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第20話 猫屋敷宮緒とのプライベート②

「鳥越さんはこの後また散歩するんですか?」

「もうちょっとするかな。最近太ってきちゃって」

「そうは見えませんけど」

「そう言ってもらえると嬉しいんだけど、体重計は誤魔化せないんだよ」

「なるほどです。私も暇なんで一緒に散歩しても良いですか?」

「うん。いいよ」

「ありがとうございます」


 猫屋敷さんと園内を横並びで歩く。もうさすがにデート認定していいだろ、これは。


「そういえば、『優ギャル』覚えてます?」

「うん。そりゃあね。お客さんに場所聞かれて、ベテランの俺が分からず、新人の猫屋敷さんが分かって、プライドをズタボロにされたあのタイトルね」

「そこまで言いますか? あれ、なんで分かったのかというと、最近読み始めたタイトルだったからなんですよ」

「そうだったんだ」

「つい最近二巻が発売されたばかりの新作なんですけど、面白いですよ」

「それって百合なの?」

「違いますよ。普通にラブコメです」

「猫屋敷さんは、百合じゃなくても大丈夫なタイプなんだ。ほら、百合好きの人って百合以外認めん! みたいなタイプも多いじゃない?」

「そうかもしれませんけど、私は普通にラブコメもいけるクチです。何ならBLも」

「すげえ。ハイブリッドオタクじゃん」


 猫屋敷さんはオタク度で完全に俺を超越しているんだよなあ。猫屋敷さんを見ていると、俺はまだまだライト層であることを痛感してしまう。


「鳥越さんはラブコメ大丈夫ですか?」

「むしろ大好物です」

「『優ギャル』貸しましょうか? 今ちょうど、持ってきているので」

「え、いいの?」

「はい。今度聞かれたらちゃんと答えられるようにした方がいいですよね」

「うぐっ。こりゃあ一本取られた。ありがたく借りさせていただきます」


 猫屋敷さんは近くにあったベンチにリュックを置き、ガサゴソと中を探る。

 そしてカバーが付いている小説を俺に手渡した。


「あ。うちの店のカバー。本当に常連さんなんだね」

「いつもお世話になってます」

「きみはもうお世話する側なんだよなあ」

「読んだら感想聞かせてください」

「分かった。ありがとね。あ、来週の歓迎会場所決まったよ」

「どこですか?」

「七姫駅前の『肉華族』。知ってる?」

「はい。この前、家族で行きました」

 あなた、まだ二十歳になって一、二か月しか経ってないだろ。多分、居酒屋経験値でもう俺を越している。


「そこになったよ」

「楽しみです」

「じゃあそろそろ」

「はい。お疲れさまでした」

「お疲れ~」


 こうして猫屋敷さんと別れた。

 猫屋敷さんと休日の公園でばったり出くわし、デートまがいなことをする。なんとも有意義な時間を過ごすことができた。


 ☆


 自宅に戻り、猫屋敷さんから借りた『優ギャル』を熟読する。なんだこれ、めっちゃ面白いじゃん。古より伝わる至高のジャンル『オタクに優しいギャル』。これだけでも最高なのだが、ストーリーの面白さ、会話のテンポ、心情描写、どれをとっても一級品だ。


 こんな素晴らしい作品を勧めてくれた猫屋敷さんに早くお礼が言いたいのと、感想を伝えたいので、衝動的にメッセージを送った。


《今日は偶然だったけど、一緒にいてくれてありがとう! 『優ギャル』読んでるよ! めっちゃ面白い!》


 すぐに猫屋敷さんから返信が返ってくる。


《猫屋敷宮緒:こちらこそありがとうございました。ですよね。どこまで読みましたか?》

《ヒロインの時子が実は過去に主人公と接点があったことが明らかになったところ》

《猫屋敷宮緒:あー。そこですね。そのシーン、初めて時子視点から語られるじゃないですか?》

《うん》

《猫屋敷宮緒:そこで初めて時子の想いが語られるのですが、ここがエモいですよね》

《そうなんだよね。主人公視点の描写的に時子はいわゆる典型的なギャルだと思ったら、ここまで優しい気持ちを持っていたなんてね》

《猫屋敷宮緒:これがタイトル回収ってやつですよ!》

《作品の良さってタイトル回収で決まるみたいなところあるからね》

《猫屋敷宮緒:ですです》


 オタク特有のディープすぎる会話が出来ることに、喜びを覚える。猫屋敷さんという同士に出会えたことを誇りに思う。


 猫屋敷さんと『優ギャル』の感想を言い合っていると、ポン、と違う人からメッセージが届いた。

 送り主は卯月さんだ。今日はシフト入っていたのではなかったっけ、と時間を見ると業務時間の十時十五分を過ぎていた。


《卯月兎紗梨:せんぱーい、やっと終わりましたよ。店長に聞いてみたら、歓迎会は『勝手にやってくれ。私は睡眠で忙しいんだ』って言ってました》


 さすが店長! 俺たちの期待を裏切らない! そこにシビれる! あこがれる!


《ほら、俺の言った通りでしょ》

《卯月兎紗梨:ですね(笑) せんぱーい、ちょっと相談があるんですけどー》

《どうした?》

《卯月兎紗梨:今日店長に、仕事が出来ないのは新人だから仕方ないとして、本の知識が無さすぎるからせめて小説や漫画の流行りものだけでも抑えておいてって言われちゃったんですよー》

《そうなんだ。頑張れ》

《卯月兎紗梨:薄情ですよ、せんぱーい(泣) 助けてくださいよー(泣)》

《卯月兎紗梨:(お願いするウサギのスタンプ)》

《助けてって言われてもなー》

《卯月兎紗梨:いいこと考えました! せんぱいに教えてもらえばいいんだ!》

《どういうこと?》

《卯月兎紗梨:明日のお昼ごろ、暇です?》

《暇だけど》

《卯月兎紗梨:七姫駅前に大きな本屋さんありましたよね? そこに行って、流行りの本教えてくださーい(笑)》

《そういうことか。明日、午後4時からシフト入っているから、それまでなら!》

《卯月兎紗梨:オッケーです。私は午後3時から授業が入っているので、それまでなら(笑)》

《誘った方が、空いている時間少ないってどういうことだよ(笑)》

《卯月兎紗梨:学生ですもん(笑)》

《ですよね(笑) じゃあ、明日12時に七姫駅前のコンビニ前集合で!》

《卯月兎紗梨:明日12時七姫駅前のコンビニ前集合ですね! らじゃーです! じゃあ、明日は楽しみにしていますよ、せんぱーい》


 どういうわけか、明日、卯月さんと会うことになった。

 本屋に行って実際に本を手に取りながら、流行りものを教えるということらしい。

 なかなか面白そうな予定が入ったことに胸を膨らませつつ、溜まっていたアニメを消化して、充実な休日を過ごしだのであった。

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