第52話 新人バイトちゃんたちと深夜のドライブ⑥
「何してんねん、きみたち」
玲緒奈が眉間に皺を寄せて、問いただしてくる。
「お着換えしていただけですよー」
「まさかっ、ウサギが着替えているのに、鷹雄くんは隣に座ってたってことか⁉」
「これは一線超えていますね」
「違うんだ! そもそも兎紗梨がここにいてほしいって言ったし、俺は目を瞑って何も見ていないぞ!」
「そーですよ、せんぱいはちゃんと良い子にしていましたよ」
俺は幼稚園児か。
しかしマズいな。これでは俺に対する玲緒奈と猫屋敷さんの好感度が株価ばりに大暴落するぞ。
「んまあ、それなら良いけどよぉ。妬けちまうから、程々にしておけよ」
やける……? 焼ける……? 日サロでも行くのか、玲緒奈は。陽キャ姉さんのことだから日サロの一つや二つ、行ってもおかしくないわな。
「それで、何買ったんだ?」
俺の問いかけに、玲緒奈はふっふっふと自慢げな笑みを浮かべていた。
「皆の衆、パーティーの始まりだぜ!」
後部座席に座った玲緒奈が、レジ袋をがばっと開ける。
袋の中にはポテチやクッキー、バターピーナッツにグミといったお菓子類から、ジュースや缶チューハイといった飲み物類までぎっしり。まるで欲望を具現化したようなラインナップだ。
「こりゃあ、また凄いな」
「獅戸さんが一晩で選んでくれました」
「私、ポテトチップスがいいです~」
「ちょっと待ってろ。ポテチ開けるからな。よいっしょ」
玲緒奈が豪快にポテチ袋を開封すると、中には油と塩に塗れた欲望の塊がぎっしりと詰まっていた。
深夜のポテチ。なんて背徳なんだ。エンマ大王様に地獄行きを命じられても文句言えない。
「うーん、美味しい~♡」
兎紗梨が体裁とか全く気にすることなく、欲求のままにぼりぼりとその欲望の塊を口の中に放り込んでいる。
「あんま車の中汚すなよ~」
一応、咎めておく。
車内のパーティーは大歓迎だが、ゴミと油まみれになったら後片付けが大変だ。都会でよくあるハロウィンパーティーの後始末をする人の気持ちを果たしてリア充たちは考えたことがあるのだろうか?
「飲み物も買ってきましたよ。どうぞ」
猫屋敷さんが二つのペットボトルを前方に座る俺と兎紗梨に差し出してきた。一つはオレンジジュースで、もう一つはお茶だ。
どっちでもいいので、兎紗梨に判断を委ねることに。
「か~。オレンジジュースとポテチ、最高の組み合わせですぅ~」
兎紗梨はノータイムでオレンジジュースを手に取ると、そのまま、がぼがぼと喉に流し込んでいる。胃の中で欲望と欲望が融合しているだろう。
……というか、この頭ハッピーガールはつい先ほどまで自分に降りかかった災難をもう忘れたのか?
「おもらし」
「ひゃん!」
どうやらたったの四文字で伝わったらしい。
兎紗梨は渋い表情をしながら、オレンジジュースをドリンクホルダーに置いた。これもう調教済みだろ。
「せんぱいの意地悪~」
「二度とあの惨劇を繰り返してはならない、という戒めだ」
ということで俺はお茶を選ぶ。
お茶で良かったよ、本当。ちなみに俺はお茶飲み物最強説というのを提唱している。だって、美味しいし、安いし、健康的だし、和風だし、文句の付け所ないよね?
そういえば、飲み物のラインナップってあと何かあったような……。
選択肢に出てこなかったからすっかり抜け落ちていたけど。
すると、後部座席から、ぷしゅっ、という音が聞こえ、独特なアルコールの匂いが漂ってきた。
「みゃお、かんぱ~い」
「獅戸さん、お疲れ様で~す」
「よろしくやってる⁉」
なんてこった……。
俺の車が居酒屋と化し始めたぞ。
二人は乾杯したのち、缶チューハイをぐびっ、ぐびっ、ぐびっと喉に流し込んでいる。
「きゃは~。さいっこうだぜ~」
「深夜のサービスエリアでの一杯。これをなんと表現すれば良いのでしょうか」
「そしてこれだ、バターピーナッツ!」
「更にもう一発、といったところでしょうか」
バターピーナッツをつまみに、お酒上級者が嗜む無果汁系の缶チューハイを流し込む、アルコールガールズ。仕上がりすぎだろ、こいつら。もう家でやってくれよ……。
しかし、なんて幸せな表情をしているんだ、この子たちは。羨ましい。俺も酒が心から楽しめる身体に生まれてくれば良かった。
「あー! 二人ともずるーい! 私もお酒欲しいー!」
「ただし、ウサギ、あんたはダメだ」
「ただし、兎紗梨、お前はダメだ」
「ただし、卯月さん、てめえはダメだ」
三方向から同時に全く同じ意味合いを持つ言葉が飛び出す。
そうだ。人類よ思い出せ。あの日の惨劇を。あの、兎紗梨がキス魔と化した地獄の歓迎会を。
「しどい……」
涙目になった兎紗梨は、自分を労わるようにポテチを一かじり。
なんだろう。あんまり可哀想に見えないな。




