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第9話 獅戸玲緒奈のロスタイム

 そんなこんなで蛍の光が店内に流れ始める。


 今日はなんだかあっという間だったな。

 獅戸さんとの話が盛り上がって、時間が早く感じた。

 さすがにレジ締めを叩き込むのは早いという判断で、一人で黙々とレジを締め始める。

 あくびをしながら眺めていた獅戸さんが……、


「じゃあ、おつかれっした~」

「ちょっと待てい!」


 なぜか帰ろうとした獅戸さんに、芸人ばりの会心のツッコミを炸裂させる。


「え……?」

「え、じゃないわ! まだ閉店5分前なんだけど!」

「最初に言ったじゃん。5分前はぴったりと同じって」

「その理論はドブに捨ててくれ! というか、終業時間は10時15分だから! まだ20分前だから!」

「あ、そうなん? 閉店時間=終業時間だと思ってたわ」

「閉店作業とかあるだろ!」

「まあ、鳥越くんが大変そうだし、残っておいてやろう」

「……なんで上から目線なんだよ。初日のくせに」


 なんやかんやで、ようやくレジを締め終わった。


 だが、俺は遅番の総括をしているので、本日の売り上げデータの入力の作業という責任重大な仕事が残っている。

 いつもは閉店間際に、埋められるところから埋めていくのだが、恥ずかしながら獅戸さんとのトークに熱中しすぎたせいでおざなりになっていた。


「鳥越さん、お疲れさまでした。あれ、珍しいですね。まだ、売り上げの入力終わってないんですか?」

「ごめん! 鹿島くん、先帰っていいよ」

「分かりました。お先、失礼します」


 鹿島くんを見送って、フィーバータイム(残業タイム)突入。バイトに残業代なんて出るわけがなく、ここからは慈愛に満ちたボランティア活動がスタート。

 ……よりにもよって、今日は売り上げが立っている。お店としては嬉しいことだが、単純に作業量が増えるのでなんとも。

 

「どう? 終わった?」

「……なんでおんねん!」


 思わず関西弁が炸裂してしまった。関東生まれ関東育ちだけど。

 なぜか、新人の獅戸さんがまだ残っていた。


「いいツッコミ! 漫才ワン出れるんじゃね?」

「俺、芸人じゃねえよ!」

「お、それもナイスツッコミ。うちと一緒に出るか? ネタは書いてやるぜ。こう見えて、お笑いも結構好きだから」

「……帰んなくていいの? 終業時間から5分たったよ」

「言ったじゃん。5分はぴったりって」

「逆も適応するのかよ」

「お! なんかそれセンス系のツッコミっぽい!」

「今のは、ツッコミじゃなくて嘆きだよ」


 どういうわけか、獅戸さんと話していると、俺に眠っていたツッコミ能力が開花している。

 本当に芸人になってやろうか?


「なんか手伝わなくていいの?」

「うん。大丈夫。もう終わる」

「終わった?」

「…………終わった」

「お疲れー! あとでコーヒー奢ってやる」


 そういって、獅戸さんは俺の背中をバシバシと叩く。

 ……どっちが先輩だよ。


 事務所には俺と獅戸さんの二人きり。深夜の部屋に二人の男女。何も起きないはずはなく……。


 俺は目の前の光景に目を疑った。なんと獅戸さんが、この場で制服の白ワイシャツとズボンを脱ぎ始めたのだ。


 本当に何か起こってるんだが……⁉

 

 彼女の均整の取れたボディを強調する黒インナーと、セクシーな黒パンツ姿が露になる。エッッッすぎるだろおお! 速やかに、18禁の赤暖簾を彼女の前にかけてあげてください!


「はああああああ⁉⁉ 何してんの⁉⁉」


 だが獅戸さんは俺のリアクションに首を傾げている。


「どうした? なんか仕事のミスでも思い出した?」

「そんなわけあるか! 一回、自分の格好見てみてくれ!」

「……あー。それね」

「それね、じゃねえよ!」

「男とか女とかさ、そういう細かいことはいいんじゃね?」

「細かいことを気にしないって次元じゃないだろ、それは!」

「いやいや、本当に。うちらもういいオトナなんだからさ。別にうちみたいなおばさんの下着見ても興奮しないっしょ?」

「興奮するわ!」


 歴史上最悪のツッコミだろ、これ。


「あっはっは! ヤバい……! ツボに入った……! 『興奮するわ』じゃねえんだわ……!」

「……これは本当にごめん。訴えないでくれると、ありがたいな」

「訴えるわけねえだろ。どこ気にしてんだよ。……あ、ちょっと待って、彼氏から連絡きたわ」

「へー。彼氏いるんだ」

「え……何、その反応? もしかしてショック受けちゃった?」

「受けてないよ!」

「……ていうか、鳥越くん彼女いないの?」

「…………はい」

「え……。童貞?」

「……………………はい」

「そーなんだ」


 悪かったな! 今年で28歳、バリバリ童貞だこの野郎!

 「童貞が許されるのは小学生までだよねー。きゃははー」みたいな目で見ないでくれ。


 『DT』という、タイムカプセル並みに地下に埋めていたコンプレックスを、ショベルカーで強引に掘り起こされた俺は、混乱して返す言葉すら出ない。

 すると、獅戸さんは追い打ちをかけるように、とんでもないことを言ってきて、

 

「これから彼氏とホテル行くんだけど、鳥越くんも来る? 卒業させたろか?」

「急にど下ネタぶっこんで来るんじゃねえ! 早く帰ってくれ! というか、服着ろ!」


 下着姿のままで爆弾発言を平気で放り込んでくる、この女王様は何なんだ。


「あ、ライン交換しよっ。行く気ない時、代わりに出てもらわないとだし」

「おい、やめてくれよ」

「ははっ。冗談だって」


 あなたに関しては遅刻という前科があるので、冗談のような気がしないんですが、それは。

 とりあえずラインは交換しておく。


「というか、早く服着ろ!」


 この女はいつまで下着姿なんだろうか。露出狂の変態女め。


 すると、事務所に扉がガチャリと開いた。そこには忘れ物をしたのか、鹿島くんが戻ってきて……。

 彼目線からすると、事務所入るなり、下着姿の女と男が一緒にいる恐怖映像がいきなり映し出されたわけで……。


「お取込み中、すみませんでした‼」


「ちょっと待てええええええ‼」


 ツッコミキャリアハイ、本日二度目の更新。

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