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期間限定迷子  作者: yoshihira
本編
13/65

12 あらためてご紹介


 なんで私に『迷子』の才能があるんだろう。


 元の世界に戻れるんだろうか。

 そんな不安を持て余していた時。


『カズミ、それはラッキーって言うのよ』


 大真面目な顔でロジィが言った。

 二つ目に迷子になった世界で出会ったロジィは、魔学を共に学んだクラスメイトのようなもので、とにかく、一風変わったポジティブシンキングを持つ最強の女の子だった。


『普通は一つの世界にしか住めないとこ、あなたはもう三つ目の世界を発見してる。

 そこにしかない美味しいものが食べられて、そこにしかない経験が出来てる。濃厚な人生じゃない』

『でも、ロジィ、そこには私の意志はないんだよ。いつだって元の世界に戻れるか不安でいっぱい。

 このまま二度と戻れないんじゃないかって』

『それはね、神様が人の不幸を見て笑うからなんだって』


 何だ、それは。

 さっぱり理解できない格言を持ち出されて、私は呆気に取られる。


『神様はね、幸せな人は嫌いなんだって。

 自分は一人で何万何億の神様稼業していかなきゃならなくてしんどくて苦しいから、幸せ一杯な人を見ると蹴飛ばしたくなる。

 だからね、不幸な人がいないと駄目なの。不幸は神様の息抜き、娯楽なのよ』


 それはどんな考え方よ?

 なんて人間臭くて、意地の悪い神様なんだ。


 地球産のイエス・キリストや、お釈迦様の方が断然、それらしく神様っぽいぞ。


『だから、ちゃんと元の世界に戻れるわ、カズミは』

『…どうして』

『たくさん楽しい経験を積んだら、元の世界よりこっちが良いって思うようになるでしょ?

 そうなったら、神様はきっと幸せの邪魔をしに来るわ!』


 未だかつて無い理屈で励まされた。

 にこにこと邪気の無い笑顔で断言されて、思い切り脱力したのを憶えている。


 それでも、ロジィが伝えてくれた身勝手な神様の話は、冷たく縮こまっていた心を少しほぐしてくれた。


 私は帰ると決めている。

 いつになるかわからなくても諦めないって決めている。

 だから、それまでは精一杯楽しんで、神様のヤキモチを煽ってやるのだ。

 私にしか出来ない事をしよう。


 きっと―――。












 秘密を大暴露してすっきりした所で、私の警吏隊生活は続く。


 まるっと一ヶ月過ごして、大分、二番隊の面々にも理解が及んできたというか。




 まず、シゼル隊長。


 なんとなく想像がついていたけど、シゼル隊長は貴族でいわゆる特権階級のお人らしい。

 王都でも有名な名門貴族の出身なのに、こんな場所で地方公務員をしている理由は、政争に負けて左遷されたから、と、さらっとアインが暴露してくれた。


 食堂のおばちゃんにあのクールさがたまんないねぇとよく囁かれている。

 年は二十八。ウェイ隊長もそうだけど、役職についている身としてはかなり若いのでは?と思う。


 基本的に仕事人間で、執務室で書類仕事を片付けているか、時たま、練習場で立会いの監督をしている所を目にする。

 食堂で見かけたら声をかけて、時々、一緒に食べるんだけど、辛いものが苦手らしい事を発見。

 そして、私の食べっぷりにいつも微妙な視線を向けられる。




 アイン。


 彼はこの街出身なので、本当に西イーラウの事をよく知っている。是非ともと頼み込めば、迷路のような西イーラウの案内を何度かしてくれた。

 女だとわかってからは微妙に距離を置かれているが、それでも困った時に相談すると助けてくれる。


 暇な時間は剣の練習をしていたり、意外に真面目だったりもする。

 町に下りると、下町で駆け回っている子供たちにいつも話しかけられ、噂や情報を聞き出したり、相談に乗っていたりする。

 妖艶なお姉さんたちにも人気があるが、さらりとかわしている所を見ると、将来、第二のウェイ隊長になりそうだと思う。




 マグノリアさん。


 あれから目を付けられてしまったのか、事情を知ってしまった誼か、なんだかんだと面倒を見てくれる。

 というか、平生はシゼル隊長の代わりに二番隊の部隊長代理をしている人だったりする。つまり直属の上司!

 年齢は未だに訊けない。三十に達していないとは思うんだけど。

 滝のように流れる金髪がいつも眩しい。肌を気にする台詞をよく口にするだけあって、美肌です。触りたい。


 口で文句を言いつつ、フォローをしっかりしてくれる。医術に長け、薬草学にも通じる才女さん。

 むさ苦しい男が何より嫌いらしい。汗臭いマッチョ隊員が近寄ってくると容赦なく蹴りを入れていた。こわっ。

 私も身だしなみや肌の手入れについてなど、どしどし注意されている。




 ヨルファ。


 腰まで伸ばした黒髪の男の人。年齢は三十過ぎ。二番隊のアダルトチームの一人。

 とにかく寡黙。隠れ美人。肌が白すぎる。

 前職は、闇にひそむ暗殺者だったので日に焼けませんでしたとか、うっかり告白されそうな気がする。


 ただ、シゼル隊長に絶対の忠誠を誓っているみたいで、隊長の言う事以外はどうでもいいって態度がありありだ。

 食堂で見かけた時、ちゃんと食事するんだと思って感動した。

 髪が邪魔そうだったので、持ってた紐でくくってみた。最初から最後まで一貫して無反応だった。




 おそらく最年少だろう、ナイフ投げの達人、ルイ。


 二番隊の中では、私と同じくらい小柄に入る。

 金髪で青い目。黙っていたら可愛らしい男の子なんだけど、目がどうにも荒んでいるというか。

 ナイフ何本持ってるの?って訊いたら、的になってくれたら教えるだって。性格悪い。


 甘いもの好きで、お菓子をお裾分けすると必ず受け取ってくれる。

 気付かないくらい少し目尻が下がって嬉しそうになるんだ。チョコレートが鞄に入っていたら食べさせてあげたかったんだけどなぁ。




 猫耳を付けた双子、ユークとサイド。

 右耳に銀の環がユーク、左耳に銀の環がサイド。


 見分けにくいかと思ったらそうでもない。ユークは結構人懐っこいんだけど、サイドは何処か人を寄せ付けない感じ。そんなサイドをフォローして護ろうとしているのがユーク。

 どうやら本当にサーカス団出身らしい。旅芸人でこの街に流れ着いた後、入隊したと聞いた。


 年は同じくらい。猫耳は本物?と聞いたら、「偽物に決まってるでしょ、莫迦じゃないの」って、サイドに鼻で笑われた…。

 二人とも真直ぐな白金の髪が肩の上で揺れている。目の色は赤。兎みたい。

 兎耳はどう?って提案してみたけど、この世界に兎はいないみたいだ。残念。




 アダルトチーム残りの二人の内の一人、赤毛のオードさん。三十三歳。


 この隊、唯一の既婚者。二番隊の中で一番がっしりした体型。マッチョまではいかないので、マグノリアさんに暑苦しいと追い出されてはいない。

 いつもにこにこしていて気さくで優しい。理想のお兄さんって感じ。…腹に一物ありそうな感じもするけど。

 シゼル隊長にくっついて王都から移動してきたらしく、貴族ではないけど、都会の人らしい。




 最後のアダルトチームの一人は、チョコレートブラウンの髪のアイヴァンさん。この人もヨルファたちと同じ年代。


 歴戦の傭兵らしく、剣の腕は相当なのだとか。言葉より行動で示すタイプらしい。

 不器用そうな感じだけど、お菓子をくれたり、何かと気を遣ってくれる良い人だ。

 たまに剣の相手をしてくれるけど、容赦ないので毎日は勘弁してほしい、という感じ。素振り千回とか真顔で言われた時は、いつのスポ根マンガだよ!と叫びたくなった。剣を手にすると、鬼教師に変わるんだもんなぁ。




 後は、あまり接点はなくなっているけど、ウェイ隊長。


 東イーラウ警吏隊長なので、普段はほとんど会わない。女にもてそうな甘いマスク、だけど、何処か油断なら無い雰囲気。

 口は悪いけど、貴族の前ではがらりと態度が変わる、らしい。つまり年季の入った猫かぶり。処世術だろうけど。


 実は十年ほど前、ゼイルス国が他国から侵略を受けた時に、少数精鋭で数多の敵を打ち破った英雄なんだって。

 王家から戦功の報奨を手ずから与えられたりと、彼の英雄譚に熱く湧く信奉者も多い。本人はそれにいたく辟易して、王都からイーラウ地区まで逃げてきたんだとか。

 年齢はシゼル隊長と変わらないくらい? まぁ、確かに、敵に回したくない人だなぁと思うよ。




 他の部隊の人たちとは今のところあまり接点が無い。

 基本的にアインと行動しているってのもあるけれど。二番隊以上に個性的な人も見当たらないし。


 でもそろそろ、食堂のおばちゃん以外の女の人と知り合いたいな。

 そう思って、次の休日、私は一人で街に出て行ったのだった。



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