第十四回
この朝祐介は、昨日ここまで書いた、「宿命」連載版に、色々、誤字脱字などの訂正を行っていた。そうしてここまで書いたが、やはり自身の小説に対する力量不足を思った。
前日の晩、最低でも、論理的、倫理的且つアカデミックな批評にも耐えられるのかどうか、ひとり黙々とAIに小説を読みこませ、延々とディスカッションを行っていたのだが、専門学校音響芸術科卒の、ほぼ高卒であった祐介にとって、理解に苦しむ所も少なくなかった。
彼は、右脚の膝をさすりながら
「土にふれていないと人は駄目になりやすい」
という、フレーズを思い浮かべて、一体、それは誰の言葉だったか、父の言葉だったか、とにかく明日の日曜日には畑に出て、雑草を抜こうと考えた。
香奈はさっさと眠ってしまった後であった。
日が変わり、彼は八時半には起床したのだが、窓からのぞむに、曇っていたが、雨は降りそうにない。気候的にもティーシャツ一枚で事足りる、と思い、今日畑に出る事を、しっかり決意し直した。
しかし、本日、香奈の方の体調に、大きな問題が出た。
「とにかく、褒められていないと駄目なの」
香奈は、昨日、原稿用紙で三十頁の大切にしてきた掌編を、ある小説コンクールにネット応募で応募していたのであった。
彼女は気が早く、今から結果が待ち遠しい気持ちでいっぱいである、しかし、落選する不安もある、それから、わたしはお酒も煙草もやっていないで、幸福を感じられるのは、賞を受賞したときくらいであるから、どんどん応募したいが、そんなアイディアもなく、コントを書いてみたのだけれど、コントを取り扱ってくれる奇異な文芸コンテストは無く、絶望している、と、いった旨、祐介に告げ、その思いを彼女のブログに吐露する事で昇華しようとして、した。
「何か、色々、こんがらがってんなぁ」
「しょうがないでしょ、わたしは早く小説家として本を出版したいの」
と、ツンツンしていた。
祐介も祐介で勝手な事をしていた。彼はコンビニに向かい、そのコンビニでは、鬼平犯科帳漫画版、ゴルゴサーティーン、ワンピース、浅見光彦シリーズ漫画版があったのだが、それをなけなしのお金で購入してきた。
彼は、以前、インターネット上の友人にあたる、シリュウさん、シリュウさんは散文マニアであったが、そこで、文体読みという言葉を教わって、彼も密かにその文体読みというのを、実践していたのであったが、ここに来て、エンターテイメントとして、コミックスを読んで、そのパターン読みみたいな事が可能であれば、それを小説書きに活かせるのではないかと、勝手、想像?妄想し、先のコミックスを大量に買い込んできたのであった。
彼は意気揚々としていたが、こんなに漫画を買い込んで、と香奈はカンカンであった。
「宿命」連載版の執筆、短歌の創作、日記などを書いている内に、その日の午前中は終わった。
昼食は茹でラーメンであった。
昼食を食べ終えると、祐介、彼はよしっ、と気合を入れて、一人、畑に向かった。
そうして腰をかがめて、玉葱畑、ジャガイモ畑の雑草を、どんどん、どんどん、執着を抜いてゆくように、抜いていった。
途中、香奈とスマホで連絡した。
「雑草は、あらかた、抜いた。でもさ、この土、表面は乾いているけれど、中は粘土質なのか湿っているんだよね。どう思う?これから水を撒いた方がいいと思う?」
「でもさ、野菜って水をあげなきゃいけない時期と放っておかなきゃいけない時期と別なんじゃないかしら。お義父さんに電話して訊いてみなきゃいけないんじゃない?」
「まあ、それも億劫だなぁ。そうだなぁ、今日はここら辺にしておくか」
祐介は退散する事にした。一応、父に報告という形で状況がわかるように、畑の写真を数枚撮った。
彼は風呂に入った。今朝、朝湯の為に沸かしておいてそのままだったのだ。湯はぬるかった。それでも汗をかいて、体が太陽に照らされて熱くなっている身には丁度良かった。
すっと夕陽が射しこんできた。
風呂から上がって、バスタオルで体を拭き、青いティーシャツに紺色のズボンを穿いた。
風呂では彼は小難しい事を考えて、それを小説に応用しようと一階書斎に行くと香奈が
「ねぇ、もうご飯なんだけど」
と、野菜炒めを盛った皿を持った姿で彼を制止した。
「あ、うん」
彼はノンアルコールビールを飲んで、最高ッ、といった顔をして、野菜炒めに白米ご飯をかっこんでいった。
暫くテレヴィ画面でユーチューブ動画を眺めていた。
そのコメンテーター曰く
「小説があって万能感がある事はいい。しかしその万能感というものは、自分の世界の内だけの万能感だから、あなたって誰?という人ともっと話をする練習しなければならない」
と言っていた。それを聞いた彼は、スマホを手にとると、X上で、稚作の短歌を褒めて下さった、一世代上にあたる短歌の先生筋にあたる方に対し、フォローしてみる、という事をしてみたのであった。




