25 急変
全く変わりのない、よくある一日に思えたその日の午後。
突然の来訪者によってそれは打ち破られる。
「シゼル隊長、この報告書の件なんですが」
前に私が取り押さえた暴漢がたまたま別件で追っていた悪質な強盗犯と同一人物だったらしく、追加で報告書を上げてくれと頼まれていたので、シゼル隊長の執務室に持って来たのだけれど。
「カズミ…何が書いてあるのか、読めないのだが」
「えええ? 判読できないですか!? が、頑張って書いたんですけど」
マグノリアさんに叱られ、アインに縋りつき、オードさんに笑顔で突っ込まれながら書き上げた一枚は、かなりうろんな代物だったらしい…。
横で聞いていたマグノリアさんが呆れた顔で報告書を取り上げる。
「アンタ、この字をその字と勘違いしてない?」
「えええええ」
そ、そういえば、そんな気もしてくるような…!
「やり直しよ」
容赦なくマグノリアさんに突っ返される。
あああああ。
何てこったとがっくり項垂れた時、シゼル隊長とマグノリアさんが同時に動きを止めた。
その視線は私の後方にある出入り口である扉の方へ。
集中して報告書を見直していた私は気付かず、外の廊下が騒がしくなって初めて、顔を上げた。
ん? 何だろう?
ノックもなく、音を立てて扉が全開になった。
不意の訪問客はそのまま断りもなく、ずかずかと執務室の中央まで入り込んでくる。
礼儀をわきまえないオッサンたちだ。
服装はこの近辺では見かけない白の礼装のような揃いの詰襟姿で、人数は五人。
先頭をきっていた中年の男は、背が低く小太りだったので、つついたらころんと倒れそうな、そう、起き上がり小法師を連想してしまったぞ。
しかも態度がやたら偉そうだ。実際、偉いんだろうけど。
「セベイ長官」
シゼル隊長がそう名を呼んで、立ち上がって出迎える。
自然とマグノリアさんもその後ろに控えて、両者の間にいる私一人が呆気に取られて立ち尽くしていた。
シゼル隊長が敬礼を送るという事は、やっぱり相応の地位についている人間なんだろう。
だけど。
セベイ長官と呼ばれた小太りの中年は、進み出たシゼル隊長を無視して、自分の部下たちに顎で指し示し、それを受けて、四人の男たちが突然、この部屋の家捜しを始めたのだ。
えええええ?
書棚とか執務机の引き出しとか勝手に漁ってるよ!
許可もなく、有り得ない!
「この状況は一体、何事か、説明していただけませんか」
それを見ても顔色一つ変えず、冷静なまま、シゼル隊長は目の前の相手に対している。
さすがというか、その様子にちょっと安心する。
セベイ長官は胸を張って、嫌らしい笑みを浮かべた。
「直にわかる」
ほどなくして一人が書棚の裏の隠し扉を見つけた。
シゼル隊長に隠す意図はないのだから、ちょっと注意してみればすぐに気付くものだ。
二人がその中に無遠慮に飛び込んでいき、しばらくして戻ってきた時には手に一枚の書類を手にしていた。
「セベイ殿、これです!」
「ご苦労」
一連のやり取りがやけにわざとらしく思える。
書類に目を通したセベイ長官がしたり顔になり、突きつけるようにシゼル隊長に掲げてみせた。
「西イーラウ警吏隊隊長シゼル、王都まで同行願おうか。君にテネジアと密かに通じていたという反逆罪の容疑がかかっているのだよ」
―――何ですと!?