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期間限定迷子  作者: yoshihira
本編
44/65

39 我儘


 最初から隊長は私の同行を快くは思っていなかった。

 ウェイ隊長の口添えがなければにべもなく拒否されていただろう。


 振り返ってみればことごとく、私は隊長の命に逆らってきた。


 王都の道中に加わる時も、あの夜、宿で襲われた時も、橋の上で先に逃げろと言われた時も。

 そして、隊長は私を庇ってあの重傷を負い、無理を通してその場に残った事をどれだけ後悔したか。


 ―――そろそろシゼル隊長の堪忍袋の緒が切れるのも当然なのかもしれない。


 けれど。


 まさか、面と向かって何も言われる事もなく、騙し討ちのように人が寝ている間に置いてきぼりにされるなんて。

 体調も万全でないのに、たった一人で行ってしまったんだ。


 書置きには、後を追ってきたら警吏隊を除隊にする、とある。

 …私にとっては、この世界での衣食住、果ては皆との繋がりまで全て断ち切られる処遇に等しい。


 ―――ああ、泣きそう。

 たとえシゼル隊長にどんな思惑があったって、この拒絶は凄まじく痛かった。


 わかってはいるんだ、自分が独りよがりな我儘を通してきた事は。

 実際のところ、隊長のそばにいて私が役に立った事なんて、ほとんどなかったんじゃなかろうか。 


 隊長の言いつけに従い、大人しくイーラウの街で帰りを待つ、それが最善なんだろう。

 私が王都の召喚尋問に立ち会っても何ができるわけでもない。この世界では何の身分も持たない、ただの一警吏隊員なのだから。


 なけなしの理性が正論を訴える。


 けれど、それじゃあ―――絶対、後悔するってわかってる時はどうしたらいい?


 何もできないかもしれない。それでも、何かの力になれるかもしれない。

 言い訳でも屁理屈でもいい。そんな風に思っては駄目ですか。


 ―――って、駄目ですよね! そんなの、わかってますとも!


 すみません、シゼル隊長。


 除隊されてもいいです。

 ―――影でそっと見守るだけでいい。余計な手出しはしないと誓いますから。


 あんな酷い怪我までさせて放っておけません。

 これは正真正銘、自己満足。他に気になる点もないわけじゃないけれど。


 王都に行って何をどうするかまで深く考えているわけではないですが。何とかなる! ってか、何とかする!


 …じいちゃんも、頭の中を柔らかくして生きろって言ってたし。どうせ後悔するなら、こちらの後悔を選ぶ事にします!












 昼間は馬車で、人目につかない夜は転移の術を使って移動し、ついには自力で王都に辿り着いた。万歳。

 見上げんばかりの背の高い建造物が幾つも立ち並んでいて圧巻だ。…シゼル隊長は無事にもう王都に到着したんだろうか。


 それにしても広い。街は水路も張り巡らされていて、さらに地図の複雑度が増している。ここで迷子になったら目も当てられないなぁ。

 西イーラウ以上に年季の入った通りもあれば、目を瞠るほど整備された綺麗な区画も混じっていて、新旧入り混じっている雑然とした感じ。


 警吏隊の制服を脱ぎ捨てた私は、地方からやって来た観光客そのものだ。

 とりあえずシゼル隊長が目指すだろう王宮の場所を確認するために道行く人に尋ねれば、穏やかな気候の国らしく気持ち良く教えてくれた。


 王都ゼルシオンは大まかに四つの区画から成り立っている。

 王宮のお膝元である第一区画、中流から下流までの貴族が集まる第ニ区画、商店が軒を占める第三区画とあって、最後に名前を連ねるのが主に庶民の居住区と知られている第四区画だ。

 第一区画を中心に扇形に広がっていて、それぞれの区画は水路でも分けられているらしい。


 王都の外門から歩き出して小一時間、第一区画は一番奥の位置にあって、かなり遠い。

 外側のごちゃごちゃとした第四区画を抜けて、次に第三区画。そろそろ第二区画の門が見えてくるかなぁという頃。


 道行く人の一人になって、のんびりと観光気分だった私。

 いや、だって、この街あまりにも広いから、知り合いに会う可能性なんて海に沈んだマッチ棒を探すくらいの確率だと思ってたんだ。


 ―――その不運なマッチ棒になってしまうとは知らずに。


 斜め正面に顔を覗かせた白い宮殿の一部らしき四角い塔、あれが王宮かな?

 見上げていた視線を元に戻すと、いつの間にやら、進行方向を塞ぐように人影が立っていた。


 何気なく相手の顔を見て、足が急停止した。


 …あれは、あの顔は―――間違いなくウェイ隊長!?


 服装はいつもの警吏隊の制服じゃないけれど。街でよく見かける類の裾長の上着にベルトを締めた、至って庶民的な私服姿だ。帯剣もしていない。

 何か気に食わない事でもあったんだろうか、心なしか、不機嫌そうにみえる。


 ―――そこまで考えて。


 逃げた。

 思わず、くるりと踵を返して、逃げてしまいました!

 疚しい事があると、ばっちり顔に出てしまうタイプの人間らしいです、私。


 シゼル隊長の命を無視して行動している自覚くらいはあるので、ウェイ隊長の前に姿を現すのもまずいんじゃないかと思ったんだよ!


 ―――しかしですが、どうしてこの人から逃げ切れると思ったんだろう。


 一本の路地裏に飛び込み、ここまで来たら大丈夫だろうと上がった息を整えて、後ろを振り返った先に見たくないものが…。


 固まる私に、おどけたように肩を竦めるウェイ隊長。


 うわあああ、どうしたらいいんだー!?



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