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第六回


 祐介、彼はこの朝もシャワーを浴びて、温水から冷水シャワーに切り替えてその冷たさに暫く耐えると、浴室から外へ出た。

 香奈は今日、可燃ゴミの日だったので、納豆をパックからお椀に移し、そのパックをゴミ袋に入れると、ゴミ集積場まで歩いて捨てに行ってきた、という。

 祐介はそのお椀の納豆を食べればいいものを、炬燵の上にあったポテトチップスをパリパリと食べはじめて、それでお腹がいっぱいになってしまった。

 九時になり、香奈、彼女は近く、ドラッグストアに買い物に出かけた。祐介は口寂しくて仕方が無いので、近くコンビニでハイライト五百二十円を買い求めようと考えた、と言おうか、単純に欲求に従って、自宅を出た。

 曇り日であった。隣の戸建の女性はいつの間にか、駐車場部分に、黄色、紫、赤、オレンジ、白の花を植えていたようである。祐介、彼の脚がちょっと止まった。暫し見つめ、また歩き出した。

「ハイライト」

 コンビニで彼は店員に告げると、店員の若い女性は

「強いのを、喫うんですね」

と言った。

「うん。そう。強いのを喫う」

彼は馬鹿のように繰り返した。しかしこの時、彼は禁煙中であり、本当に買って喫おうとしている自分にやっと冷静に気づいて、ハッとした。

「うん。そう、僕は強いのを喫う」

と、彼が念押しするように、自分に、そして店員に告げると、笑った。つられて店員も笑ったが、困惑の色も無かったわけではなかった。


 本当ならば、彼は鈴木内科医院にかかって、禁煙補助薬のチャンピックスを処方していただく予定であったが、その日は祖母の告別式にあたってしまったのであった。コンビニを出ると、彼はハイライトを一本喫った。ヤニクラが酷くなりそうな所、灰皿へ押し消した。

彼はスマホを取り出して鈴木内科医院へ連絡したが、すると第四木曜日は休診である旨、ガイダンスが流れた。


 自宅に戻り、祐介はコツコツ文章修行に励んでいた。香奈が帰ってきて、ペットボトルのカフェラテを渡してくれた。

「ありがとう、香奈ちゃん」

「ねぇ、それよりさ、わたし何か、ラーメン、バリカタ麺、買ってきちゃった」

「いいんじゃない?バリカタ麺」

「そう?いいの?」

「いいだろう、僕、半分九州男児だし。食べたいよ」

「それなら、いいんだけど」

 香奈は祐介に五千円札二枚を渡して

「ねぇ、ねぇ、これでお米を買ってきて欲しいの」

「にしては、五千円、二枚は多くない?米そんな高くはないだろう?えっ?高いの?」

「そうじゃないの。祐ちゃん、五千円で間に合わなかったら、勝手に自分のおこづかいからお金出しちゃうでしょう」

「あ、そうだね」

「ほら、お金、しまっといて」

 香奈のスマホのアラームが鳴った。香奈の化粧直しの時刻に設定してあるアラームだった。彼女は陽の光が家に射すのを許せなかった。書斎のカーテンを強く、シャッと閉めた。

 日光を遮った中で生活するのは悪い事なのではないか。最初、祐介はそう考えていたのだが、AIに問いかけると、寧ろ、落ち着く人もいる、という返答があって、そういうものか、と思い、彼女の自由にさせてあげようと考えた。

 香奈が、化粧直しを終えて、書斎で小説を書きはじめた。入れ替わり、祐介、彼は、この自宅の掃除、整理整頓をする事にした。

 お昼まで一時間あった。まずは二階、リビングから片づけを行おうと決めて、席を立った。


 二階リビングを片づけるに際して、彼はザ・ブラック・クロウズの新譜をスマホから流して着手する事にした。

 昨日、この新譜について通して、彼は通して聞いてみたのであるが、彼の感想は

「え?何か暗くない?」

と言ったものだった。勿論1987年生まれの彼は後追いで、ザ・ブラック・クロウズのファンになったのであるが、やはりザ・ブラック・クロウズのベストに挙げるならば、90年代に発表された「サザン・ハーモニー」であった。ともかくお馬鹿なパーティ・ロックンロールといえばそうであったが、バック・トゥ・ルーツしてブルースを聞きかじっていた彼にとって、そのロックンロールは、満点であった。

 それが、この新譜になると、どこか退廃的で暗いのである。勿論、ブルースに関しても暗い部分があって、チャーリー・パットンまで遡ると、本当に暗くて、どういうテンションでその音楽に向きあえばいいのか分からなくなる。

 そうして、ブルースにはロバート・ジョンソンが代表格だが、彼から派生して、悪魔信仰みたいな側面が出てくる。

 その筆頭として、ブラック・サバスがいるわけだが、ザ・ブラック・クロウズも、このブラック・サバスに影響されてしまったのではないか、と勘繰りたくなる暗さなのだった。

 あのローリング・ストーンズのミック・ジャガーも一時期は悪魔信仰というものを前面に出していた時期があったと思われるが、早々に足を洗っている。

 ともかく、あの、ザ・ブラック・クロウズが暗くなった、というのは祐介、彼にとって非常に重たい事だったのであった。

 しかしいつまでも「サザン・ハーモニー」を求めるのはお門違いで、やっぱり年齢的にも体力的にもシンドクなってくる中で、いつまでもパーティ・ロックンロールをやっていられない、いつまでも若いままじゃないのだから、というのも、彼が膝の痛みを気にするように、重々、承知の事であった。

「これが、2026年の音か」

 ともかく、暗いなぁ、暗いなぁと思いつつ、そのザ・ブラック・クロウズの新譜を聞きつつ、掃除を行った。

 そうしてその暗さで想起されるのは、先のイランに対するアメリカの先制攻撃の爆撃の映像であったし、その様を見て、オロオロしている、Xのタイムラインであった。

〈Xのポストって何か未来を調整している感覚ありませんか?このポストが世界平和に寄与する事を願います〉

 彼はそう、昨晩ポストして眠りに就いていたのだった。


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