第二十一回
専門学校の二年生になった。すっかりブルースに凝った祐介は、ウイスキーを呑んで眠るようになっていたし、買わなくても他の寮生の部屋に行けば、お酒はあった。
祐介、彼は将来の進路を考えて、自由が丘のリハーサル・スタジオでアルバイトの面接に向かった。黒いバンドティーシャツに黒のズボン、黒のワンスターのシューズだった。
初めての自由が丘だった。
駅を出てすぐパン屋とバーがある事が気になった。焼きたてのパンの香りが広がっていた。
とにかくリハ―サルスタジの場所をおさえておこうと、速めの電車で着ていた。しかし、スタジオがわからない。ともかく、色々、歩いてみた。もっと北、もっと北?何やら不安になってきた所に、スタジオの看板が出ていて、安心した。
「おはようございます」
音楽の世界では、いつの時間の時も、おはようございます、で通すのだった。
すると、後に名前を知る、女性スタッフの田畑さんを中心に、高山店長、これまた女性スタッフの天里さんが真剣に話し込んでいた。
田畑さんは責められて困っていた風だった。
「すみません、一時半に面接をお願いしていた葉山ですけれど」
そう、伝えると、高山店長は、ああ、ああ、と言った顔をしてスタジオ奥のテーブルに通された。
高山店長と天里さんが、面接を行ってくださったのだが、天里さんがともかく、祐介が全身黒で面接に来たものだから、そればかり気にして
「黒!黒!」
と紙で口を隠し、言っていた。オーラとか見える人なのかな、こりゃ面接落ちたかな、と思っていたら高山店長が
「じゃあ、金曜日の午後一時から来てくれ」
と、言った。ちょっと、様子を見るといった風だった。
早々に帰りたかった祐介は、はい、はい、と返事を繰り返すと、そそくさと、スタジオを後にした。
(受かったかも)
という、感慨が湧いたのは、スタジオの外の春の温かいような、冷たいようなといった陽気に身を任せてからだ。
今までちりぢりになっていた、技術やノウハウをそのままに、活かして作業してゆく。
そんな事もふと考えたが、すべてが風に吹かれてゆくようであった。
その足で、専門学校の事務所に向かって、自分はアルバイト雇用されるかも知れない、だから、学校の授業には出られる時しか、出られなくなる、それと、自分は寮生であるが、アルバイトで帰りが遅くなると寮が閉っているので、鍵を渡して欲しい旨、伝えた。
「なんだ、リハーサル・スタジオでその後の就職も考えているのか」
と返された。
就職。その語の重さにちょっとたじろいだ。
祐介は考えこんだ。リハーサル・スタジオのスタッフとして食べてゆく。これを現実的な重さとして捉えたのは、先の言葉があっての事だった。
「まあ、いいよ。話は分かった。鍵の事も寮長に言っておくから」
ついつい、熟考してしまう祐介は、そんな言葉で帰された。
そんなに時間はかからなかったので、蒲田駅のいつも利用している反対方面の方へ出る事にした。蒲田に図書館があった。入って、「音楽」のコーナーに向かい、著名なギタリストのインタビュー本を読みふけった。
ジェリー・ガルシアの項を読んでいた。彼は滅茶苦茶、ギター・ソロを弾きまくりつつ、それが音楽理論に適っているか、物凄く気にしているという事であった。
司書以外、誰もいない図書館。春の陽がさしている。祐介は、髪をくしゃくしゃと、手でふれつつ、文字の世界に没入していった。




