表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
期間限定迷子  作者: yoshihira
本編
51/65

45 大団円まであと少し(終)


 ―――それから一月後。


「カズミー! そっちに行ったぞ!」


 ラジャー!

 と、心の中で応えて、追っ手を気にしながら前方不注意で逃げている最中のコソ泥に向かって、物陰から足を出した。


「うげっ!」


 びったんと顔から地面に突入。ご愁傷様です!


 手際良く後ろに手を回して、縄で縛って、と。

 うん、かなり上達しましたよ! 捕縛スキル!


「すぐに捕まるような盗みなんてするなよなー」


 のんびりと追いついてきたアインが笑っている。


 そして、その後ろからやる気なさそうに歩いてくるのは―――金髪碧眼の、ルイ。


 永久に張り付いてしまったような仏頂面のまま私を見ると、明らかに顔を背けられた。

 いやー、嫌われちゃったものだね!


 警吏隊の任務中、この三人で動くのも随分と慣れてきた。アイヴァンさんからは若者組と呼ばれている。そのまんまじゃないですか!


 最初は私とルイの二人だったんだけど、シゼル隊長の計らいで、アインも追加されて今に至る。

 多分、ルイの監視役なんだろうけど。


 ―――この通り、私はまだこの四番目の異世界で、五回目のトラベラー中だったりします。











 ルイがイーラウ警吏隊に戻ってくるまでには無論、一悶着があった。

 自分の身の処遇など、どうでもいいと突き放すルイを、色々な手を使って懐柔…説得して―――言葉だけでなく殴ったり、泣き落としたり。

 最後に効力を発揮したのはやっぱり持参したチョコレートかな! 甘い物って本当に偉大です。


 ひとまず労働で償ってもらう事になり、ルイは西イーラウ警吏隊でこき使われている。

 当人はこの状況が信じられないみたいで、ひたすら不本意そうだけど、どうにか逃げ出す事もなく渋々と働いている。


 時々、ナイフを投げつけてくるのは相変わらずだ。その場合は遠慮なく魔学で逆襲している。

 その光景を見たオードさんが仲が良いと評して、爽やかに笑っていた。…うーん、そう認めるには殺伐とし過ぎている仲ですが。






 今日の隊務も何事もなく完了!


 また一日が目立った変化もなく暮れていく。


 シゼル隊長の執務室に報告書を持っていった帰り、窓からイーラウの街を照らし出して沈んでいく夕日に目が留まって、つい立ち止まった。

 あちらの世界と変わらない色合い。―――時々、自分が異世界にいるのだと実感が湧かなくなる瞬間。


 次にお迎えが来るのは、数ヵ月後だろうか。

 魔学の転移術を使えば帰れるのかもしれないけれど、あれは緊急事態だったから無茶を承知で実行したわけで、あの死にそうな消耗具合を思い出せば、ひとまずいつものお迎えを待つ気分になった。

 せっかく警吏隊に残留もできたし、頑張って働かない内から去ってしまうのもどうかと思ったし。


 ―――きっとまた元の世界に戻れるのだから。


 それがちょっとくらい先に伸びたって別に構わないだろう。


 うん、私も随分と度胸が据わってきたもんだ。異世界トラベラー経験が着実に板についている。


「カズミ?」

「? シゼル隊長?」


 執務室から出てきたシゼル隊長が近づいてくる。

 知らず時間が過ぎていたのか、気がつけば窓の外は薄墨色に変わっていた。


「どうした?」

「え。いえ、ちょっと景色を眺めていただけなんですけれど」


 別に他意はありませんよー?


 笑ってそう言えば、同じように窓の外に視線を向けた隊長が、そうか、と頷いた。


「…帰れないのか?」


 不意にぽつりと訊かれた質問の意味をつかみかねて、きょとんとしてしまう。


「君の世界にだ」


 あぁ、その事か。


「多分、もうしばらく後じゃないかと。前も数ヶ月経ってから元の世界に戻る事になりましたし」


 もう二度と思い出したくないあの衝撃の帰還だ。


「帰れないという事はないのか」


 …シゼル隊長、悪意はないんだろうけど、かなり微妙な質問ですよ、それは!


「わかりません。まぁ、それはその時に考えますよ」


 行き当たりばったりが私の身上ですので。

 という事に、いつの間になってしまったんだろう。ははは。


 また、沈黙が流れていく。

 重く感じない、穏やかな時間の流れ。


「―――なら」


 …へ?


 後ろに立っていたシゼル隊長を振り返る。


「―――私が君の一生に責任を持とう」


 …。


 え?


 今、なんて言いました…?


 さらりとそう告げたシゼル隊長は、癖になっているのか、また私の頭に一つ手を置いて、廊下の向こうに歩き去っていった。


 ―――というか。

 何だ、今の台詞。ものすごく意味深だったような…。気のせいか? 気のせいだよね?


 つまり、私が元の世界に戻れなかったら、一生、警吏隊で雇ってくれるっていう意味だよね?

 衣食住ばっちり確保! 万歳! そういう話ですよね!


 …あああ。

 なんだか激しく焦った。去り際に爆弾を投下していかないでください、隊長。色々と心臓に悪いです!


「さーて! 夕飯でも食べに行くか!」


 声に出して宣言し、私は食堂へと勇んで歩き出したのだった。




















 ―――手紙の続きにはこう書かれている。


 これはさようならを伝えるためじゃないよ。


 覚えておいてよー!


 行ってきますを言い忘れたから、ここに書いておくね!


 私はきっと今日も美味しくゴハンを食べてます!

 元気だよー!



 7/26 若干改訂。


 言い訳代わりの後書き。それでも構わない方は下へどうぞ↓














 ここまで読了していただき、ありがとうございました!

 これにて期間限定迷子、本編完結です。…はい、完結ですよ~。色々無理やりハッピーエンド、な感じで!


 よろしければ、感想などお気軽に聞かせていただけると嬉しいです!

 手厳しいご指摘も粛々として拝聴させていただきますが、あまりに激しいものですと、適当小説ですので!と逃げてしまうかもしれませんが(笑)


 この二ヶ月間、お祭り状態でした! 短期間でこんなにたくさんの文章を書いたのは初めてでした~。

 適当と注釈をつけた割には真面目に考えた部分も結構あったような(笑) とはいっても、所詮このレベルのクオリティですが(汗)

 奇抜な展開も何もありませんので、軽くさくっと読めるお話として楽しんでいただけたらと思います。





 せっかくここまで読んでいただいたので、本編では入りきらなかった、もしくは説明不足である裏設定を若干ご紹介!


 ・シゼル隊長は現ゼイルス国王の弟さんの息子です。グラナド公の亡くなられた奥さんが王妹。なので、グラナド公とは血縁関係のない伯父と甥関係となります。


 ・ウェイがオードに嫌われているのは、オードの奥さんを口説いた事があるからです。


 ・ウェイの本名は、アレクシス・ウェイ・ルチア・ゼレクレア。鈍い主人公は気づきませんでしたが、ゼイルス国王の第二子です。

  王妃との間の子ではなく庶子ですが、その身分は本人の希望によりあまり知られていません。英雄としての名前の方が有名です。

  テネジア戦役後の当時、王室がそのように情報操作を行った部分もあります。


 ・ウェイの年齢は二十四歳です。テネジア戦当時、十六歳。しかしながら、主人公はシゼルと同じ二十代後半だと思っています。


 ・主人公の母親が海外を飛び回る仕事についているのは、異世界に跳ばされた娘が他国にいないか探しているからだったりもします。

  主人公は能天気そうにみえますが、当時、立て続けに行方不明になる娘に母親はノイローゼになったりと、過去は色々重たい事になっていたり。


 以上でした!




 本編では、色々と謎も残されているような気がしますが、主人公は結局、元の世界に帰れるのか!?とか(笑)


 実はというか、yoshihiraの頭の中だけで続編があったりします。

 タイトルをつけるなら、イーラウ警吏隊vs凶悪犯という事件物。こんな面子で無謀な事にやや恋愛色強めの内容、かつ、主人公が元の世界に帰るかどうか云々の話も出てくるのですが、蛇足的な感じもしなくもなく…。


 ありがたくも、そんな代物でも読んでみたいかもしれない!とのリクエストをたくさんいただきましたので、いずれ続編を公開したいと思います。


 ありがとうございました!


 yoshihira 2011/7/20

 2011/7/26追記


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ