第33話 カンガルー書店七姫店の歓迎会⑦
「えー、せんぱい、玲緒奈さんのこと好きなんですか⁉」
もちろん、そんな話になってはこのおてんばガールが黙っていない。
卯月さんが酔った勢いか、俺の身体をゆっさゆっさと揺らしながら喚きだした。
「ち、げえよ! このテキトー女がほら吹いているだけだ!」
「ひどい……。鷹雄くん……うちのこと、適当って……ひっく、ひっく」
噓バレバレの泣き真似で、俺をおちょくる玲緒奈。酒が進み、どんどんテンションがおかしくなっている。
「大丈夫ですか、玲緒奈さん⁉ あー、せんぱいっ、女の子を泣かせちゃダメなんですよー」
「女の子ってたまじゃないだろ。……ほら、見てみろ! 舌出して、俺をバカにしてる!」
あっかんべー、をする玲緒奈に、大人げなくムキになってしまい、思わず口をイーっとして悔し顔をしてしまう。
玲緒奈はそんな姿の俺を見て、ニヤニヤしながらぐびぐびと酒を飲む。俺を酒の肴にするな!
「いやー、やっぱおもしれーわ、鷹雄くんは」
バンバンと背中を叩く玲緒奈。叩かれる俺。
意味もなくニコニコする卯月さん。
一意専心に酒を飲む猫屋敷さん。
歓迎会はますますヒートアップ。いや、グダってきた。
酔いが回り、思考能力が落ち、つまらないことを繰り返し言ったり、したり……。
まあ、これが飲み会のあるべき姿と言われればそれまでなのだが。
「あの、獅戸さんは好きな作品とかあるんですか? さっき、自分と同じでアニメとか好きって言っていたんで」
酒が強すぎる陰キャ女、猫屋敷さんが一旦、場を整理するために玲緒奈に話を振った。
さすが猫屋敷さん。やっぱり、最後に頼れるのは猫屋敷さんなのかもしれない。
「あー、『たびっこ』とかアツいよな」
「『たびっこ』面白いですよね。最近、劇場版やっていますよね。行かれました?」
「あー、行ったぜ。鷹雄くんとな! なー、鷹雄くん!」
玲緒奈が俺の腕にまたしても絡みついてくる。
サラッと、とんでもない暴露されたのだが。
自然すぎて、一瞬何言われたか気づかなかった。相手が強者すぎて、やられた瞬間すら気づかなかった的な、あれ。
猫屋敷さんは驚きすぎて、アイスのように固まっている。
「え……あ……二人で、ですか?」
猫屋敷さんは何とか言葉を紡いだが、時すでに遅し。
「ああ、二人でだぜ。な、鷹雄くん」
とどめの爆弾が投下され、この場は焼け野原と化す。
そして死体蹴りするように、既に出来上がっている卯月さんが追撃を始める。
「えー、せんぱいと玲緒奈さん二人で映画見に行ったんですかー? あやしいですー! やっぱり、付き合っているんですか! 本当のこと答えてください!」
「だから付き合ってないって! ただ、バイト仲間で映画見に行っただけだって!」
追撃をかわそうとするも、卯月さんは追撃の手を緩めない。
「先輩後輩の関係で映画、普通見に行きますー? それってデートってことですよねー?」
……俺もそう思う。
しかも、あの日のラスト、あんなことがあったから余計にな。
ヤバい。また思い出してしまった。あの日の玲緒奈からのキス。
他意はない。そんなことは分かっているはずなのに、あのワンシーンが脳にこびりついて離れない。
「もう、勘弁してくれよ。付き合っていないのは本当だって」
「疑っていないから大丈夫ですよ、せんぱいっ。だって、もし玲緒奈さんと付き合っていたとすれば、この前私と駅前のK書房に一緒にいったあれが浮気になっちゃいますもんねー」
「へー、ウサギと一緒に駅前のK書房にねー。どういうことかなー、鷹雄くんー?」
おい、別方向から爆弾投下するんじゃねえよ!
もうカオスだよ、修羅場だよ、この歓迎会!
「それは勉強のためだって。卯月さんは本に詳しくないから、色々と本のことを教えるために」
「せんぱいのアフターですっ!」
「おい、アフターとか、変な意味に聞こえるからやめろって!」
卯月さんの心が汚れている気がする。まさか『おぱゆる』を読んだ影響がもう……。
というか、今思ったら偶然の産物とはいえ、新人バイト三人とプライベートで会っているんだよな。
その側だけ見ると、後輩アルバイターに片っ端から手を出す、ゲスアルバイターみたいで嫌だな。
そんなことを考えていたら、その三人目から最後の爆弾が投下された。
「あの……隠しておくのもフェアじゃないんで一応言っておきますけど、私もこの前、鳥越さんと一緒に公園に行ってカフェに行きました」
「ええええええ!」
「おい……マジかよ」
猫屋敷さんの暴露により、卯月さんと玲緒奈は阿鼻叫喚。歓迎会は更なる混沌へと向かう。
「あー、やっぱり浮気してるじゃないですかー!」
「おーい、どういうことかなー、鷹雄くん?」
両隣にいる新人バイト二人から、両腕を引っ張られる。
痛い、痛い……身体も心も。
……というか、誰とも付き合っていないのに浮気ってワードおかしいだろ!




