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第二回

 

 地図上でこの自宅からずっと北上すると、ハイキングコースがある。日頃から祐介、彼は暇があればこのハイキングコースを利用し山の中に分け入ってゆくと決めていた。

 ただ何をするでもない、彼は自然に癒されたかった。

 枝と枝の間から光が射す。葉が揺れている。

 土は硬い。彼は、今日はここまで、と決めると適当な場所を決めて座り込んだ。歩きすぎと服薬の影響で、右膝が痛む。

 青い鳥が飛んでゆく事も珍しくない。彼はただ、見、聞き、ぼうっとしていた。一応、ナップサックに自然を詠みこんだ詩歌の本を入れて来たが、それが開かれるというのは稀だった。


 今朝、祐介、彼は香奈に、食料品の買い出しに付きあって欲しい、と言われた。彼は山に行きたかったのだが、女手一つでは食料品を運んでくる事はできないと請け負った。

「そんなに日数は買わないの。四日分か、五日分」

 そんな言葉を聞きながら、彼は風呂を沸かして入った。湯が気持ち良かった。シャンプーとコンディショナーが補充されていた。妻の香奈がしてくれていたのだった。

 香奈が浴室の戸を開けて

「ねぇ、ほら、天井、黴凄くない?」

と言った。

「こりゃ、そうだね、最近、停電が起こったろ。二十四時間換気が切れているね。そこ、ボタン押してくれない?」

「はい。・・・二十四時間換気・・・、はい」

浴室の換気扇が回りはじめた。彼は、うんうん、と頷くと、浴槽に身を深く入れた。

 浴室に陽の光りが射しこんでいた。じっと見つめて、もういいだろうという所で、浴槽を出て、浴室を出て、洗濯機の上に置いてあるバスタオルで体を拭き、新しい服を着た。

「ねぇ祐介」

「何?香奈ちゃん」

「私、思うんだけどさ、今のイランとアメリカ。これ宗教戦争とも言われているけれど、こんなに人間が不幸になって、それで宗教と言えるの?」

 祐介は暫く考え込んだ後

「その、イランにしろ、イスラエルにしろ、アメリカにしろ、信仰の対象になっているのは、同じ神様というか、呼ばれ方は違うけれど、ヤハウェなんだよね。そうして、ユダヤ教の神様なんだけど、そもそも、戦争で勝つ為に信仰されていたのが、ヤハウェなんですよ、香奈さん。その、歴史を遡れば、民族間争って、領土を取り合っていたのが通常の感覚であれば、その戦いで勝って領土が拡大する事こそ、平穏をもたらすと言おうか、何と言おうか。だからそもそも論の所で、戦争の神、といった所で、戦争と宗教が密接に繋がっているというのはそういう理由なんですな」

 香奈は考えこんだ。

「日本人だって第二次世界大戦の時は、あらゆるものが軍国主義の文化として利用されたんだけど、それが神道における神様だったりしたわけじゃない。天皇というのもそう。日本は仏教徒という、説得の宗教徒でもありつつ、いつ神道なりを前面に押し出して、軍国主義の文化がまた復古してもおかしくはないわけですよ」

 香奈は、我が事となると、なるほどね、と言って

「だから、香奈のお父さん、今でも三島由紀夫読んでいるのかな」

「ああ」

「祐介も三島由紀夫、読んでいたんでしょ?」

「一時期はかなり読み込んでいたけれど、同時、何、あの人。司馬遼太郎も読んでいたから、どこまでも歴史位置づけという視点は持っているつもりだよ」

 祐介はカフェラテの冷えたものを取りながら

「でもねぇ、分からなくなっちゃう。その点、自然はいいね。裏切らないから」



 


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