― 幕間 ― ウェイとシゼル
ちょっとだけ三人称
イーラウ地区警吏部隊、隊長を務めるシゼルとウェイは立場上、日に一度は顔を合わせる。
それは大抵、シゼルの執務室にウェイが顔を出すかたちで、逆はまずない。
ウェイが自分の執務室に戻りたがらないのには理由があった。
「で、今日のアレは何だ?」
いつものように定位置に背を預け、頭の後ろで腕を組んだウェイがにやりと笑う。
「いつ臨時の隊員募集なんて始めたんだよ。ま、人手不足なのは否めないが」
イーラウ地区は万単位の人が住み、その分、揉め事も多い。
非常態勢を取っている今、猫の手も借りたいほど忙しいのは確かなのだが。
「あんな入隊審査までして、何をしたかったんだ?」
面白そうな何かが始まりそうな気配を嗅ぎ付けて、舌舐めずりする男がここにいる。
「―――気になる点がある」
机の上の書類に次々と目を通しながら、シゼルが告げたのはそれだけだった。
具体的な事を口にしないのは、何も確証が得られていないからか。
ひとまず監視しながら静観する構えなのだろう。
「あんな子供に何があるって言うんだか」
見慣れない衣服を身につけている他は何ら特徴も無い。ひょろりと細い―――少女だ。
様々な人種が集うイーラウでは、黒髪に黒眼は特に目立つ容姿でもない。
傭兵を名乗るほど腕が立つわけでもない。ただの負けん気の強い雛鳥。
だが、シゼルの勘は侮れない。
「ウェイ、各国の情勢について報告が届いている。テネジアがどうにもきな臭いとの話だが、何か聞いていないか」
「塩の値が常より高いっつーのは聞いてるけどな。テネジア人の動向には気をつけておくか」
「あぁ、物価の変動も一つの指標に変わりは無い。『死神』の件が当面の課題だが」
「囮でも用意するか?」
「―――考えておこう」
―――こうして隊長二人の夜は更けていく。