかドワーフとか、まあいろいろと」

「……」

どう見ても二十代前半にしか見えないのに、本当にそれだけの弟子を一人前に育て上げたのだろうか。それともその姿は何かの術で若返っているのかもしれない。

ラクサはそれ以上聞くのをやめた。おそらくこれ以上聞いても師匠は「いろいろと」としか答えてくれないだろう。どうやら師匠には「いろいろと」謎があるらしい。


 そしてラクサも自己紹介をした。

幼いころ両親を亡くし身寄りがないこと。角は昔魔物に襲われたときにおられたこと。手先が器用なこと。木イチゴの実が好きなこと。そして勇者とその片腕ラビダテに憧れていること。


 角の下りは出来れば言いたくない最大のコンプレックスだが、角がないのは明らかなので言わなければならないだろうと思った。

角なしユニコーンに『生き恥』『落ちこぼれ』の意味があることを知っているのかは分からないが、弟子の話からして、いろいろな種族と交流のある師匠ならきっと知っているのだろう。しかし、そのことについて師匠が言葉を荒立てることはなかった。


ただ一言「そう」と言ったきり黙った。難しい顔をして何かを考えているようだった。

 


 実際に「誇りを失ったユニコーン」として同胞から罵られていたラクサは、ほっとした。そして、まだ数時間の付き合いだがそのような野蛮な行為を師匠がするのではないか、と信じられていなかった自分を恥じた。

 経緯はどうあれ自分はこの人に師事したんだ。師匠のことは信じなければいけない。


 ユニコーンは誇り高く、実直な生き物なのだ。



 

 お互いに自己紹介しているうちにあたりはすっかり夜の帳に包まれた。

 ラクサは明日からのことについて話しておきたいことがあったのだが、なれないことはするものではない。集落からあまり出ることのなかったラクサは疲れてすっかり眠くなってしまった。


 魔法の炎がパチパチという音を立てる。

 ラクサが大きなあくびをすると「今日はもう寝ることにしよう」と師匠が言った。

そして、先ほどのカバンから暖かそうな毛布を出すとラクサに渡して言った。

「見張りは私がしているから、あなたはおやすみなさい」

 ラクサは言いたかった。「師匠を差し置いて弟子が先に寝るわけにはいきません!」と。

しかし、まだまだひよっこ弟子のラクサには獣の出る夜の森の見張りなど出来るわけがない。主張とは裏腹にすでにラクサの瞼は閉じようとしていた。

 そして霞む思考で師匠の「おやすみなさい、いい夢を」というやさしい声を聞いてラクサは眠りに落ちた。



 こうして二人の旅一日目は終わった。

ようやく一日目が終わりました。これからどんな旅になることやら。とりあえずしばらくは二人の旅の様子を書いていきたいと思いますよ。

途中で思ったんですが、師匠とかラクサの容姿についてふれられてません!!!こりゃ一大事だ!!!ということで次回にいれるかキャラ紹介でもするか考えます。なんだかなあ。


読んでくださった方に感謝!!!

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