第23話 獅戸玲緒奈とのプライベート
「ういー、鳥越くん、お疲れー」
「お、お疲れ」
シフト終わり。
今日のパートナーであるお姉さん系新人バイトこと獅戸さんが、俺に労いの言葉をかけてくる。……これ毎回言っている気がするけれど、どっちが先輩だよ。
初日、俺の目の前で着替える、という凶行を始めた獅戸さんも、反省したのか、今日はちゃんと更衣室で着替えていた。……当たり前の話だけどね。
「そういやさ、打ち上げの話、前の店長に話したらさ」
「うん」
「割引してもらえることになりましたー!」
「よっしゃー!」
深夜テンションで盛り上げる俺たち。持つべきものは前職居酒屋の新人バイトだ。
「あと五日寝ると打ち上げだー♪」
「あといくつ寝るとお正月みたいに言わないで」
「いやー、ガチで楽しみだな、打ち上げ」
「確かに。うちの職場、そういうこと滅多にやらないからワクワクするね」
「鳥越くんは飲めるの?」
「いやー、実は苦手で。一杯でも飲むと、もうキツイね」
「うちが酒の飲み方教えたるぜー」
獅戸さんはそう言いうと、腕を俺の方に回してくる。……俺は地元のツレちゃうぞ。
「そういやさ、前の店長が、いつくらいに来るか知りたいって。何時集合なん?」
「あー、そういえば考えていなかったな。逆に相場は何時くらいなの?」
「えー。そりゃあ、他の人の都合にもよるけど、うちが働いていた感覚からすると、仕事終わりの七時くらいからじゃね」
「まあそうだよね。俺たちは仕事終わりでもないし、少し早めの六時とかからにしようかな」
「おけまる水産。んじゃ店長に言っておくわ」
言うが早いが。獅戸さんはデコレーションがついたド派手のスマホを開くと、とんでもないスピードで操作する。
「よしっ、言ったぞ」
「早すぎるだろ……」
「なあなあ、鳥越くん。映画のこと覚えてる?」
「うん。『たびっこ』の劇場版でしょ?」
「そうそう。今度行こうってなってたけど、歓迎会の話でなんかうやむやになったじゃん」
「そーいえば、いつの間にか話題から消えてたな」
「だから、明日行こうぜ」
「明日⁉ 随分急だな」
どうしてこう陽キャというのは即断即決即行動するんだよ。人生長いんだからゆっくり行こうぜ。
「シフト表見たら、明日ちょうどうち達、休みじゃん? だから、行けんじゃね」
「確かに……ちょうど二人とも休みだわ」
「だろ! こりゃあ行くしかねえな。おっ、明日空いてんじゃん。二人分、予約しておいたぞ。いやー、楽しみだな映画」
「マジか……」
どうやら、俺の明日の予定が既に決まってしまったらしい。
決断からの行動が早すぎるだろ、この陽キャ姉さん。
「んじゃ、明日に備えてクソして寝ろよ」
「レディーがクソとか言うな!」
☆
そして翌日。
昨日獅戸さんが予約した映画館の最寄り駅に向かっている。玲緒奈が予約してくれた映画館は、七姫駅から数駅先にある隣町の映画館だ。
暫く待っていると、パンツが見えそうなくらい短いレザーショートパンツと、へそが出ている丈が短いモノトーンのカットソーを着こなし、ニット帽とサングラスをかけた、どっかのモデルのような人が近づいてくる。
この人が、陰キャアルバイターである俺の待ち合わせ相手であるって言ったら、果たして何人の人が信じてくれるのだろうか。
「ういっす」
「おはよう」
周囲の視線を一身に受け、獅戸さんがやってくる。そりゃあ、こんな格好をしていたら、どこぞの芸能人だと思われるよな。
「ねえ、時間見てよ」
「見たけど、何か?」
「ピッタリだろ!」
そういえば珍しく獅戸さんが定刻通りにやってきた。
「で、それがどうしたの?」
「凄くね? うちが時間ピッタリにやってきたんだぞ!」
「そりゃあ、まあ」
「褒めてくれよ」
「いや、当たり前だから!」
「ちぇっ、ケチだなぁ」
不良が普通のことをしただけで褒められるみたいな現象、認めねえから。普段から遅刻しない人の方が偉いに決まっているだろ。
しかし、なんてまあ露出度の高い服装だよ。へそに太ももに……これ公然わいせつ罪につま先だけ突っ込んでいるだろ。
その刺激的な服装に、待ちゆく男どもが獅戸さんに釘付けになっている。甘い蜜に寄ってくるカブトムシか、きみたちは。
「……さっきからへそと太もも見てるの分かってるからな」
「うぐっ」
良い子のみんな! 女の子の身体をジロジロ見ているの、バレているみたいだぞ! 注意せよ!
「別に見ていいぜ。減るもんじゃねえし。ほらー」
獅戸さんは服をめくりあげて、よりへそを強調して見せてくる。
これ公然わいせつ罪に両足突っ込んでるだろ!
「すまなかったって! だからしまってくれ!」
「しまえねえんだわ、もともとへそ出しのやつだら」
「そうでした!」
そんな際どいことを朝っぱらから言いながら、俺と獅戸さんは横並びで映画館に向かう。




