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期間限定迷子  作者: yoshihira
本編
47/65

41 査問会 前編


 査問会の会場はこんな感じだった。


 突き当たり正面には一段と高くしつらえられた壇上に立派な席が並び、さらに左右に二列ずつ席が並んでいる。全体的に三十人くらいが座れる広さだ。

 全員の視線が集まる中央には、おそらく主要となる人物が立つであろう証言台が。

 ズバリ、裁判所の法廷ですね!


 ―――そして、私はと言えば。


 …ええと、こんな所で傍聴しちゃっていいのでしょうか?


 壇上の裏手にある小部屋でオードさんと待機しております!

 特等席なんてもんじゃない!


 しかも、あちらの様子が見えるように、壁にかけられた垂れ幕?の間に僅かな隙間があり、そこからばっちり向こうの様子が見渡せる。

 どうなってるんだ、この仕組。


 そして、現在の服装が…。

 …いや、それはもう諦めた事だから、と、今は心の平安のために投げ打っておく。


 定刻前に全ての席が埋まった。

 ひそひそと顔を寄せて話し合う貴族たち。何処か落ち着かない空気をまとって、真面目な顔で席についている。

 その末席に、ウェイ隊長とテミラーさんの姿もあった。テミラーさんはウェイ隊長の横に直立不動で付き添っている。

 服装も貴族仕様というか、黒一色の割に仕立てが上等だとわかる服を着こなし、いつも通りの不敵な顔で堂々とそこにいらっしゃる。

 周りの貴族が興味深げに視線で探っているものの、東イーラウ警吏隊隊長が場に混じっていても誰も不思議に思う様子はないようだ。

 …テネジア戦役の英雄だったっけ? こういう場に出る事もあったのかな?


 最後に姿を現したのは、王様らしき重厚なマントを肩につけた五十前くらいの男の人だった。金と茶が入り混じった豊かな髪と口髭。一国の主らしき威風堂々たる足取り。

 一歩後ろに、同じ年頃の腹心の部下らしき、綺麗に撫で付けられた白髪が厳格そうな印象を醸し出すおじさん、そして、護衛兵らしき騎士が両脇を固めていた。


 壇上の席につき、そばに白髪の家臣の人が控える。


「静粛に。これより、兼ねて審議に上がっていた証左において査問を執り行う」


 その人の一声で、査問会は始まった。

 ―――シゼル隊長の姿はまだない。












 王様の隣で補佐を務めている白髪の男の人、その人が噂のグラナド公だとオードさんから教えてもらった。

 朗々としたよく通る声で議題を読み上げ、今は列席した人の頭に染み込ませるように事の次第を説明している。


 議題は勿論、テネジアの事だ。


 ファウマン侯爵がテネジア軍をゼイアスに引き入れるように脅迫を受けた事を発端として、この数ヶ月に起きた事件の概略を話している。

 初耳である人も多いのか、明かされていく内容に愕然としている貴族も多い。


 そういえば、疑惑の犯人もここにいるんだろうか?


 名前を教えてもらっても、この国の派閥なんて知りようがない私には単なる記号以上の意味を持たないので、前情報はまるっきり白紙状態だ。


「ガネイ伯をファウマン候の暗殺未遂及び脅迫容疑で拘束し、既に自供も得ているが、その際、ガネイ伯から一つの名前が挙がった。

 ―――事の首謀者として、ルガード子爵の名前が、だ」


 ルガード子爵―――シゼル隊長の事らしい。


 ざわめきが場を満たす。

 まさか、と、口にする者。やはりか、と、納得する者。どちらも半々であるような。


「陛下は事の真偽を質す為、イーラウよりルガード子爵を召喚された。しかし子爵はその道中、何者かに襲われ、未だ安否が不明である」


 今度のざわめきは大きい。

 明らかに人の命に関わる物騒な話だからなぁ。…本当に、危ない所だったとはいえ、シゼル隊長がそんな目に遭わなくて良かった。


 グラナド公は会場に広がった波紋を淡々と眺めやり、静粛にとの一声で静めてしまった。

 この威圧が込められた重い声で説教されたら間違いなく数日は立ち直れない気がする。


「―――と、報告する所であったが―――シゼル」


 呼ばれた一つの名前が力を持つ。


 後方の扉が開かれ、そこで、見慣れた灰色の透徹とした眼差しが現れた。

 こちらも貴族の服装に改めたシゼル隊長―――ルガード子爵だ。怪我を負っている事を感じさせない歩みで、中央の証言台まで進んでくる。

 ウェイ隊長と対照的な、白を基調とした細身の上衣、その襟元にクラヴァットと呼ばれる布が巻かれ、普段の隊長と別人のように見えなくもない。


「釈明があるならば自分の口で言うがいい」


 グラナド公の細められた目と、揺るぎなく見返すシゼル隊長の視線が合わさる。

 誰も何も言葉にする事ができないような沈黙が流れた。


 動いたのはシゼル隊長だった。


 右手側の傍聴席に座っていた一人の貴族の方を向き、感情の起伏を感じさせない静かな声で告げた。


「それでは此度の査問を正式に始めるとしましょう―――レバイント公爵」


 一人の男の顔が驚愕に染まる。


 ―――それは、国の重鎮でかつて王立騎士団の首座であった老公爵の名前だった。



言い訳は活動報告にて…。

11/2 誤字修正

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