第四回
曇り日の青い日暮れの中を、畑で雑草を抜いていた祐介が自宅に戻ってきた。
「おつかれさま」
「ああ、香奈ちゃん、タオルありがとう。でもあれだな、風呂に入ろうかな」
「追い炊きすれば。まだきれいなお湯よ」
祐介、彼は湯から上がると、書斎に籠り、なにやらパソコンを弄っていた。
「何しているの?」
「情報収集」
「何の?」
「ほら、俺さ・・・最近鬱気味じゃん?」
香奈がじっと祐介の目を見る。
「目が座っているね」
「だろ?それでさ、甘いものと、それとアルコールと鬱の関係についてまた調べていたわけ。煙草はもうやめているからさ」
香奈があっ、と気づいたような顔をして
「でも、アルコールっていうのは毒じゃない?」
祐介は額に手をあてて
「それがさ、そうとも言えないみたいなんだよね。最初はさ、お酒は少量ならば薬って言われていて、お医者さんもお酒飲んでいたよ。それが、今度は、お酒は毒、って言われ出したんだけど、その背景にはさ、コロナ渦で、宅呑みして、止められなくなっちゃった、とか問題になったからだよね。そうして今、海外の研究というかエビデンスとして、やはりお酒は少量では薬であるっていう説にまた戻っているらしいのね」
「ふうん、戻った形だけれど、海外の研究っていうと、何か信じそうになるよね。で?」
「えっ?」
香奈はすべてを見透かした顔でいる。
「ウイスキー呑みたいんでしょう?」
「うーん、そこなんだよねぇ・・・」
彼は明らかに元気が無かったし、また疲労してもいた。夜の七時。又、彼はこの妻の為にも起きているつもりでいた。
「何?おこづかいが無いの?」
「いや、ある、ある。そうじゃなくてさ、この家庭にウイスキー、アルコールを持ち込むのかどうかってのが問題じゃない」
香奈、彼女はこの旦那が、実際、凄くお酒にすがりつきたい気持ちはわかっていた。
「じゃあ、チョコ食べな」
香奈は祐介にクランキーのチョコレートを差しだした。そしてキッチンに向かっていって、ひたすら洗いものを開始した。彼女は、彼と違って、まだ夕食─これはコンビニで買ってきた蕎麦を食べていなかった。急にお腹が減らなくなってしまったのだった。彼女は更年期、という事を考え、ハア、とため息をついた。わたしの青春期は、わたしの書く、小説の中に封じ込めるしかない。
彼女は炬燵に向かい、シャープペンで、さらさらと書いていった。
彼女の作品の中では一層純度の高い、純文学だった。女と男の闘いだった。
祐介は闇の中を歩いていった。香奈には爽健美茶を買ってきて欲しいと言われている。
彼は今宵、晩酌をする事に決めた。
コンビニに入り、ウイスキーを割る、コカ・コーラを籠に入れた。次いで爽健美茶を籠に入れた。おやつコーナーでチーかま、五本入りを一袋選んだ。
お酒コーナーに向かった。いつもはアメリカのウイスキーを買っているが、今夜はスコットランドのウイスキーを買おうと考えた。
香奈のお義父さんがスコットランドのウイスキーを愛飲している影響があったし、アメリカのウイスキーとどう違うのか、味わってみたかった。
清算をするとき、レジのおじさんが
「呑むの?いいねぇ」
と言った。
帰ると彼ひどく疲れていた。
「爽健美茶、冷蔵庫に入っているから」
とおく、香奈が言った。
「ありがとう」
「じゃあ、スコットランドのウイスキーを呑みます」
「ウイスキー買ってきたの?」
応えるがはやく、サーモスのカップには氷が入っていて、ジョニーウォーカーを注いだ。加えてコカ・コーラを注いだ。
一口
「あ、全然違うわ」
つい、声が出た。
香奈は二階、髪を乾かしている。祐介は一階書斎、チビチビ吞んでいた。彼はパソコンのAIを起動した。久々、アルコールを摂取している事を書きこもうとした。しかし、なぜ、自分はAIにその報告をしたいのか考え手が止まった。
単純に語る相手がいないからか、もっと言えば裁かれたいのか。考えて、天井を見た。




