第50話 新人バイトちゃんたちと深夜のドライブ④
「はあああああああ⁉」
何やってるんだよ、このムードメーカー兼トラブルメーカーは。
「トイレに……行きたいですぅぅぅ」
兎紗梨が座る助手席のドリンクホルダーには、バイトの時持ってきたと思われる水筒が置いてある。
しかも水筒、無駄にでっけえな……。遠足にでも行く想定なんか? この大きさだと、仕事終わっても半分以上残っちゃうだろ。
「あのなあ、兎紗梨。長距離ドライブでの飲みすぎはタブーなんだよ」
「手持無沙汰でつい……」
ここは車が最も速く走ることが出来る、日本が産んだ交通網の結晶、高速道路だぞ。
そんな簡単にトイレにありつけるわけがない。
高速道路に乗っている時に用を足す手段と言えば、サービスエリアに寄るほかない。この辺にサービスエリアはあるのだろうか?
「調べによると、あと二十分くらいでサービスエリアがあるみたいです」
俺の脳内を察知したかのように、猫屋敷さんが指示していないのにも関わらず、既にスマホを開いて調べてくれていた。
これは助手だわ。助手席に座るのは猫屋敷さんが相応しかったのではなかろうか。
「ナイスだ、猫屋敷さん。兎紗梨、我慢してくれよ」
「に、二十分ですか……。だ、大丈夫かなあ」
「おい……頼むぞ」
「最悪、おもらししてもいいですか?」
「ダメに決まってるだろ!」
大切な車が兎紗梨の小便塗れになるなんていいわけがない。
……いや、それはそれでご褒美のような。車に乗ったら兎紗梨のおしっこを毎回堪能できると考えれば。
って、変態すぎるだろ。何を考えているんだ、俺は。
絶対にバレたくない思考を巡らせながら、サービスエリアに向かって深夜のハイウェイを快走する。
「おちっこ、もれちゃううううう」
助手席では兎紗梨が幼児退行し始める。
幼児モードの兎紗梨、なんかイイな。これが赤ちゃんプレイってやつ?
まさか、こんなところで新たな性癖に目覚めてしまうとはな。
「おい、鷹雄くん。今、兎紗梨の姿にちょっと興奮覚えてただろ」
げっ。なんかバレてるんだけど。
何でも鋭ければいいってもんじゃないぞ、玲緒奈。
「最低ですね、鳥越さん。苦しんでいる卯月さんを見て、性的興奮を覚えるなんて。失望しました」
「バッ! 決してそんなことは……」
「そんなことは?」
「少し……あります」
「やっとボロを見せましたね。この変態」
「なっ……!」
最近の猫屋敷さん、ガチで当たり強くない?
出会った当初は、もっとおしとやかで控えめだっただろ。
逆に大人しい見た目の猫屋敷さんにめちゃくちゃに言われるなんて、それもそれでなんだかゾクゾクする。
……って、またキモい思考をしてしまった。変態に変態を重ねてどうするんだ。
「あっ、鳥越さん、サービスエリアの標識、見えましたよ」
「本当だ! 兎紗梨、あとちょっとだぞ」
「うううう……漏れそう……」
「ウサギ。ヒッヒーフーのリズムで呼吸だぜ」
「ヒッヒーフーですね。ヒッヒーフー、ヒッヒーフー」
「おい、玲緒奈。それはラマーズ法な。出産のときに使う呼吸法だから。間違った知識教えるな」
「出産? 子ども? せんぱいと子作り? はわぁ……」
「どういう思考回路だよ、それ⁉」
車内でわちゃわちゃとトークしていると、道路に小さな凹凸があったのか、ガタンと揺れる。
「ひゃぁん♡」
その影響で、助手席からいかがわしい声が聞こえてくる。
はっ! これが、〇えぎ声というやつか⁉
「大丈夫か、兎紗梨!」
「……ちょっと漏れちゃったよぉ」
どうやら兎紗梨の膀胱が、先ほどの振動によって刺激されてしまったらしい。
緊急性を帯びてくる車内は、一気に緊張感に包まれる。
限界を迎えようとしたまさにその時、ここでようやく、サービスエリアとの合流地点が見えた。
☆
深夜のサービスエリア。
利用客はほとんどおらず、真暗闇のがらんどうがどこまでも広がる異質な世界だ。
兎紗梨は降りるや否や、灯りをともすトイレマークに、光に群がる虫の如く吸い込まれていった。
待つこと、十分。
兎紗梨は実に晴れやかな表情をして、帰ってきた。
「あー、スッキリした~。もう、一時はどうなるかと思いましたよ~」
「まったく、ドライブするときは、飲みすぎに注意しろよ」
「はーい」
にへら、とだらしない笑みを浮かべながら敬礼ポーズをする兎紗梨。本当に分かっているのか、この子は。
「せんぱーい、ごめんんさーい。ちょっと漏れちゃったみたいですぅー」
その時、とんでもない光景が俺に目に飛び込んできた。
なんと兎紗梨はポケットから先ほどまで履いていたと思われるパンツを取り出したのだ。
ひらひらと純白なパンツを俺に見せてくる。
意味の分からなすぎる光景に、脳が一瞬フリーズしてしまう。
「はああああ⁉ 何してんねん!」
パニックになりすぎて、関東人であるのも関わらず、思わず関西弁のツッコミが出てしまった。
「えー、だって、濡れたパンツ履くの、普通に気持ち悪いじゃないですか。それに、濡れたままのパンツで車に乗ったら車が濡れちゃうかもしれないじゃないですかぁ」
「それはそうだけどさぁ、替えのパンツは持っているのか?」
「持っているわけないじゃないですかぁ」
「知ってた」
困ったなあ。
待てよ、ここはサービスエリア。
昨今のサービスエリアは、高速道路の休憩場所という本来の使用用途を超越し、コンビニ、お土産屋、飲食店など様々な店が立ち並ぶ。
場所によっては、温泉やレジャー施設などが併設され、サービスエリア単体で行楽地になる、素晴らしい空間なのだ。高速道路を利用しない人も、サービスエリア目当てで来る人も最近は多いらしい。
更に、深夜でも空いている店もちらほらあるというのだから驚きだ。
つまり、何が言いたいかというと、女物のパンツが売っている可能性があるというわけだ。
というか、売っていないとマズい。これからのドライブをノーパンでお届けすることになってしまう。
「兎紗梨、お店に行こう。パンツ売っているかもしれないぞ!」
「本当ですか⁉ やっぱり頼りになりますね、せんぱいっ!」
……待てよ。
俺はとんでもないことに気づいてしまった。
パンツが手元にあるということは、現在の卯月兎紗梨は“ノーパン”⁉
その事実を知るや否や、急に心臓がバクバクし始めた。
彼女の格好は、太ももがくっきり見える、スリットが入ったロングスカート。
その太ももの先は……。
扇情的なスリットスカートが、俺の想像力を駆り立てる。
ごくり、と思わず生唾を呑んでしまう。
もし……風が吹いて、スカートがめくれてしまった場合。
兎紗梨のデリケートゾーンが白日の下に……。
それはマズい。彼女の尊厳を守るために、それだけは避けなければ。
「兎紗梨、早く車に戻るんだ! パンツは俺が買ってくる」
「えっ、せんぱいが買ってくれるんですか⁉ 私にピッタリのパンツ、買ってきてくださいね」
女子の下着を、俺が買いに行くって、普通に考えてヤバくないか? 下手したら、通報案件だろ、これ。
でも、仕方ないよな。ノーパンの兎紗梨を、野放しにする方が通報案件だからな。
とにもかくにも、ノーパンの兎紗梨を慌てて車にぶち込んだ。




