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第10話 CASE3、おしとやか系陰キャオタク新人バイトちゃん・猫屋敷宮緒の場合

「おはようございます、鳥越さん。寝不足ですか、目のクマひどいですよ」

「まあ、なんとか……」

「今日が最後の新人バイトですね」

「だねー」


 初日、一人目の新人バイト卯月さんと車で一緒に帰り「なんでも言うことを聞く」と言われる。

 二日目、二人目の新人バイト獅戸さんの下着姿を見る(見せてくる)。


 しがないDTアルバイターに、この二日間はキャパオーバーである。コンピューターだったら、とっくに熱暴走してるよ。


 そして三日目の三人目。しょっぱなから嫌な予感しかしない。


 が、何のデータも見ずに、そんな偏見は良くない。

 俺はいつもの如く、履歴書に目を通す。

 三人目の名前は、猫屋敷宮緒ねこやしきみやおさん。20歳の女性と。

 当たり前のように三人目も若い女性とか、これ店長絶対やってるわ。……でも俺に任せているんだよな。

 これ、あれか? 最近流行りのアテンドってやつ? 彼女いない歴年齢陰キャアルバイターにアテンドして、どうするんだって話だけど。


 20歳となると、卯月さんと同い年か。

 でも学歴見ると高卒で、大学へは通っていないみたいだ。職歴も無しか……。備考欄に店長の文字で『一年間引きこもっていた』と書いてある。うーん、不安すぎる……。

 ま、でもやるしかない。教育係だからな、俺は。

 開き直りの精神で、気合を入れる。


 あれ……? それにしても来ないな。

 時計の針は始業時間を指している。

 獅戸さんの一件が脳裏をよぎる。


「……あの……その……おは……よぅ……ご……す」

「うん? どこからか声が聞こえたような……」

「…………後ろです」

「ふぉわあああっっっ‼」


 背後にはいつの間にか少女が立っていた。

 目元まで覆う長い黒髪を三つ編みで結び、黒縁メガネをかけている。身長は女性にしては高く、すらりとした華奢なシルエット。控えめで大人しそうな印象を受ける彼女は、古き良き大和撫子を彷彿とさせる。

 どうやらこの子が、三人目の新人バイト・猫屋敷宮緒さんらしい。

 常に顔は自信なさげに下向き。緊張しているのか身体は小刻みに震えている。


「……すみません」

「いえいえ。初めまして、教育係の鳥越鷹雄です」

「猫屋敷……宮緒……で……す」


 今にも消え入りそうなくらい、細々とした声。隠しきれない陰のオーラ。

 なるほど……一年間、引きこもっていたという情報から、なんとなく察してはいたが……。

 きみは“こちら側”の人間のようだ。歓迎するよ、猫屋敷さん。


 しかし、どこかで見たことあるんだよなあ……。


 あ、思い出した。


「もしかして、うちのお店よく利用してくれたかな?」


 そう。我が店の貴重な常連さんだ。主にラノベや漫画を買っている。いつも自信なさげに俯いているが、お買い上げいただいている作品は「この作品買うとは、きみ分かっているね~」と称賛したくなるほど自信に満ち溢れている素晴らしいラインナップだから、よく覚えている。    

 好きな作品がわりと被っていて、思わず話しかけたくなるが、毎回、帰宅RTAにでも挑戦しているのか、と思うくらい、会計終わった瞬間に商品を抱えダッシュで帰るから、話しかけようにも話しかけられない。


 バイト仲間となり、正々堂々とお話しできるのは僥倖なのかもしれん。


「猫屋敷さん、支給された制服を着てもらえるかい」

「はい……」


 一旦、猫屋敷さんは更衣室にログイン。当たり前だけど、普通は更衣室に入って着替えるよな。やっぱりあいつ(獅戸さん)はどうかしている。


「鳥越さん、今日も俺、売り場ですか?」

「うん、一旦ね? 一旦だよ。ここ重要だから」

「じゃあ、先行きますね」

「おっけい」


 鹿島くんが売り場に出向くと、それと入れ違いで制服に着替え終わった猫屋敷さんが出てきた。

 馬子にも衣裳、というやつだろう。エプロン姿の猫屋敷さんは立派な『カンガルー書店』の書店員だ。

 だが、衣装でもごまかせないくらいの陰のオーラ。緊張やら恐怖で身体はおばあちゃんみたいに縮こまり、なんか呪詛みたいなものが聞こえる。俺もなかなかの陰の使い手だが、勝てる気がしない。

 ……この感じで接客ができるか、と聞かれたら、正直厳しいだろう。

 なんでそう決めつけるかって。


 俺がそうだったからだ。

 ワケあって、猫屋敷さんと同じく引きこもっていた俺は、バイト初めて数日はまともに声を出せなかった。今思えば、先輩たちにめちゃくちゃ迷惑をかけていた。


 だから猫屋敷さんの今の姿は、引きこもっていた、という同じ境遇から昔の俺と重なって見える。

 新人時代の俺は先輩にたくさんお世話になった。そのお世話になった分を、猫屋敷さんに返すんだ。


「売り場に行こうか、猫屋敷さん」

「……みゃあ」


 もはや返事にもなっていない。

 ……カッコイイことを心の中で宣言してしまったが、やっぱり不安だ。


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