第1話:面接の問いは、すでに答えであった ――御殿は、入る前から牙を隠していなかった――
皆さま。
物語の幕開けは、一見、
どこにでもある 静かな面接の場でございました。
前の職場を辞してから、三年。
一人の女が次に働く場所に求めたのは、
ただ一つ。
『穏やかに終われること』。
根性論も、自己犠牲も、もうたくさん。
最後に『無事だった』と言える場所。
それだけで よかったのでございます。
だから彼女は、『公的機関』『一般事務』
という文字を 信じたのです。
……けれど、この時点で、
すでに罠は成立していたのかもしれません。
通された会議室には、 年配の男女が二人。
声は柔らかく、 笑顔もある。
いかにも「問題のなさそうな大人たち」 にございました。
だが、最初の質問から、 空気は静かに歪み始めます。
「パソコンは使えますか?」
「タイピングは?」
ここまでは予定調和。
問題は、その次でございました。
「健康状態に問題はありませんか?」
「若い上司から指示されますが、大丈夫ですか?」
さらには、 決定的な一言が落ちます。
「お客様から、 強いクレームを受けることもあります。
―― 耐えられますか?」
一般事務、と 書いてあったはず。
なのに、訂正される気配はない。
さらに追い打ちのように 問われます。
「ストレスが溜まることも多いのですが、
あなたは、どうやって発散していますか?」
その瞬間、
彼女の中ではっきりとしたのです。
――この場所は、ストレスが常態なのだろうか。
この時点で、最初のフラグは立っておりました。
面接は終始なごやかに進み、
まだ採用とも決まっていない段階で、
給与、休暇、条件の説明が始まります。
「順序が逆だ」
と思いつつも、その違和感を まだ言語化できませんでした。
面接官は「決まっている」 顔をしておりました。
それは好意ではなく、都合。
四日後、 電話が鳴りました。
「少し確認したい事があります。うちに来ていただけますか?」
採用とも、不採用とも言わない。
ただ、「来るか」とだけ問う不自然な呼びかけ。
「採用していただけるのであればお受けいたします」
彼女はそう答えた。
相手は、「ああよかった」と言って 電話を切ろうとしました。
彼女は慌てて問いました。
「こちらは採用のお電話と 受け取ってよろしいのでしょうか?」
すると、なんとも歯切れの悪い 答えが返ってきたのです。
「まだ本部から正式に連絡がないのですが、たぶん大丈夫です。
……よほどのことがなければ」
よほどのことがなければ大丈夫?
なんと不思議な電話でございましょう。
されど、この曖昧さがこの御殿の作法にございました。
あの面接は、すべてを 正直に語っていたのです。
この先彼女が、この曖昧さのなかで、身を削る思いをするとは知る由もなく。
――そなたは、
どこまで耐えられるか?
清少納言、ここに記す。
耐えられるかと問う御殿に、
安らぎの席、あるはずもなし。
次回予告
「――次回、初出勤。
六十二歳の女が
強いられたのは、仕事の習得ではなく、
尊厳を差し出す『服従の儀式』にございました。




