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期間限定迷子  作者: yoshihira
本編
7/65

06 配属先


 ゼイアス国西イーラウ地区シゼル隊長率いる警吏隊に入隊して嵐の一週間が過ぎた。


 半端無い。半端無かったよ…。

 何度、入隊を後悔したか。


 入隊初日、まず最初に世話係のアインを紹介された。

 アインも比較的入隊したのは最近らしく(といっても半年前だけど)、お互い足りない部分を補完し合うようにと言われた。


 アインは二つ年下で、何でもすぐに口に出してしまう所が玉に瑕とは言え、その分、正直でさっぱりとした性格は好感が持てる。

 いつもくしゃっと毛先が丸まる金髪を見るとひよこを思い出した。目の色はびっくりするくらい明るい緑をしている。


「へぇ、お前、女みたいに細っこいな。そんなんで隊務をこなせるわけ?」


 だから、あなたたちがでかすぎ以下同文。

 人種の違いだ! きっと。


 というか、女はやっぱり隊に入っちゃまずいんでしょうか…。今更訊けないこの疑問。


「ま、隊長が許可出したんだから俺が言う事でもないか。とにかくよろしく」


 この悪意の無いからりとした物言いは良かった。

 私は握手をして友好を深めた。


 アインは制服など明日からの隊務に必要な備品の手配をしてくれ、寮に案内してくれた。

 狭いながらも個室だ。しかし、浴室、トイレは共同だという。合掌。


 それから食堂。毎日決まった時間に食事が出るこの贅沢さ。


 記憶喪失である事を話すと、アインは驚きつつ、色々とこの国や街の事についても細々と説明してくれた。


「国名はゼイアス。王政を敷いているけど、幾つかの都市に監督官を置いて自由自治権を与えてる。このイーラウもその一つさ。

 イーラウは昔からある有名な交易都市なんだ。この西イーラウが百年前に出来たのが最初。

 ゼイアスに接する他国とも、海洋からも足を運びやすい場所にあって、一旦、物は何でもここに集まると言われてる。

 その分、人の出入りも激しくて治安維持も大変なんだけどさ。街の中も迷路みたいだったろ」


 アインは西イーラウ出身らしい。ありがたい事に、物を良く知っていた。


「東イーラウ地区は何処の事なの?」

「東は西イーラウに後から増築された富豪層が多く住む区画なんだ。

 ほら、西と接してるあの門から出入りできるけど、入門検査は恐ろしく厳しい。

 街を上から見たら、西イーラウにくっついたこぶみたいにみえるぜ。

 この街に生まれて十八年間ずっと暮らしているけど、俺も未だにあっち側に入った事はないんだけどな」


 なんだか色々ありそうだ。


 西イーラウ地区警吏隊は二百人。東イーラウ地区警吏隊は百人。総計三百人の隊員が配備されている。

 シゼル隊長とウェイ隊長の下に部隊長がおり、部隊は各十五人ずつ編成されている。

 隊長の上には総隊長がいるが、それは名ばかりの貴族で他の都市に住んでおり、実際、指揮を振るう事はほとんどないのだとか。

 つまり実質のトップはあの二人。


 通貨の単位など、あとは生活に必要な知識を色々と訊いてみたけれど、何とか応用が利きそうな感じ。

 調味料とかの名前とか、細かな差異はあるだろうけど、充分順応できるレベルだ。


 それと、魔学。この世界には存在しているのかなー。

 不審人物扱いをされない為にも、その辺りの確認もしておかないと。


 その夜遅く、皆が寝静まった頃を見計らって風呂を使い、早く元の世界に戻れる事を祈って、私は眠りについた。










 持ち歩いていた目覚まし時計で起床し、制服を着る。思ったより伸縮性のある生地でびっくりだ。

 アインと朝食を済ませて、二人で隊長の執務室に向かうと、シゼル隊長が部隊長を兼任する二番隊に所属するように言われた。


 ちなみにアインも二番隊。


「へぇ、カズミも結構やるんだなぁ。自分で言うのもなんだけどさ、二番隊は一癖も二癖もあって個人プレイが目立つけど、腕は他よりずば抜けてる奴が揃ってるんだぜ。

 お前と仕事すんのが楽しみだよ」


 にかっと眩しい笑顔を向けられ、ぶんぶんと首を横に振る。


「いやいや! 私、剣は駄目駄目だし、体術は普通だし! なんで、二番隊に配属になったのか全然わかんないんだけど!」

「へ? そうなのか? まぁ、シゼル隊長が理由無く決める事はないと思うけど」


 うぅ、嫌な予感がする…。

 やっぱり追剥の件で、なんか変な疑いでもかけられてるんだろうか。


「とりあえず、二番隊の奴らに挨拶に行こう。お前を入れて、丁度十人だ」

「あれ? 十五人で一部隊って言ってなかった?」

「あー、元々数いないんだけど、この前、二人退職したからなー」

「…それって殉職?」

「いや、寿退職」


 それって、性別はどっちで考えれば!? もしや男で寿退職って事もあり!?


 会議室に通されると、予想通りと言えば予想通り、個性溢れる七人の猛者たちがそれぞれに寛いでいた。


 壁に向かって延々とナイフ投げをしている少年。壁には既に三十本くらいナイフが突き立っている。

 一体、何本、ナイフを隠し持っているのだ、少年よ。


 椅子に座った妖艶なお姉さん、にしか見えない隊員。

 いや、女の人のように胸はないんだよ! 確かに胸はないんだけど、何だろう、制服を着ているのが勿体無いくらい金髪がゴージャスな色気の滴る姉御なんだけど! 性別はあえて問えない。


 壁に背を預けたままぴくりとも動かない黒髪の青年。

 明後日の方向を見たまま、完全無視という態度。何か、アナザーワールドを三つくらい持ってそうだな。


 そして、二人でジャグリングをし合っている猫耳を付けた双子。カラフルなボールが二人の頭上で代わる代わる飛び交っている。

 片方は右耳に銀の環、片方は左耳に同じ銀の環をしている。間違い探しの題材に使えそうな二人だ。


 あとの二人はいわゆる大人の男で制服がよく似合う事ったら。鞭でも手に持てば、何処かの独裁政権を思い出す。

 チョコレートブラウンの髪の男は卓の上に腰かけ、赤毛の男はその斜め前に向かい合って話し込んでいる。


 …何と言うべきか、何だろう、このサーカス団を結成できそうなこの面子は。

 見ているだけで疲れてくる。


「おーい、新しい奴連れてきたぞー」


 アインはさすがと言うか、目の前のこの有様に怯みもしない。


「今日から二番隊に配属されたカズミ。そんでもって記憶喪失らしいから適当に面倒見てやってー」

「…はじめまして、よろしくお願いします」


 何だその自己紹介と思いつつ、無難に挨拶をしておく。


「私はオードだ。よろしく」


 そう言って友好的に笑ってくれたのは、赤毛の男だった。

 さすが大人だ。穏やかな微笑みがとても優しそう、かつ、まともにみえる。


「アイヴァンだ。まぁ、頑張れよ」


 ぶっきらぼうにそう言ってくれたのはチョコレートブラウンの方。

 この人も何だかいい人そうだ。


「ちっちゃいね」

「顔も平凡だし」

「あんまり面白くなさそう」

「残念だ」

「俺は、ユーク」

「俺は、サイド」

「適当に頑張れば」

「邪魔になるなよ」


 ジャグリングを続けたまま、振り向きもせずに双子が言う。

 また、ちっちゃいって言われた。私は敵のカテゴリーに彼らを分類する事に決めた。


 と、頬にちりっとした痛みが走って、視線だけを横に向ければ背後の扉にナイフが刺さっている。


 …これは。


 どういう。


 挨拶。


 だ!


「おいおい、ルイ。こっちに投げてくるなよ」


 呆れたようなアインの声。いや、それだけで済ませるんかい。


「鈍いわねぇ。あれくらい避けなさいよ。そんな事だからお肌に傷なんて作っちゃうのよ。顔に傷を許すなんて最悪ね!」


 なんて言われようだ。というか、やっぱりその低い声、オカマさんなの?

 美肌至上主義らしい彼の名は、マグノリア。


「…」


 そして、その背後でひたすら自分の世界に沈んで戻ってこない黒髪の彼は、ヨルファ。


「…アイン」

「ん?」

「他の隊に替わることって出来る?」

「そりゃ、無理じゃないか。正当な理由があるんならともかく」

「…だよね」


 なんだか泣きたいぞ、本当に。



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