09 討伐
さて。
しばらく経って集められたのは、シゼル隊長率いる個性豊かな二番隊と五番隊。
ウェイ隊長とは途中で分かれた。
シゼル隊長がいるのといないのとでは隊の雰囲気は全然違う。なんというか、皆、びしっとしている。
あの、辛辣な美肌崇拝者、マグノリアさんでさえそうなのだから、押して知るべしというか。
あれだけの説明でどうかと思ったけれど、シゼル隊長はあの大岩のある場所を正確に把握していたらしい。
素早く斥候を放ち、確かに隠し扉があり、誰か潜んでいる事を確認したようだ。
西イーラウが建設される以前の遺跡がどうやらとも言っていた。
まさしく賊の根城にもってこいな場所じゃないか。
記録では出入り口は全て土で塞がれたとあるのだけれど、大嘘だったみたいだ。
これから『死神』の隠れ家に乗り込む事が簡潔に伝えられると、全員が一斉に騎馬の準備に取り掛かる。
私とは言えば、シゼル隊長の命でまた二人乗りだ。
急ぐので私のような超初心者にはついてこれないだろうとの配慮からだった。
瞬く間に用意が整えば、シゼル隊長を先頭に南門へ走り出す。
来た時と同じ入口だ。
そのまま東南の、ペシャウル国に続く街道に沿って移動し、やがて、荒地へと道を外れる。
シゼル隊長の腰に回した手に力を込めないと、身体が吹っ飛びそう!
乗馬って肉体労働だよ!
遠くに見覚えのある景色が広がってくると息を呑んだ。
ここだ!
シゼル隊長が隊に合図を送り、包囲するようにそれぞれが展開する。
これからどうするんだろう?
多分、少数精鋭の二番隊が突撃する事になるんだろうけど。五番隊は周辺の探索に散っていってしまったし。
本拠地なんだから当然、相手に地の利もあるだろうし。万が一、他の出口から逃げられでもしたら大変だ。
いっそ水でも流し込めば、地下から慌てて飛び出てくるかなぁ?とか考えたけれど、止めておきました。人として。
やろうと思えば出来てしまう自分が恐ろしい。
昨日、術で見た限りはあの隠し扉、人一人通るのがやっとじゃなかったっけ。
それなら、全員突入かつ脱出しやすいように、入口を広げた方がいいのかな。
「シゼル隊長?」
「どうした?」
「よければ、あの出入り口となっている穴を大きくしますけど」
「…」
あれ? なんだか、微妙な反応。
「お前は…」
呆れられている…。
「まぁ、いい。ここまで来たら逃がしはしない。出来るならやってもらおう」
何か悟りを開いたような溜息をつかれたが、私は騎馬から素直に降りて、大岩の方を向いた。
隊員たちは皆結構離れた場所にいるのでおそらく巻き添えにはしない筈。
「じゃあ、やりますねー」
さくっとやろう、さくっと。
「ムンド・テラウン、トラウ・ウェンテル(動け土よ、飛ばせ風よ)」
風と土はかなり使い勝手がよいな。土木作業に向いている。
誓印を切り終わってしばらく、ゴゴゴと物凄い地響きを立てて、扉を中心に地面が盛り上がる。
「うわっ、何だ!?」
「おい、マジかよ!」
あはははは、ここまで来たらもう開き直りです。
イッツ・ショータイム!
…ってあれ? 範囲、広すぎました?
なんか運動場一つ分くらいの地面を移動させちゃったんですけど。
穴周辺の地面を宙で一塊にまとめあげると、誰もいない場所にぺしっと捨てた。重々しい響きを立てて、土砂と瓦礫の山が出来上がる。
うん、想像してたように天井部分だけ綺麗に除去…とはいかなかった。
悲鳴やら怒号とか聞こえた気もするけれど気のせいにしておこう。
結構どころじゃなく力技だった…ので疲れた。
足から力が抜けてがくんと座り込む。
凄まじい地殻変動に扉辺りから次々と砂に塗れた集団が何事かと飛び出してきた。
シゼル隊長が捕縛命令を飛ばす。
まずい。予想以上に力使いすぎ。意識が飛ぶ。
最後の顛末を見届ける事が出来ないまま、私はそのまま気絶してしまったのだった。
予告通りのテキトーな展開です。