第47話 新人バイトちゃんたちと深夜のドライブ
あれから三日後。
二回目の新人バイトちゃんだけのオンリーシフト。
あの一件があって、心配すぎてまたしても様子を見に来てしまうベテランアルバイター俺。
兎紗梨と猫屋敷さんの精神状態はすっかり回復し、玲緒奈も念のため病院で検査を受けたが異常なし。
新人バイトちゃんたち、完全復活。
その復活を祝うかのように、大きなトラブルなく三人は完璧な業務を遂行して見せていた。これで俺もようやく成仏できるな。って、死んでねえよ。
ちなみに兎紗梨は、告白以降、特に大きな変化は見られず、いつものように明るく元気に振舞っていた。俺だけ、気にしすぎて、兎紗梨と話すときぎくしゃくしてしまうのなんか損だろ。
「よっしゃー、無事に終わったぜー」
「ですね。トラブル起きなくて良かったです」
「せんぱいは見てくれましたよね? 私たちの頑張り!」
事務所に戻り、タイムカードを切ると、労働者の呪縛から解放される。
その影響からか、新人バイトちゃん三人は喜びを爆発させている。
しかし、無事に業務を完遂させることがこんなにもありがたいことなんて思わなかった。
「よーし、よしよしよし。よく頑張ったな、きみたち」
だからこそ俺はもう無茶苦茶に撫でる。新人バイトちゃん三人の頭を、これでもかというくらい。
「うちらは動物かって」
「せんぱいのなでなで、幸せですぅ」
「……みゃあ」
三者三様の反応を見せる新人バイトちゃん三人。本当に可愛いな、この子たちは。
「お疲れさん。あとはゆっくり休んでくれ」
あとは帰って、だらけて、寝るだけ。
誰もがそう思った、その時。
玲緒奈がとんでもない提案をしてきた。
「なあ、皆でこれから鷹雄くんの車でドライブ行かね?」
「はい?」
何を言い始めているんだ、このパリピ姉さん。
現在時刻は夜十時三十分。良い子はもう寝る時間だし、俺のようなオタクアルバイターも家に帰ってラノベやアニメを見る時間。
とにもかくにも、普通の人間ならば、これから外で活動する時間ではない。
……であるはずだが、このオールタイムイズハッピータイムの陽キャ姉さんには、そんな常識は通用しないようだ。
「うわっ、それさいこーですね! お願いします、せんぱいっ」
「楽しそうですね。ぜひ行きたいです」
兎紗梨と猫屋敷さんも乗り気のようだ。
これが深夜テンションというやつなのか、恐ろしい。
「今、何時だと思ってるんだよ。それにきみたち疲れているだろうから、休んだ方がいいって」
玲緒奈はやれやれ、といった風に肩をすくめると、俺の背中をポンポンと叩く。
「ったく、相変わらずかてーな鷹雄くんは。うちら三人がそう言っているんだからさ、ここは男らしく車に乗せてくれよー」
「そうですよ、せんぱいっ。私たちを遠くに連れて行ってくださーい」
「家に帰って一人でいるよりも、皆で一緒にいる方が、疲れが取れるかもです」
新人バイトちゃんたちは、じーっ、と俺に向かって視線を集中させる。
あー、もうこうなったらやけくそだ!
「よっしゃ! じゃあ行くどー、深夜のドライブじゃ!」
「「「おー!」」」
☆
「鳥越さん、見てください。店の鍵締め、だいぶ慣れてきましたよ」と得意げに話す猫屋敷さんは、言葉通り完璧に店の鍵締めをやってのけた。
もう、閉店業務は猫屋敷さんに任せてもよさそうだな。
新人バイトの着実な成長に、涙がちょちょぎれるくらい嬉しい。
「うちさ、一度でいいから鷹雄くんの車、乗ってみたかったんだよなあ」
それを聞いた兎紗梨は、玲緒奈に得意げな顔をしている。
「あれー、もしかして玲緒奈さん、せんぱいの車に乗ったことないんですかー?」
「ねえな、残念ながら」
「私はもう二回も乗っちゃってますよ。ねっ、せんぱい!」
「お、おう……」
どういう、マウントの取り方だよ、それ。俺の車に乗ったからって、何の優位性も保てねえよ。
「ちょっと詳しく聞かせてもらおうか、ウサギ~」
「えへへ。秘密ですよ。ねっ、せんぱい」
兎紗梨はそう言って、俺に肩を寄せてくる。くぅー、あざといぜ。
「鳥越さんがふしだらな人なのは良く分かりました」
「猫屋敷さん⁉」
猫屋敷さんが俺のことをおいじりになっている……だと?
まあ、それくらい彼女との距離が縮まったということにしておこう。
営業時間外のカンガルー書店七姫店の駐車場に佇む一台の車。
それは当然俺の車だ。
四人乗りのオーソドックスなコンパクトカー。助手席に一人、後部座席二人を乗っけることができ、ちょうどこの三人を乗っけられる計算だ。
先に運転席に乗り、エンジンをかけ、後部座席のスライドドアを運転席にあるボタンを使い遠隔で開く。
「乗っていいよ」
と、ここで問題発生。
なぜか、三人全員が助手席に乗ろうとし始めている。
「ちょっと~。なんで皆、助手席に乗ろうとしているんですか? 助手席に乗るのは、せんぱいの車の助手席に二度乗ったことある、わたしが適任なんです~」
「いやいや、新人バイトの中で一番年上のうちが助手席に乗るのが相応しいだろ」
「皆さん、助手席という言葉を根本から理解していますか? 助手とは指導者から信頼を得て、サポートする人のことを指します。つまり、鳥越さんから皆さんのリーダーを任せられた私が適任なのです」
なぜか衝突する新人バイトちゃんたち。
そんな助手席がいいのか? 俺が子どもの時は、親と二人の時でも、なぜか率先して後部座席に乗っていたくらい、後部座席の方が好きだったぞ。ゆっくり景色とか見ることが出来るしな。
「ジャンケンしようぜ。それなら文句ないだろ?」
「はいっ! 負けませんよ!」
「了解です」
玲緒奈の提案で助手席をかけたジャンケンをすることになった。どこでもよくないか、座る位置くらい。世界一無駄なジャンケンだろ、これ。
が、当の本人たちはいたって真剣。バチバチと火花が散っている。
「「「最初はグー! ジャンケンポーン!」」」
結果、見事助手席の座を射止めたのは兎紗梨だった。
「これが愛の力ってやつですよね。せーんぱいっ」
「んな⁉」
こうして、予測不能な新人バイトちゃんとの深夜ドライブが幕をあげたのであった。




