第27話 カンガルー書店七姫店の歓迎会
いよいよ、この日が来てしまった。
時は第四水曜日。
カンガルー書店七姫店の世にも珍しい歓迎会の日である。
そしてこの日ついに、新人バイト三人が一堂に会するのだ。同じ作者の別作品のキャラが共演する並のワクワク感があるな。
現時刻は集合時間である午後五時三十分。
……が、集合時間になっても、集合場所である七姫駅のコンビニ前には猫屋敷さんしか来ていなかった。
その猫屋敷さんはというと、白レースドレスを着飾っている。髪をおろして眼鏡もかけていない、猫屋敷さんオフの姿である。誰がどう見ても、超絶清楚系美少女だ。
そうこうしている間にも、二人は来ない。
三人中二人が遅刻確定という結果に涙を禁じ得ない。この新人バイトの社会不適合加減に頭を抱えてしまう。……この先、カンガルー書店七姫店はやっていけるのだろうか。
唯一、時間通りに来たのが猫屋敷さんという、元引きこもりの子が一番社会適合しているという何とも皮肉な結果になってしまったのも頭を抱えるしかない。
「……ど、ど、ど、どうしたんでしょう? き、き、き、来ませんね」
その唯一の良心である猫屋敷さんも、顔が青ざめ身体は小刻みに震えていた。
……そうか、猫屋敷さんにとっては卯月さんと玲緒奈は今日が初対面なのか。
元引きこもりの人見知りにとっては、二人も初対面の人が居るなんていうのは、災害級の怖さであろう。
「そんな緊張しなくていいよ。俺がついているから」
これ以上怖がらせないように、猫屋敷さんの肩をさする。
「みゃあ……」
猫屋敷さんは安心したように、気持ちよさそうに鳴いていた。……可愛いな、ちくしょう。
「しかし、本当に来ないなあいつら。何してんだ」
方向音痴の卯月さんに、時間にルーズな玲緒奈。
なんとなく理由は察しているが……。
とりあえずラインのトーク画面を開く。すると、案の定、まだ来ていない二人から連絡が来ていた。
《卯月兎紗梨:せんぱーい、助けてくださーい! 完全に迷っちゃいましたー!》
《卯月兎紗梨:(泣いているウサギのスタンプ)》
《れおたん☆:あと、十分くらいでつくわ》
うーん、この。
まあ、正直読めてわいた。
だからこそ、予約時間である午後六時の三十分も前に集合時間を設定したのだ。居酒屋までここから徒歩十分圏内と考えると、かなり早い時間。
玲緒奈は勝手に来るとして、優先すべきは当たり前のように迷っている卯月さんだ。
というか、ネットが発達している現代で、どうしてこう簡単に迷ってしまうのだろうか。逆に迷う方が難しい時代だろ。
《卯月さん、今どこにいるか分かる?》
《卯月兎紗梨:なんだか美味しそうなケーキやパンが売ってますー》
《駅のデパ地下だな》
《卯月兎紗梨:多分そこですー(泣)》
なんで駅前のコンビニじゃなくて、駅のデパ地下にいるんだよ。
卯月さんの思考回路に頭を抱えながら、返信を打つ。
《近くにエスカレーター無いか?》
《卯月兎紗梨:あっ、ありました!》
《昇ったところで待ってて。迎えにいくから》
《卯月兎紗梨:はーい》
《卯月兎紗梨:(敬礼ポーズをするウサギのスタンプ)》
だから、なんであなたは気楽にスタンプなんて送っているですかね~。迷っている自覚、あります?
「なんか一人、迷っちゃったみたいで。迎えにいくから、ついてきて」
「は、はい」
卯月さんを迎えに、駅に併設されているデパートに向かう。向かう中、猫屋敷さんは俯きながら、俺の服の袖をつまんでいる。
本当に大丈夫か、この子も。
迷っている子に、怯えている子に、平然と遅刻している子。それを世話するベテランアルバイター俺。
カンガルー書店じゃなくて、カンガルー保育園に改名した方がいいのではなかろうか。
「あっ、せんぱいだ! やっと会えました~」
よほど会いたかったのか、卯月さんは俺の姿を見るなり、脱兎の如しスピードで俺の腕を思いきり抱きしめてくる。人通り上限突破の通勤ラッシュの七姫駅で何してんねん!
むにゅっ、という柔らかい感覚が一瞬のうちに脳に伝わってくるので、良しとしよう。
その様子を猫屋敷さんが険しい表情で見ている。そりゃあ、こんなふしだらな行為を公衆の面前で晒していたら、気分を害するわな。
卯月さんは猫屋敷さんの姿に気づき、挨拶を始めた。
「あっ、初めまして、新人の卯月兎紗梨って言います!」
卯月さんは当たり前のスキンシップと言い張るように、猫屋敷さんの手を握った。
まるで卯月さんの手に電流が走ったように、猫屋敷さんは手を握られた瞬間ブルブル震え、拒否反応を示していた。
そりゃあ、最近まで引きこもりだったやつに、こんな欧米みたいな挨拶したらこうなるだろうよ。人と仲良くなるのに一ヵ月はかかる人種だぞ。
「……みゃあ……猫屋敷宮緒……です」
「みゃあだって! 可愛いですね、猫屋敷さん!」
おまかわだぞ、卯月さん。
それにしても可愛いと可愛いの、夢の競演。SNSだったらイイね百個あげてる。
玲緒奈と合流するために、再び二人を連れて本来の集合場所である駅前のコンビニに戻る。
そして、集合時間から十五分経った、五時四十五分にようやく彼女が現れた。
「うぃーす。ヒーローは遅れて登場するってな」
「いい風に言うな! ただの遅刻だからな!」
玲緒奈が合流する。
ここでようやく、新人バイト三人が勢ぞろいしたのであった。




