14 どたばた
すいません、シリアスです。
このまま逃げ切ってしまえばいいのかもしれないけど、後々の事も考えると情報収集をしておくべきか。
人数は三人。
これくらいなら余裕で相手できる。―――この時の私は、魔学が使える事に安心しきっていて、調子に乗っていた。
人気の無い、少し幅のある道に出ると、私はミーファを少し先の路地に隠した。
「片付けてくるから、ちょっとここで隠れててね」
殺気立った男たちの前に立ちはだかる。
「てめぇ、あのガキをどこにやりやがった!」
「素直に教えるわけないでしょ」
あの子を逃がしてしまった事に余程焦っていたのか、相手はあっさりと逆上して襲い掛かってきた。
馬鹿正直に正面から向かってきたのでこちらとしても助かる。
さっと横に足を滑らせ、勢いよく首の裏に手刀を叩き込むと、一声呻いて地に伏す。
久々の格闘に腕がじんと痺れた。
「このガキ…」
残りの二人の顔色が悪くなる。
そうそう、喧嘩を売る時は相手を選ばないと。
でも、油断をしていたのは私も同じだった。
「いたぞ!」
「!」
げげっ、もう一人いたのか!
背後の路地からミーファを引きずり出したもう一人の追っ手がいた。
形勢逆転、だけど、そう簡単に思い通りにさせてたまるかい!
「ウィドウ・アグア・トーア!(水よ、ここに集え)」
高速で誓印を斬り、指でまず二人の男を指し示す。
「クロウン!(閉じ込めろ)」
次の瞬間、生き物のように引き伸ばされた水が上から襲い掛かり、男たちは悲鳴を上げながら水の中に絡め取られる。
「ばっ、化け物!」
ミーファの首に腕を回した男は恐怖の形相でこちらを見つめている。
…うん、その認識は正しい。
魔学を操る私はこの世界ではまさしく異物なのだ。
パチンと指を鳴らすと水は掻き消えて、男たちはぐったりと地面に投げ出された。
「あなたもあんな目に遭いたくなければミーファを放しなさい」
「寄るな! ガキを殺すぞ!」
首を絞められ、ミーファの顔が苦しそうに歪む。
どうする。
何の魔学なら有効?
落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせながら、手立てを探る。
「っ後ろ!」
ミーファの声にハッと振り返った時には遅かった。
一番最初に地に沈めた筈の男の拳が顔に飛んできて、壁にぶち当たる。
「っ!」
まともに当たるのは避けたとはいえ、殴られた頬から骨に衝撃がきて、一瞬、意識が白くなる。
…歯で口の中、切れちゃったじゃないか。
「邪魔しやがって!」
次に飛んできた蹴りを転がって避ける。
全く、とんだ休日だ。
「キャット・テラウン・トマーウナ(捕らえろ、土の手よ)」
気付かれないように小さく誓印を切る。
「なんだっ、土がっ!」
狙い通り、陥没した地面に両足がめり込んで、追っ手が身動き出来なくなる。
「ミーファ!」
その間に、最後の一人はミーファを連れて、逃げようとしていた。
「させるか…ぐっ!」
追おうとして身体を返した所にナイフを投じられ、左肩にぐっさり。
いっ…痛い!!!!!
「き、キャット・アルブ・トマーウナ!(捕らえろ、蔓の手よ)」
利き腕じゃなくて良かった。
必死で誓印を描き終えると、地面から伸びた何本もの緑の蔓が男の足を這い登る。
全身に絡みつかせて拘束すると、男は呻いて地に転がった。
「ミーファ!」
ようやく駆け寄ると、緊張が解けたのか、ミーファは地面にぺたんと座り込んでしまっていた。
「大丈夫?」
「か、肩、怪我…」
ごめんね、こんな怖い場面見せちゃって。
残念ながら魔学に治癒術はないのです。
「これくらい平気だよ。ミーファに怪我が無くて良かった」
そういうと、ぽろぽろと涙を落とさせてしまった。
頭をよしよしと撫でてやると、ぎゅうとしがみついてくる。可愛すぎる。
ナイフは今抜いたら出血が多くなりそうだし、転移術で帰ろうか。
この四人の男たちの始末は…とりあえず蔓で縛り上げておけばいいか。
私もこんなだし、今はミーファを優先させよう。
「ミーファ、ちょっと目を閉じてくれる?」
お願いすると大人しく目を閉じてくれたミーファを左手で抱きかかえ、私は誓印を切った。