04 祝就職
西イーラウ地区と呼ばれた街は、想像以上に大きな街だった。
高い塀でぐるりと囲まれ、箱庭のように見える。門は大きく開け放たれ、門番はいるものの、出入りに許可証などが必要な訳ではないみたい。
町の中は石畳が敷き詰められ、大勢の人で賑わっていた。
建物が密集していて、大通りから逸れれば細い路地もたくさんある。本当の意味で迷子になるのも時間の問題な気がする。
警吏隊の一群は何度か角を曲がり、やがて、年代物と思しき蔦の絡んだ建物の前で止まった。
私も再び隊長の手を借りて、馬から降ろしてもらった。
建物の裏側から、ぱらぱらと若い青年たちが出てきて、馬を引いていく。
隊員たちはきびきびと動き、職務に忠実といった感じだ。たぶん、上に立つシゼルさんの人望もあるんだろうな、と思う。
「ここまで連れていただき、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、盗賊の捕縛に協力していただき、感謝している」
と、やはり礼儀正しい。硬すぎる感じはあるけれど、悪い人じゃなさそう。
私は思いついて、斜め上のシゼル隊長の顔を仰いだ。
「あの、この街で仕事を斡旋している紹介所などあれば、教えてほしいんですが」
「…カズミ殿は職を求めてこちらに?」
「そういう訳でも。ただ…財布を盗まれて持ち金がなくてですね」
記憶喪失に盗難被害者、かつ、失業者。どれだけ不幸なんだ私はって感じだ。
見透かすようにじっと見つめられ、嘘を吐いている身としては調子に乗って訊くべきじゃなかっただろうかと悩む。
「シゼル、何、ぼーっとしてんだ?」
シゼル隊長の後ろからひょいと覗いた金茶の髪の男。
なんて事だ、シゼル隊長より背が高い。
堂々と、値踏みを含んだ観察をされた。
肩まで伸ばした髪をうなじで括って流しているのがくだけた印象だけれど、着ている服はお揃いの制服。
階級章を見ずとも、気安そうな態度からしておそらく、シゼル隊長と同等かそれ以上。
目は緑色で、第一印象、女たらし、第二印象、軟派男、第三印象、男たらし。…まぁ、これは偏見かもしれない。
「ウェイ、東側の巡察はもう終わったのか」
「あぁ、何事も無く。そっちは当たりだったみたいだな」
「残念ながら『死神』ではなかったが。厳戒令をまだ解くわけにはいかんな」
「で、こいつは?」
「盗賊討伐に協力いただいたカズミ殿だ。カズミ殿、こちらは東イーラウ地区隊長のウェイです」
はじめましてと頭を下げると、ウェイ隊長は「ちっこい奴だな」と言う。
失礼な。あなたたちがでかすぎるだけでしょうが。
ちょっと睨むと、ウェイ隊長は悪びれなく笑う。大人の余裕というやつだ。
「カズミ殿さえよければ警吏隊へ入隊してはいかがか」
「…へっ?」
今、なんて?
予想外の申し出にきょとんとシゼル隊長の怜悧な表情を見上げてしまう。
「我が隊は現在、隊員の臨時募集を行っています。実力があり、隊律をみだりに乱す人物でないのなら、入隊は容易いでしょう。
寮設備も整っていますし、やる気があれば紹介しますが?」
衣食住確保!
これは渡りに舟ってやつだ!
「お願いします! それはすごくすごく助かります!」
今、猛烈に万歳三唱したい!
「それではこちらに。ウェイも協力してくれ」
―――だが、やっぱり人生そんなに甘くは無いのだ。