01 四回目の迷子
一人称表現。前触れ無く残酷描写ありです。それでもノリは軽いです。
残された手紙は以下のように始まっていた。
―――これはさようならを伝えるためじゃないよ。
覚えておいてよー!
***
世の中何が起きるかわからない。
交通事故に強盗、カジノでジャックポッド当てちゃったり、優良大企業が潰れちゃったり。
大なり小なり人生には突発的事故がツキモノで、それが大吉なのか大凶なのかは人それぞれって所?
千差万別、アメリカ人もいれば中国人もロシア人もブラジル人もいる。
そんな有象無象の世界の中で、私が訳のわからない『迷子』の才能を引き当てちゃったりした事も、きっと何か意味があるとか思いたい。
「ここ、何処ー!?」
一体、半世紀も生きていない人生で何度叫んだ事だろう。
まずいと思ったんだ。
今朝は寝坊してしまった。
いつも第二の目覚まし時計となって叩き起こしてくれるばあちゃんが、じいちゃんと金婚式の記念旅行に出掛けたのが前日。
案の定、朝に弱い私は起きられず、講義が始まるまであと一時間を残すのみ。
やばいよ! 移動時間を考えると余裕のよの字も無い!
朝御飯を食べる暇も無く、洗いざらしのジーンズと大き目のサマーセーターだぼっとかぶり、男と間違われる原因のショートヘアを手ぐしで整え、それでも戸締りは怠らず、大焦りで家を飛び出した。
出席率を重視する教授なので、あと一回遅刻したら単位取得は絶望的。
駅までの最短ルートを行く為、普段は使っていない、ごみごみとした裏の小道を駆け抜けた。
―――そこがたまたま『重なって』いたらしい。
短くも無い二十年の人生経験でその発現条件は学んでいた筈だったのに。
全くもって油断していた…。
一歩足を踏み入れて、何か、空気の質に違和感を覚えた。
「!?」
―――これは、間違いなく、アレだ!
小学生に上がった頃から武道を習い始め、精神統一なる瞑想を会得するようになってから、落ち着いて現実に意識を合わせればそこで『迷子』から逃れられる事を学んだ。
ちょっとしたタイミングが問題なのだ。
あまりにも引力が強い場合はその限りではないけれど、この数年ご無沙汰だったのは私の努力の賜物!
でも、その時、私は既に深く入り過ぎていた。
だんだんと足の下の地面の感覚が無くなっていく。
ここまで現象が進めば足を止めてももう何ともならない。
今まで視界を占めていた住宅裏の景色が真っ白に溶け、次の一瞬で全く異なる景色に入れ替わる。
―――私、立宮 カズミ。
自称、トラベラー。より正確に言うならば、異世界間、がつく。
またしても、壮大な『迷子』となってしまったらしい。