05 入隊審査
外観と違ってベージュと茶色で統一された小奇麗な内装に目を瞠った。
だけど、ろくに観察する暇も無いまま、中を通って地下へ続く階段を下りれば、そこは隊員の練習場らしい広い空間がぽっかり空いていた。
何人か組み手をしていたみたいだけど、シゼル隊長の一瞥を受けて、さっと姿勢を正すと一礼して外に出てしまった。
随分とお行儀の良い軍隊だなぁ。
「それでは早速実力を見させていただく」
って、今から?
心の準備がほしいんですが、とは、到底言えない状況だ…。
「ウェイ、私が審判を務めるので対戦相手をしてくれるか」
「いいぜ」
ウェイ隊長もあっさりと承諾。
えええ。なんか実力めちゃめちゃ高そうなんですけど。
「カズミ殿、剣は使えますか」
「一通りは」
剣道はやってますけど。
「では、それで。私の剣をお貸ししましょう」
さっと腰から抜き取り、差し出される。
って、あきらかにこれはシゼル隊長に合ったサイズで、私にはでかすぎるし、重すぎる。大体、真剣で剣道はした事ないですー!
しかも、使い慣れない武器だと不利なのは当たり前じゃないか!
シゼル隊長の表情は変わらない。
つまり、不利な条件下で戦う際の実力を見たいって事なんだろうけど、結構、ハイレベルなんじゃないですか、これ。
きっと魔学なしじゃ合格は無理な気がする。
渋々剣を受け取り、鞘から抜く。
剣を軽くする魔学だけでも使いたいけれど、この二人の前じゃ、どんな些細な動作でも見逃すわけないだろうし。
仕方ない。
このままで足掻いてみるかー!
やる前から諦めてたまるかー! ゴハンの為なら何のその! それが私の信条です!
口許から笑みを消す気配のないウェイ隊長と向かい合う。
「よろしくお願いします」
「あぁ、お手柔らかにな」
侮られている、というより、これは隊長として歴戦を潜り抜けてきた経験に基づく自信ってとこだろう。
始め、とシゼル隊長が合図する。
お互い構えて立つ。
予想できた事とはいえ、やはりというか、打ち込む隙が無い。
こういうのは長引かせると体力の無い私の不利になる。だったら。
じりと間合いを詰め、打ちかかる。あっさりと受け止められ、跳ね返される。
次いで襲い掛かってきた相手の攻勢は、一太刀一太刀が重く、食い縛った歯がぎりっと音を立てた。
「守勢だけじゃ食われるぞ!」
そんな事、わかってるわー!
守って守って守って。よし、この距離で!
相手の死角になりやすい横側に廻り込んで右手の剣を振り入れる。と、見せかけて、パッと左手に持ち手を変えた。
私は両利きです!
「!」
一瞬、驚いた顔をしたウェイ隊長はしかし、不敵に笑って、恐るべき速度で身を沈めて交わし、ついで剣を弾き飛ばした。
腕がじぃんと痺れ、顔が歪む。でも、まだ終わっていない!
そのまま反動を利用して後ろに転がり、吹っ飛んだ剣に手を伸ばした。
が。
「そこまで」
ウェイ隊長の剣先が私の喉に向けられる方が早かった。
…全く、息一つ乱していないのがまた憎らしいー!
「使い物にはならんな。ガキのお遊びだ」
そんなの一番自分がわかってる。実戦なんてほとんどした事がないんだから。
「だが、最後まで足掻く根性は気に入った」
面白そうににやりと笑う。この人、どちらかと言えば悪人面が似合うんですが。
「足手纏いにならんように死ぬ気で努力する事だな。死にたくなければ」
やっぱりこの台詞、悪人だー。
何を考えているか読めないシゼル隊長はあっさりと入隊許可を出した。
「…ぅえっ!? いいんですか?」
「素質はあるようだ。体術で補えるのならば不足はないでしょう」
「あっ、ありがとうございます」
無事に衣食住確保!
その喜びにわく私は、今後の生活がどうなるか、正確に予想できてはいなかったのだけれど。