第28話 カンガルー書店七姫店の歓迎会②
「獅戸玲緒奈だぜ。よろしく~」
「初めまして、卯月兎紗梨です!」
「……ね、猫屋敷宮緒……です」
ようやく新人バイト三人が揃い踏みした。
三人が揃っているのを見ると、別作品のキャラが同じ画面に写っているようなスペシャル感があって壮観だ。
こうして一同は会場である玲緒奈が以前、働いていた居酒屋『肉華族』に向かう。
早くも玲緒奈と卯月さんは打ち解けていたようで、横並びで歩いてまるで長年の友人みたく自然な会話を展開している。
陽キャ同士の距離の詰め方早すぎるだろ。その勢いだと、人類皆友達になれそう。
……一方で、猫屋敷さんは会話に参加することなく、相変わらず俺の袖をつかみ続けている。 流石は猫屋敷さん。期待を裏切らない、安心安全の陰キャクオリティだ。
そうだよな。初対面の人とすぐ仲良くなるのなんて無理だよな。気持ちは痛いほど分かるぞ~。
と言っても、この回ばかりは少しでもいいので、二人と心開いてもらえると嬉しい。二人はいい奴なのは間違いないからな。ベテランアルバイターからのお願いだ。
俺はなんとなく、前を歩く二人の会話に耳を傾ける。
「卯月兎紗梨って言うのか~、ウサギみたいだな」
「はいっ! 子どもの頃はよくウサギって呼ばれていましたよ~」
「ほへー、んじゃあ、うちもウサギって呼んでいいか?」
「はいっ、もちろんですよ! 逆に私はなんて呼べばいいですか?」
「玲緒奈でいいぜ」
「じゃあ、玲緒奈さんで」
「さんもいらねえけどな」
「えっ、でも年上ですよね?」
「ああ、多分そうだけど。ウサギは何歳だっけ?」
「先月、二十歳になったばかりです!」
「おー、二十代の仲間入りだな。逆にうちはいくつだと思う?」
「えー、どうでしょう……。二十二歳くらいとか……ですか?」
「惜しいな。二十四だぜ」
「あー、そうなんですね。じゃあ、お姉さんだ」
「何か嫌なことされたら、お姉さんに言うんだぜ」
「嫌なこととか何かあるんですか―?」
「特にアイツには注意しろよー。セクハラとかあるかもしれねえぞー」
玲緒奈が後ろを振り向き、意地悪な笑みを俺に向けてきた。
……急に俺の話題を出したと思ったら、なんてこと言ってるんだ。
「えー、せんぱいー、そういうタイプなんですかー?」
「そんなわけねえだろ。俺がいつ、きみたちにセクハラしたって言うんだよ!」
「あっ、そういえば、初日にせんぱいの車に連れ込まれました!」
「はあ! 何言ってんだ! それは卯月さんが、道に迷ったから――」
「ほう……それは大問題だな。詳しく聞かせてもらおうか、鷹雄くん?」
「やめろ! 詰め寄ってくるな、玲緒奈!」
「えっ、待ってください。なんでせんぱいと玲緒奈さんは下の名前で呼び合っているんですか? もしかして、お付き合いしているとか……」
「してねえよ!」
あー、もうめちゃくちゃだよ。
普通に考えれば、一対一でも対応に苦労していた女子たちが、二人も三人も同じ空間に居るんだ。そりゃあ、そうなるか。
……なんだか猫屋敷さんの袖をつまむ力がどんどん強くなっている。
気づくと、猫屋敷さんはなぜか俺を夜の猫のような鋭い目で俺を睨んでいた。
「と、とにかく行くぞ、居酒屋に!」
七姫駅から徒歩五分圏内の駅ロータリーに面した場所に、目的地である居酒屋『肉華族』があった。
『肉華族』は、雑居ビルの地下にあるらしく、俺たちは狭い階段を、身を寄せながら降りていく。繁華街の雑居ビルの地下って普通に怖いからなんか抵抗あるんだよな。そんなことを思うのは陰キャだからだろうか。
目の前で横歩きしている卯月さんと玲緒奈は何の躊躇もなく、ルンルン気分で下っていく。これだから怖いものなしの陽キャは。
対して、猫屋敷さんは警戒心を持っているらしく、恐る恐るといった風に階段をゆっくり下っていく。それでこそ、陰キャ女子日本代表、猫屋敷宮緒。期待を裏切らない。
そうこうしていると、入り口の前に来た。扉の上には、よく広告で見るおなじみの赤文字ででかでかと『肉華族』と書かれた黒看板が立てつけられている。
さすがは一流店。広告すら出せない我が弱小書店『カンガルー書店』とはえらい違いだ。
しかし、初めて入る扉の前ってどうしてこう嫌な緊張をしてしまうのだろうか。今や第二の実家のような『カンガルー書店七姫店』も、面接のとき初めて来た時は心臓が破裂するかと思った。
これも陰キャのみにしか反応しない現象なのだろうな。まさに陰キャ版モスキート音だ。




