第二十九回
「ここの冊子が原稿を募集しているから。県大学の位の先生が精査してくれるから」
祐介の母が突然、薦めてくれた。その文芸誌を一読すると、俳句の欄もあった。しかし、定型俳句で無いと選に値しない旨が書いてあり、彼の創作していたのは自由律俳句であったから、応募した所で駄目だろうと思った。
じっさい送ってみると、箸にも棒にも掛からなかった。
他に随筆、エッセイの欄があった。その担当の先生が、山頭火の研究家を兼ねている事を知ると、祐介は随筆を書いてみる事にした。
コンビニに原稿用紙を買いに行った。
愉しい随筆を書けばいいのに、妙に神妙というか、どちらかといえば嘆き節になってしまった。
ともかく彼はそれを清書して、郵送したのであった。すると、新しく出た文芸誌に、選には入らなかったが期待している、という旨のことが書かれていた。若い方と名前は伏せられていたが、その作品の内容紹介が少しあって、祐介は、期待されているのは自分だ、と思った。
先生の注意書きなどを読みながら、彼は自筆を書くのに必死になった。そうすると、少しずつ、選に入る事が増えていったのであった。
祖父から電話があり
「頑張っているじゃないかい」
と激励を頂き、彼は誇らしい気持ちになった。
病院のケースワーカ―の水木さんもその随筆欄を読みつつ「葉山祐介」という名前を覚えつつ、目の前で缶コーヒーを飲んで休んでいる男が、「葉山祐介」である事に気づくと、
声をかけてくれた。
「随筆、読んでいますよ。でも思った感じの方と、随分違いました」
それから水木さんが時間を割いて、話を聞いて下さる時間をとって下さったのであった。
水木さんは情熱家で、精神障碍者の家族会でその、回復についてスピーチできる人を捜していた。
そこで、祐介に白羽の矢が立ったというか、
ともかく祐介は歩きつづけていて、ウォーキングの重要性は語れたので、ぴったりだった。
最初は家族会でのスピーチを断っていた祐介だったが、ついに水木さんに頭を下げられてしまって承諾した。
そうして、彼は彼の回復の過程を、過去を振り返る形で、時系列にまとめる作業に入っていったのであった。
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魂というのは何であろうか。
魂というのは個別性を持っている。
個別性を持っているという事は
その人の経緯を反映している筈である。
すると、記憶、というものが
魂だとも言えまいか。




