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第21話 卯月兎紗梨とのプライベート

 K書房。

 店舗数、全国各地に百店舗以上。ほとんどが駅前の一等地に店舗を構える。ハイセンスな店内と、工夫されつくしたポップの数々、斜陽産業である書店において一人勝ち状態のキングオブキング書店である。


 駅ビルの五階という神立地にある、そんなK書房七姫駅前店に、妹系新人バイトこと卯月兎紗梨と二人で来ている。


「うわー、広いー! うちのお店と全然違うんじゃないですか!」

「底辺書店のうちと比べるな」

「なんか迷っちゃいそうです」

「おい、やめろ。初日のトラウマ思い出させるな」

「あの時はどうもありがとうございます!」

「まあ、いいけどさ。こっちも卯月さんと一緒に車乗れて嬉しかったし」

「あー。どういうことですかー?」

「あー、何でもない、何でもないから」


 卯月さんご自慢のまん丸お目目をグッと近づけてくる。距離感とか分からないのか、この子は。逆にキスでもして分からせてやろうか。


「じゃあ、流行りの作品教えてくださーい」


 そういえば、今日の目的はそれだった。卯月さんの一挙手一投足が刺激的過ぎて、頭から吹っ飛んでたわ。


 適当に店内を練り歩いていると、アニメ映画のポスターが目に留まる。


「このポスターあるじゃん」

「はい。なんかカッコイイキャラクターがいっぱいいますね~」

「その反応を見ると、本当に知らないんだね」

「……はい」


 口をとがらせてシュンとする卯月さん。この子はどうしていちいち仕草が可愛いのだろうか。特殊な訓練でも受けているのだろうか。


「『最強勇者のアカデミー』っていう漫画作品なんだけど、少年誌原作でアニメも五期までやってる子どもから大人まで幅広い支持を受けている流行りの作品だよ。そして今夏、待望の映画化が決まり盛り上がりが加速しているんだ」

「へー。すごーい」

「今の漫画界のトップを走っている作品の一つだよ。正直、書店員でこの作品知らないの、日本中探してもきみくらいだと思うんだけど」

「むうう。そんな意地悪なこと言わないでくださいよー」


 卯月さんは甘ったるい声で俺の背中をポカポカ叩いてくる。そこらへんのマッサージ機よりよっぽど気持ちいんだが。


「ほら見て、エンドに『最強勇者のアカデミー』が最新の20巻までずらりと並んでいるでしょ?」

「わー、たくさんー。で、エンドって何ですか?」

「エンドって言うのはね、この棚みたいに通路側に設置されている棚のことだよ」

「あー、なるほど」

「……本当に分かった?」

「え……あははは」

「……ま、まあ、そのうち分かってくるようになるよ。それでだ、エンドは通路側にある関係上、普通の棚よりも多くの人の目に留まる傾向がある。だから、エンドには売れ筋商品を置くのが定石なんだ」

「へー。勉強になります。教えてくれてありがとうございますっ、せんぱいっ」


 そう言って、卯月さんは鞄からメモを取り出し書き込んでいる。この子は本当に真面目だよなあ。これだけ真面目だったらいずれ仕事が出来るようになるさ。


 この後、いくつか売れ筋の漫画を卯月さんに紹介して、次にラノベコーナーに案内する。


「ここがライトノベルコーナーだ」

「ライトノベルって……なんでしたっけ……えーと……あっ! そうだ! なんか楽しそうな小説のことですよね!」


 メモを見直し、出た言葉がそれ。

「楽しそうな小説」ねえ。めちゃくちゃな言葉だが、案外理にかなっていると思うのは俺だけだろうか。なんかバカほどこの世の真理に近づく、的なあれ。


「やっぱり、今はこの『ゼロの転生』って作品が、まあ勢い凄いね。めちゃくちゃ面白いから、売れている理由は分かるよ」

「へー。『ゼロの転生』ですね。メモメモ」

「いやー、『ゼロの転生』って本当に凄くてさ。異世界転生ものなんだけど、普通異世界転生モノって、チートやハーレムがあるじゃない。でも、この作品にはそれが一切ないの。本当にご都合主義が無いというか……もうリアルなんだよ! チートハーレム無しという定石を外して、これだから凄いんだよなあ」


 卯月さんは俺に力説にポカンとしている。頭にクエスチョンマークが大量発生している。

 ……ヤバい。つい、ノンオタクの卯月さんにオタク特有の早口を披露してしまった。


「……よく分からなかったですけど、なんだかすごいということだけ分かったので良かったです」


 そのKONAMI感やめてくれ。変に気を遣わせて申し訳ないよ。好きな作品やキャラを熱く語りすぎて変な空気になる。これオタクの悪い癖ね。

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