第五回
朝、祐介は七時半に目が覚めた。頭は熱を孕んだようにぼうっとしていた。書斎のデスクの上に、ジョニーウォーカーの残りが置かれている。まだ三分の二、ある。
彼は鬱症状の為、X、現代詩フォーラムといった創作の発表プラットフォームを休む事にして、昨晩、その折、ポストなり、散文として書いておいたりした。
彼は、起きると、まず風呂場に行って、湯を入れた。
香奈が起きてきたので
「朝飯にするか」
と言って、彼女に準備して貰う事にした。彼はただままならぬ頭を抱え、炬燵にあたたまった。
納豆ご飯を食べ終えると、マールボロを喫った。何の感興も無かった。
茶碗の片づけを、香奈に任せると、彼は浴室に向かい、湯がある程度張っている事を確認すると、彼はクローゼットから「山頭火句集」を抜き取り、それを浴室に持ち込む形で風呂に浸かった。
しかし、ぼうっとした頭が更にぼうっとするばっかりで、文字が頭に入ってこない。彼はこれではいけない、と思い、冷水シャワーを浴びて、風呂を出た。そして体を拭き、服を着ると、キッチンに向かい、サーモスのカップ(これは昨晩、香奈が洗ってしまっておいてくれたもの)に、ネスカフェゴ―ルドブレンドの粉と、砂糖を入れ、氷を数個、入れ、水を流しこんで、それを飲んだ。
そうして、山頭火句集、「草木塔」の中から、「鴉」という終盤の頁を追っていったのであった。
気づいたら八時半であった。事業所への電話はどうしようか。彼は全く鬱症状。風呂に入り、コーヒーを飲み、冷えた書斎で頭を冷やせば、ある程度は思考も明晰になったが、それが午前中いっぱい、つづくとは到底思えなかった。
これは山頭火句集 草木塔以降の句、
ほろほろほろびゆくわたくしの秋 山頭火
と、いう感慨であった。しかし、今は春であったが。
ともかく、事業所の件は、事業所から連絡があると思ったので、その時に現在の状況を、詳細に伝える事にした。彼は億劫になっていた。しかし訊かれれば、すべてを努めて話すつもりでいた。彼はこんな時、いつも自分から連絡を入れていた。しかし、連絡ができるかぎり、彼は「大丈夫」だと思われていたし、実際、彼はそのやりとりで「大丈夫」だと伝えていたのだが、考えてみれば、全然大丈夫では無かったのである。その旨、しっかり伝えようと思ったし、願ったのであった。
香奈がキャンパスノートに書いた小説、一頁を読んでくれとばかりに彼に見せた。彼女の文字を読む度に、達筆であると思うし、よれていても、優しい字だな、と思う。
「うん、よく書けている」
どの口で言っているのかわからない。
山頭火と彼、祐介に共通点がある事を、彼自身見出した。それは、どこか自己陶酔的と言える点だった。
祐介の書く私小説は抒情的にならない。どこかセンチメンタリズムになってしまう。
山頭火の方でも書いている。
酒のような句が多いが、水のような句が多くを占めなければならないと。




