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期間限定迷子  作者: yoshihira
本編
2/65

02 来ちゃったよ


 またやってしまった。

 そう、遺憾なことにこれが初めてではない。また、トンマなトラベラーの身になってしまったのだ…。


 生ゴミ臭かった空気は、一転して、土と水の匂いに変わっている。

 人の気配が無い、舗装されていない土の道の真ん中。木立の向こうに川面が光を弾くのが見え、少し先に橋がある。

 空は雲一つ無い、快晴…。


 なかなか今回は幸運だ。

 何も無い宙から現れる瞬間を目撃され、化け物呼ばわりされて追い掛け回される経験なんて、一度でも充分すぎる。


 溜息を押し殺して歩き出す。

 なんだかなぁ…。


 橋があるという事は文明人がいるって事だ。

 道を辿ればきっと何処か街へ着く。


 今度はどんな世界なのか…。


 自分に何故、こんな『迷子』の才能があるのか、未だに原因は不明なんだけど。

 始まったのは物心つく前、神隠しに遭った私は一年後、母が私を見失った場所で発見された。

 憶えていないけれど、おそらくそれが一番最初のトラベラー体験。

 それから今まで様々な異世界にトラベラーしている。


 現代日本とほとんど変わらない世界もあれば、いわゆるファンタジー、剣と魔法が存在する世界もあった。

 死にそうな目にも何度か遭ったし、異世界で出会った友達もいる。

 幸いなのは、いつも永遠の『迷子』にはならない事だ。

 もう二度と帰れないのではないかという不安は消えないけれど、今のところ、一定の時間が経てば、元の世界に戻る事が出来た。


 自分の厄介な『迷子』癖を自覚する辺り、生き残る為のサバイバル能力は必須になった。

 護身の為の武道もそうだけれど、飲み水と携帯食を常に持ち歩く事にし、火の起こし方から獣に襲われた時の対処方法、簡単な応急措置の仕方など、何処まで通用するかわかんないけど備えあれば憂い無しって事で勉強はした。

 今のところ、無人島のような場所に迷い込んだ事は無いので、食料に困ったりという事態は意外に少ないのだけれど。

 見た目も男っぽいのはその辺りも考えていたりする。嫌な目に遭ったりするんですよ、ほんとに。


 何事も学んでおいて損になる事はない。


 最初に会える人がイイ人だったらいいなぁ…。


 衣食住の相談が出来る、人生経験溢れた大人に出会えますように。


 焦っても仕方がないよねと、開き直って橋を渡った、その時。


「ん?」

 

 何か聞こえた。

 声?


 前は道にせり出した木立の所為で遠くまでは見渡せない。

 後ろを振り返れば、渡ったばかりの橋と、こちらも寄り添う木立の奥に途切れている道。

 じっと見つめれば、次第にはっきりと聞こえてくる喧騒の音。

 追われる荷馬車を見つける前に、何が起こっているのかピンとくる。追剥だ。


 荷馬車は一台。その後ろに、一、二…六頭の騎馬が追いすがる。弓を射、剣を振りかざしながら。

 ひえっ、絶体絶命だ!

 

 慌てて辺りを見回しても味方がその辺りに転がっている訳もない。

 見る見るうちに近付いてくる騎影を睨んで、ハッとひらめいた。

 

 ―――一か八か。

 首に提げていたお守り代わりの戦利品、黒ずんだ年代物の銀貨のペンダントを引っ張り出し、手に握って呟く。


「イル・サ・ヤランカ(証を示せ)」


 元の世界では沈黙以外の反応を示さなかったそれが淡く光った、それに目を瞠る。


 よっしゃー! いける!


 ちょっと考えた後、土の魔学を使用する事にする。


 あぁ、もう、追いつかれそう!

 必死で荷馬車を走らせているんだろうけど、騎馬相手じゃ遅すぎる!


 橋の脇で見守り、荷馬車が橋に入る瞬間を狙う。

 今だ!

 私は二本の指で宙を切るように誓印を描いた。


「アンカ・メラ・テラウン・サフェー!(出でよ、大っきな土の壁)」


 魔学とはいわゆる魔法の事。センスが無いとよく評された私の術が炸裂する。見栄えが悪くとも、有効であればそれでいいじゃないか。

 荷馬車に続いて橋を渡ろうとした矢先、狙い通り、地面から壁が盛り上がったのだ。

 塗り壁作戦成功!


 ほほほ、これで橋を渡れまい~。

 ニ頭はべしゃべしゃと土壁にめりこみ、残る四頭は突然立ち塞がった壁に慌てて急停止している。

 見れば見るほど面相の悪い男たちだ。絶対、悪役だね!


 さて、私もそろそろ行きますか~。


 時間が経てばその土壁君も元に戻るだろうし。

 しかし、ここで魔学が使えるとはとんだ大儲けだった。


 前々回のトラベラーにて、専門の学校に入ってまで必死に学んだ価値はあった。

 もしかすると、同じ世界だったりして。


 魔学は簡単に言ってしまえば前に私が迷子になった世界での魔法だ。

 力を借りる神様に誓印を捧げ、魔学専用の言葉で具現させる。

 才能があれば様々なミラクルが使えて便利なのだが、体力勝負な所もあって、何度も使うと目茶目茶お腹が空く。

 無茶な使い方をしていた所為か、よく行き倒れていたなぁ、懐かしい。

 念の為、このコイン、魔学の使用許可証を身に付けておいて良かった。


「待ちやがれ!」


 と、意気揚々と荷馬車が逃げ去った方向へ歩き出したとたん、怒号が。


 …もう少し保つと思っていたんだけど。

 土壁君はあっさり崩れ去り、土まみれになった粗野な男たちがばらばらと得物を手にしていらっしゃる。


「てめぇが邪魔しやがったのか! 変な術使いやがって!」


 怒り心頭という顔で睨みつけられる。


 あぁ、しばらく厄介事とはご無沙汰だったのに。

 『迷子』になってしまうと、やたらと面倒事に懐かれる。


「やれっ」


 ボスの一声で、男たちが一斉に迫ってくる。


 私は冷静だった。伊達に場数は踏んでいない。

 拳銃とか、銃火器の無い世界で良かった。

 剣と弓なら風を使えば何とかなる。 


 風の神に捧げる誓印を切った。


「ナアク・ウェンテル・サフェー(巡れ、風の壁)」


 突然、舞い降りた強風に吹き飛ばされそうになり、追剥たちがたたらを踏む。

 ぐっと拳を胸にあて、手を突き出すと同時に「トラウ!(飛ばせ)」と叫ぶと、一段と勢いを増した風が木の葉のように相手を吹っ飛ばした。


 あ、小川にまで吹っ飛んじゃった。そこまで飛ばす気は無かったんだけど。

 精度が低いというか、繊細さに欠ける大雑把な私の術はしばしばやり過ぎると言いますか…。


 まぁ、結果オーライとして、乾いた笑みを浮かべて、その場を後にする。


 だが、事態はまだ終わっていなかった。

 これもラッキーと言うべきなのか。今度は前方から騎馬の一群が揃ってやってくる。


 そういえば、今回、言葉が通じるなぁ。

 魔学が使える世界だからかな?


 そんな取りとめの無い事を考えながら、セカンドコンタクトに向けて、私は歩き出したのだった。



魔法設定はノーコメントです(笑)

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